第41話 大海原へ(中編)
第四章:禁止惑星 『グリムジャガー』編
イクサの操る小型船は、洞窟を抜けて青空の下へ出ると、しぶきをあげて浜辺へと戻っていった。遠くに銀河鉄道が横たわっているのが見え、波音に混じって動力エンジンの低い唸りが響く。
その音に気付いたコルトとアゲハが浜辺へ駆け出してきた。
「おい、こいつぁどういうこった?」
訝しげに目を細めるコルトに、ミルトたちは船から降り立ち、短く事情を説明した。洞窟での出会い、青年イクサのこと、そして首都の跡地へ向かう必要があることを。
「はー。人造人間ねぇ……あぁ、俺がコルトだ」
「私は、アゲハと言います」
「イクサだ。よろしくな」
軽く言葉を交わした後、イクサは浜辺に横たわる巨大な銀河鉄道をじっと見つめた。
「こいつが……宇宙を駆ける銀河鉄道か。さすがにグリムジャガーにもこんなもんはなかったな」
感慨深げに呟いたイクサの言葉に、コルトは少しだけ複雑な顔をした。「いや、動力式の小型船があるんなら……」
言いかけて、ふっと言葉を飲み込む。
「やつらさえ来なければ、今頃はグリムジャガーにもあっただろうってことだろ。変に気を使わなくていい」
イクサが淡々と応じると、コルトは無言で頷いた。
「事が済んだら、中を細かく見せてもらってもいいか?」
「あぁ、かまわない。修理用の部品についても、この星に代用品があれば力を借りてぇ」
「まかせとけ。……って、まずは首都の跡地に向かわないとな」
「跡地まではどのくらいかかる?」
ミルトが問いかける。
「小型船で一日半くらいだな。夜を越すことになるが、この船には簡易寝室が備え付けてある。安心しろ。食料はないが……魚を釣れば大丈夫だろ」
「宇宙食なら備蓄がある。それも一応持っていくべきだな」ハリーが答えた。
「海に……凶暴な生物とか、いないの?」
アゲハがやや不安そうに尋ねる。
「大丈夫だ。巨大海洋生物はいるが、基本的にこちらから危害を加えなければ大人しい生物ばかりさ」
「二千年のあいだに、生態系が変わってなければいいが……」ミルトが低く呟いた。
「まぁ、なんにせよ今からじゃ日が暮れちまう。今日は銀河鉄道の中で休んで、明日の朝一番に出発しよう」
コルトの言葉に、皆が同意した。
するとイクサが、にやりと笑った。
「よし、じゃあいっちょ俺が釣りの腕前を見せてやるよ」
そう言うや否や、浜辺に転がる木片を拾い上げ、手早く削り始めた。あっという間に釣り竿を作り上げたイクサに、ナコとアゲハが声をかける。
「ちょっと……興味あるかも」
「わ、私も……!」
「そうか! 興味あるか! んじゃ一緒に釣ろうぜ」
二人の分の竿も器用にこしらえると、三人は夕暮れの海へ釣り糸を垂らした。波は穏やかで、橙色に染まった水平線がきらめいている。
「えっ……ちょ、なんか引いてる!」
ナコが慌てて叫ぶと、イクサが背後から支えた。
「お、まずはそのまま……焦んなよ。よし、一気に!」
ばしゃりと水しぶきが上がり、大ぶりの魚が釣り上げられる。
「わぁぁぁ、すごい! 初めて釣った!」
ナコが興奮して声をあげると、その横でアゲハの竿にも大きな手応えが走る。
少し離れて見ていたコルトたちは顔を見合わせた。
「平和だな」
「あぁ。ずっと張り詰めていたからな……こういうのも大事だろう」
ハリーがナコ達の後ろ姿を眺めながら、優しく呟いた。
結局、十匹以上の魚が釣り上げられた。イクサはグリムジャガーの伝統的な食べ方だっと言って、手際よく火を起こし、魚に串を打って塩を振る。海水を煮詰めて作った塩の香りが、夕闇の浜辺に漂った。
「命に感謝して、いただきます」
皆で輪になり、焼きたての魚を頬張る。
「おいしい!」
「塩加減が絶妙だな」
「こりゃうめぇな!」
笑顔がこぼれ、張り詰めていた空気は少し和らいだ。
その日、しばしの平和をナコたちは堪能した。
そして――夜が明ける。
英気を養った一行は再び小型船に乗り込み、水平線の彼方を目指す。
目的地は、青い結晶体の眠るという首都の跡地。
小型船はしぶきをあげ、大海原を突き進んでいった。
第42話『大海原へ(後編)』に続く。




