第47話 白キ戦艦の人々
第五章:禁止惑星 『バルエクス』戦争編
白キ戦艦の医療用施設。
アゲハが運ばれてから数時間が経った。待合室には、沈黙の時間が流れていた。
やがて、扉が開く。白衣を着た専属のドクターが姿を現した。
「……容態は落ち着きました。止血も安定していますし、薬剤の効果も出ている。後は安静にして、時間をかけて回復を待つだけでしょう」
「ほ、ほんとに……?」ナコが思わず立ち上がる。
「ええ。命の心配はありませんよ」
その言葉に、全員の顔にようやく安堵の色が浮かぶ。肩にかかっていた重石が、少しだけ外れたようだった。
「……よかった」ナコの瞳から溢れた涙は、今度は安堵の涙だった。
「ブリーフィングルームに向かおう。ヒューベルトに礼も言いたいしな」沈黙を破ったのはコルトだった。
「……でしたら、案内をつけましょう。この白キ戦艦は広大ですから、初めてでは完全に迷うでしょうしね」ドクターがそう言って、手を叩いた。
現れたのは、赤い焔のような髪をした青年。二本の刀を背に負い、端正な顔立ちをしているが、身体のあちこちには無数の傷跡が刻まれている。
「彼はトックス。訓練大好きで、しょっちゅう怪我をしてはここに来る……まぁ常連なんですよ」ドクターが肩を竦める。
「傷は男の勲章だからな! どーよ、この腕の傷、十字になってんだぜ。カッコいいだろ!」
「この通り、少し頭は弱いのですが……まぁ気のいいやつです」
「おいっ、頭は弱くねぇ! ……まぁいいや。ついてきなよ。軽く案内しながらブリーフィングルームまで連れてってやるから」
医療用施設を出ると――視界に広がったのは、まるで一つの都市。
石畳の通り、並ぶ家々、食事処、酒場。行き交う人々の笑い声。
「お、おい……まじかよ。噂には聞いていたが……」コルトが目を見張る。「本当に街がまるごと戦艦の中にあるなんて……」ミルトも息を呑んだ。
「まーな。ここが住民区画。見ての通り、基本はみんなここで暮らしてるんだ。俺んちもあるぞ」トックスが胸を張る。
「すごい……戦艦の中だなんて思えない……」ナコが呟く。
「住民区画以外にも人工畑とか訓練所とか、武器開発区画もある。そうそう、大浴場なんかもあるぜ!」
「風呂か! 最高じゃねぇか!」イクサが叫び、皆が思わず笑った。
「中央部に住民区画、その先、先頭部には重要施設が集中してる。今向かってるブリーフィングルームもそこさ。ヒューさんや戦艦を守る十士、お偉いさんたちの部屋とかがある感じだな」
「ヒューさん?」ハリーが問い返す。
「ああ、キャプテンのヒューベルトさん。俺たちにとっちゃ希望そのものだ。みんな心から慕ってる。ここに住んでるやつらは大体がみんなワケアリだからな」
ちょうどその時、通りを駆け抜ける子供たちの声が響いた。無邪気な笑顔が、この艦の人々の暮らしを物語っていた。
「……そりゃ違法戦艦だから、銀河政府や荒くれ者とやり合うこともある。けどよ……みんな、ここで楽しく生きてんだ」
「っと、ついでだ。これ食ってからいけよ」トックスが屋台を指差し、声をかけた。
「ヒューさんのお客だ、『あつあつコロッケボール』を五つ!」
「あいよ!」おばちゃんが笑顔で袋を差し出す。
「俺のおごりだ。ここのは絶品だから食ってみな」
丸々としたコロッケを口に放り込んだ瞬間、熱々の旨味が口いっぱいに広がった。
「う、うっめぇぇぇ! なんだこれ、何個でもいけんぞ!」イクサが絶叫する。
「ホクホクで、香りも豊かだ……これはノワリクトでも滅多に出会えない」ハリーが唸った。
「お、美味しい……なんだか、心に染みてくる……」ナコが小さく笑った。
やがて通りを抜け、戦艦先頭部の巨大な扉の前に辿り着く。
「ここから先はエレベーターだ。行先を押せばその場所まで運んでくれる。上下左右に移動できる最新型だ、迷う心配はねぇ」
「んじゃ」トックスが手を振る。
「あぁ、案内ありがとな」コルトが言い、ミルトも頷いた。
「助かったよ。少しだが、この艦のことが見えてきた気がする」
「ま、またなんかあったら声かけてくれよ。俺は大体訓練所か……医療室にいるからさ!」
トックスは笑いながら去っていった。
「よし……行くか」
コルトの合図とともに、ナコたちは移動用エレベーターへと乗り込んだ。
第48話『ノワリクトの醜き業(前編)』に続く。




