第46話 白キ戦艦の合流
第四章:禁止惑星 『グリムジャガー』編
エリムスが光の残滓とともに消え去った神殿に、静寂が落ちた。
その静けさを切り裂くのは、嗚咽混じりの少女の声だった。
「アゲハが……アゲハがぁ……」
ナコは崩れ落ちたままのアゲハの身体を必死に抱きしめ、涙で顔を濡らしていた。
「わかってる。すぐに応急処置だ。持ってきてるものでいけるか?」
コルトが振り返ると、ハリーはすでに膝をつき、止血の準備を始めていた。
「まずは止血だ。続けて薬剤を使う……だが、非常に危険な状態だ」
手際よく処置を進めるが、アゲハの体温はじわじわと下がっていく。
「くそ……血が止まらない……!」
ハリーの顔に焦りが走る。
「まずいな。この場にある治療薬じゃアゲハが持たない」
「って言っても、あのくそ巨象のせいで出口に繋がる唯一の通路は瓦礫に埋まってる。すぐにでも小型船に戻り、銀河鉄道まで戻らなきゃならねぇのに……!」
「いやだ……いやだよ……アゲハが、アゲハが死んじゃうなんて……!」
ナコの声が震え、感情が制御できずに溢れ出す。
「くそがぁぁぁ!」
イクサが拳で瓦礫を叩き割り、ミルトが全身で瓦礫を押し崩そうとする。しかし、厚い岩盤の奥行きは深く、道はすぐには見えなかった。
そのとき――。
「ち……しゃあないか」
不意に頭上から声が降ってきた。
「よっ……よっ……よっと」
神殿の上空、破れた屋根の隙間から小さな影が器用に柱を蔦い下りてくる。続いて、もうひとつの影も軽やかに飛び降りた。
影はあっという間に床に降り立つと、場の緊迫をものともせず声を張り上げた。
「はいはーい。どいてどいて」
「君は……」
ミルトが目を見開く。鮮やかな手つきで止血を施し、薬剤を注入していく少年。その確かな技術に誰もが言葉を失った。
すると背後から、もうひとりの声が響いた。
「ま、こんな状態を見ちまったんじゃ、ほっといて帰るのも後味が悪いしな」
コルトたちが振り返る。
「ヒュ、ヒューベルト!」
海賊帽を被った男がそこに立っていた。
「はい、とりあえず止血と応急の薬剤は注入したよ。後は戦艦に戻ってからだね」
少年――ルクスが器材を片付けながら言った。
「それに、ルクス……お前ら、なんでここに」コルトが目を細める。
「はいはい、そういうのはあと、あと。すぐに戦艦に運ばなきゃ。誰か、このお姉ちゃんをおぶって」
「じゃあ、私が……」ナコが立ち上がろうとするが、ハリーが制した。
「いや、ナコ。私が背負う。どうやら柱を蔦って上までいかないといけないみたいだしな」
ヒューベルトが口を挟む。
「屋根を出たところに俺たちの小型艇がある。それに乗って宙域に駐在させている白キ戦艦本体に移動する」
言うが早いか、彼は先頭に立ち、再び柱を登り始める。
「ありがてぇ……感謝する」コルトが低く呟き、「いくぞ。ヒューベルトに続け!」と皆を手招きした。
仲間たちは順番に柱を登り、崩れた屋根の隙間から外へと出る。待機していた小型艇に次々と飛び乗ると、艇は一気に大気圏を突き抜け、宙域へと飛び出した。
眼前に、白く輝く巨体が広がっていく。巨艦――白キ戦艦が、彼らを待ち受けるように浮かんでいた。
艇は吸い込まれるように艦内へ入り、アゲハは即座に医療用施設へと運び込まれる。
搬送の間、ナコはずっとアゲハの手を握りしめ、涙をこらえていた。
その肩に、そっと手が置かれる。
「大丈夫だ。彼女は助かるだろう。安心しろ」
声をかけたのはヒューベルトだった。彼はそのまま足を進め、振り返らずに言葉を続けた。
「落ち着いたら全員でブリーフィングルームまで来い。警備には通すよう伝えておく」
そう告げて戦艦の奥へと消える。その背を追い、軽やかに手を振るルクスの姿が続いた。
ナコたちは祈るようにアゲハの無事を願いながら、医療施設の待合室でしばしの休息をとることにした。
■第五章:禁止惑星『バルエクス戦争編』■
第47話『白キ戦艦の人々』に続く。




