第49話 ノワリクトの醜き業(後編)
第五章:禁止惑星 『バルエクス』戦争編
香り高い湯気が、テーブルの上にふわりと広がった。
ルクスが軽快な手つきで淹れた紅茶を一人ひとりの前に置いていく。ナコは震える手でカップを取り、そっと口をつけた。落ち着いた香りと温かさが、乱れていた心を静かに鎮めていく。
「複数同位体を作る実験……やっぱり結晶体の力を使っているのか?」
コルトが低く問いかけた。
「そうだ。お前たちも見たはずだろう。リムスタングでドギガイズが結晶体の力を直接取り込んで怪物化しようとした姿を」
ヒューベルトの声が重く落ちる。
「じゃあ……」ミルトが言いかけると、ヒューベルトが答えを重ねた。
「バルエクスの監獄塔中央部に、白の結晶体は鎮座している」
「……ちょっと待て」コルトが眉をひそめる。「ノワリクト政府が結晶体の力を使って実験しているのなら、なぜあの時、エリムスは『最後の結晶体がバルエクスにあるらしい』なんて曖昧な言い方をしたんだ? まるで存在を知らないみたいじゃねぇか」
「……そうか。お前たちはまだ知らなくてもおかしくはないな」
ヒューベルトは一度息をつき、低く言葉を紡いだ。
「エリムス……やつは今、単独で動いている。それに、やつもまたノワリクト銀河政府から銀河指名手配をかけられているんだよ」
「な、なんだとっ! なぜだ?」コルトが思わず身を乗り出す。
「さあな。そこまでは知らん。ただ、罪状は『禁書盗難共謀疑い』だったがな」
「共謀……? 禁書? ジャコウと繋がっているのか?」ミルトが眉を寄せる。
「いや、あいつは『ジャコウが現れないのが残念』とも言っていた。……どういうことだ」コルトが唸るように答えた。
「詳しいことはわからない。ただ一つ言えるのは、エリムスもまた結晶体を狙っているということだ。俺はしばらくやつの動きを追っていた。化学部門統括という立場にあったやつなら、どこかから結晶体の情報を仕入れていてもおかしくはない」
ヒューベルトは一瞬言葉を止め、わずかに目を伏せる。
「それに、やつは俺と同じ……」
「なんだ?」コルトが問い詰める。
「いや、なんでもない。忘れてくれ」
空気に沈黙が落ちた。だが次の瞬間、イクサが睨みを利かせながら声を荒げる。
「なあ。あんたは何でそんなにバルエクスに詳しいんだ? 政府の実験も結晶体の位置も、監獄塔の中のことまで知りすぎてる。白キ戦艦のキャプテンだから情報が集まる……なんて誤魔化しは通じねぇぞ」
「それはっ」ルクスが慌てて口を開こうとしたが、ヒューベルトは手で制した。
ゆっくりと視線を上げ、静かに言い放つ。
「俺が……バルエクスの監獄塔の出身だからだ」
その言葉に、場が凍りついた。コルトも、ミルトも、ナコも、誰一人声を発せない。
「なっ……」
コルトの喉がひくりと動いた。
「単純な話だろう。俺は監獄塔に囚われていた。だから内部の情報を知っている。当然のことだ」
ヒューベルトの声音は淡々としていたが、そこには深い影が宿っていた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。監獄塔に囚われていたって……どういうことだ?」
ハリーが息を呑みながら問いかける。
「手短に説明しよう……あれは十五年前のことだ」
第50話『ヒューベルトの過去ー十五年前ー(前編)』に続く。




