第45話 蒼黒の神殿と動く巨象(後編)
第四章:禁止惑星 『グリムジャガー』編
巨象が粉々に砕け、瓦礫となって崩れ落ちた。
重苦しい振動が止み、広間に一瞬の静寂が訪れる。
「……やったのか」
イクサが息を荒げながら呟く。
「ふぅ……なんとか……生き延びたな」ハリーが肩で息をし、銃を下ろした。
ナコも魔杖銃を抱きしめ、胸を上下させる。だが安堵の吐息を漏らした次の瞬間――。
乾いた音が広間に響きわたった。
パチ……パチ……と、誰かがゆったりと手を叩く音。
瓦礫の隙間から現れたひとつの影が、堂々と歩み出てきた。艶やかな紫のローブを纏い、妖艶な微笑を浮かべる女。その手には、床に転がっていた青色の結晶体が握られていた。
「誰だ?」ハリーが鋭く睨みつける。
女はゆっくりと顔を上げ、紅を差した唇をつり上げた。
「てめぇは……エリムス……」コルトが低く唸る。
「筆頭四人衆のひとり……銀河科学部門統括責任博士、エリムスか」ミルトが続いた。
「綺麗なねぇちゃんだな……」イクサがぼそりと呟く。
「油断するな! 相当な実力者だぞ!」ハリーの声が響く。
エリムスは楽しげに肩を揺らしながら言った。
「面白い見世物を堪能させて頂きましたわ。銀河指名手配のコルト一味。ジャコウとは別ですが、ノワリクトでは大分ご有名になられてましてよ」
「ドギガイズが死んで、結晶体の力をふたつ奪われてる。そりゃ、この星にもノワリクトの兵隊が送り込まれると思ってたが……まさかあんたが来るとはな」コルトはまわりを警戒しつつ言葉を返した。
「ご安心ください。この星に来ているノワリクト関係者は、ワタクシたったひとりだけですから」エリムスは不敵に微笑む。
「兵隊もいねぇってのか?」コルトが問いかける。
女は両手を広げてみせた。
「この通り」
「……青色の結晶体を返してもらおうか」イクサが睨む。
「ふふ……美しい光。まるで飲み込まれるかのように輝いているわね」エリムスは結晶体を頬に当て、恍惚とした笑みを浮かべる。
「返して!」アゲハが叫び、二丁のブーメラン型銃を突きつけた。
その瞬間、エリムスの笑みが凍りついた。
「……ワタクシはね、女が大嫌いなんですよ。このワタクシの美しさこそが唯一無二。他の女など虫けらにすぎません。……虫けらが、ワタクシに意見をするなぁっ!」
表情が歪むや否や、その姿が消えた。
「なっ……!」
目にも止まらぬ速さでアゲハの背後に回り込む。
咄嗟に振り向き、アゲハは二丁拳銃を連射する。しかし、光の壁のような防御に弾かれ、火花が散った。
「やめっ……エリムス!」コルトが叫ぶが間に合わない。
光弾が放たれ、アゲハの腹部を貫いた。
「がはっ……!」
一瞬の刹那、鮮血が舞い、アゲハの体が吹き飛ぶ。
「アゲハっ!」ナコが駆け寄り、崩れ落ちる身体を抱きとめる。
エリムスは次にナコへと視線を移す。だが、その前に立ちふさがる三人の影――コルト、ミルト、イクサが壁のように立ちはだかった。
「……まぁ、いいでしょう。彼女たちはワタクシに銃口を向けていませんから」
ハリーが銃を抜こうとした瞬間、
「やめろっ!」ミルトが叫び、その手を止めた。
「青色の結晶体は手に入っただろ。この場は退いてくれねぇか」コルトが低く言い放つ。
「アゲハ、アゲハぁ!」ナコは必死にアゲハの血を止めながら叫ぶ。震える瞳でエリムスを睨みつけた。
「ゆるさない……許さない!」
「ナコ! やめろ!」コルトが怒鳴る。
「相手が悪すぎる……抑えろ」ミルトの声が苦く響いた。
「はは……あはははははは! 面白い……! 本当に面白いですわ!」エリムスは狂気じみた笑いを上げる。
「ご安心を。ワタクシが興味あるのは結晶体の莫大なエネルギーだけ。あなたたちではありません。ジャコウが現れないのは気になりますが……きっとワタクシを恐れて逃げたのでしょうね。まとめて結晶体を奪おうと思っていたのに……ざーんねん」
異様な笑いに、コルトたちは思わず肩をすくめる。
「それでは――銀河指名手配の皆さん、さようなら」
背を向けるエリムスに、イクサが拳を構えかけるが、ミルトがそっとその腕を抑えた。
「あぁ……そうそう。ワタクシ、次は禁止惑星『バルエクス』に向かいますの。最後の結晶体が眠っているらしいですから。あなたたちに、もしまだ抗う気があるのなら、追ってきてくださいな。面白い玩具は多い方が楽しめますからねぇ。ふふ……ごきげんよう」
エリムスは不敵に笑い、光が空間に溶け込むように姿を消した。
静寂の広間に残されたのは、ナコの泣き声だけだった。
第46話『白キ戦艦の合流』に続く。




