第48話 ノワリクトの醜き業(前編)
第五章:禁止惑星 『バルエクス』戦争編
エレベーターが音もなく止まり、扉が左右に開いた。
そこに広がっていたのは、白キ戦艦の中でも特に重厚な雰囲気を纏った一角だった。
正面に伸びる通路の先、二人の屈強な警備兵が立っている。視線が一行に注がれると、空気が一瞬張り詰めた。
「……キャプテンから聞いています。どうぞ」
無駄な言葉はなく、兵たちは直立したまま通路を開けた。
扉が開かれると同時に、ひときわ冷たい光が視界に流れ込む。
そこは、壁一面に巨大なホログラム映像が投影され、隣には大型のモニターが据えられていた。
長い楕円形の机と、そこに沿うように配置された椅子。各席の前には端末が整然と並び、まさしく作戦会議のための場所となっていた。
奥の席に、白キ戦艦を束ねるキャプテン――ヒューベルトが腰掛けていた。海賊帽を被り、落ち着きと威厳を放つ姿、その横にはまだ幼さを残す少年ルクスが座っている。さらに広い机には三人の人物がすでに着席していた。
「落ち着いたか?」
低く響く声が、静寂を切り裂いた。ヒューベルトの眼差しは真っ直ぐにナコたちを射抜く。
「ああ。アゲハの命を救ってくれてありがとう。それに、リムスタングでもグリムジャガーでも、あんたらがいなかったら正直危なかった。改めて感謝を述べさせてくれ」
コルトが一歩進み出て頭を下げる。
「気にするな。利害が一致しただけだ」
ヒューベルトの声には揺るぎがなかった。
「利害……か。だが、あんたらの目的はまだ見えてこねぇ。結晶体に興味があるわけじゃないんだろ?」
問いかけるコルトに対し、ルクスが場の空気を一変させる明るさで口を挟んだ。
「まあまあ! とりあえず座ってよ、好きなとこでいいから。それと、ここにいる三人は……お偉いさんみたいなもんだけど、気にしないで」
その言葉に、三人の人物が苦笑した。
「十士の一人、ミカエルだ。そしてこっちが」
「ロックだ」
「イリナよ」
「十士……さっきトックスから聞いたな。俺はミルト。こっちがコルト、その後ろがハリー、ナコだ」
一行は席に着き、改めて空気が引き締まる。
ヒューベルトが口を開いた。
「今、この白キ戦艦は禁止惑星バルエクスへと航路を取っている」
「バルエクス……! エリムスが言っていた、最後の結晶体がある惑星か。だが、どうしてだ? それに、あんたらがグリムジャガーにいた理由は?」コルトが身を乗り出す。
「リリークスだ」
「リリークス……銀河中央図書館最高位司書、四人衆の」ミルトが低く呟く。
「あぁ。……バルエクスという禁止惑星がどういう星か、お前たちは知っているか?」
「いや……ジャコウの端末で名前を見た程度だ」
ヒューベルトの声がさらに重みを増した。
「バルエクスは、監獄惑星だ」
「監獄……惑星?」ミルトが問い返す。
「その名の通り、流刑の地だ。ノワリクト銀河政府が完全管理している地獄の惑星。そして惑星統括はリリークスが行っている」
「どうりで……」コルトが言った。「銀河中央図書館に俺たちが侵入した時、姿を現したのはラークラだった。本来ならリリークスの管轄のはずなのに、姿を見せねぇのは妙だと思っていたんだ」
「流刑の地というからには、犯罪者などを収容しているのか?」ミルトの問いに、ヒューベルトは首を横に振る。
「ああ……荒れ狂う岩山が惑星全体を覆い、中央に巨大な監獄塔が建っている。ただし……その塔に囚われているのは犯罪者でもなければ人間でもないがな」
「人間じゃ……ない?」ナコが小さく俯いた。
「だとしたら……」ハリーが言いかけた瞬間、ルクスが遮るように声を上げる。
「複数同位体だよ!」
「……なんだとっ!」コルトたちの目が見開かれた。
ヒューベルトの言葉はさらに冷たく重く響いた。
「ノワリクト政府がレスポリア王国時代から秘密裏に行ってきた闇の実験。バルエクスは、制御不能となり手に負えなくなった複数同位体を、結界を施した地下深くの監獄に収監している」
「でも……失敗作なら、その……廃棄されたりするわけじゃないのか?」ミルトが問いかける。
「簡単なことだ。失敗作といえど、殺すにはあまりに危険すぎる。複数同位体を屠るのに必要な力と犠牲を考えてみるんだな。たとえ倒せても、多大な損失が出るだろう。だから殺さない、だからといって野放しにもできない。――ゆえに閉じ込めるんだ」
ハリーが何かを言おうとした時、ヒューベルトが続けた。
「そして今も、バルエクスでは生物兵器を生み出すための実験が続けられている。成功すれば利用し、失敗すれば監獄に落とす。実験に使われているのは……禁止惑星の住人たちだ」
「な……ふざけんな! 人間をなんだと思ってやがる!」イクサが立ち上がり、机を叩いた。
「そうやって奴らは、このエストリプス銀河で絶大な力を誇ってきた。時には実験用の人間を集めるために他の惑星に攻め込み、ときには複数同位体を使って、敵対する惑星を壊滅させたり、とな」
「……なんてこと……なの」
ナコの顔色が青ざめ、吐き気を覚えたように俯いた。その背をハリーが静かにさすった。
「……ルクス。気分を落ち着ける紅茶を出してやれ」
ヒューベルトの指示に、ルクスが軽やかに立ち上がる。
第49話『ノワリクトの醜き業(後編)』に続く。




