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『地球』という言葉が禁句の異世界宙域で秘密の禁書を追う話。  作者: 綾坂真文
第四章:禁止惑星『グリムジャガー』編

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第39話 取り残された青年(後編)

第四章:禁止惑星 『グリムジャガー』編

 しばらく泣き腫らした青年は、ようやく嗚咽を収め、力なくその場に腰を下ろした。

 朽ちた研究所の前で、ミルトたちも黙って座り込む。湿った空気に、誰の声も響かない時間が流れた。


 やがて、ミルトが口を開いた。

「今聞くのは酷かもしれないが……教えてくれないか?」


 青年はしばし沈黙した。拳を握りしめ、俯いたまま震えていたが、やがて搾り出すように語り始めた。


「……ある日突然、無数の飛行体が空から現れた。この星は、とても平和だった。平和だったんだよ。豊かな自然と海、穏やかな人たち、共存する動物たち……それに、最先端の技術が人々の暮らしを安定させていた」


 彼の瞳に、かつての光景が蘇っているようだった。

「俺の住んでいた街も、小さなコミュニティだったけど、笑いが絶えなくて……毎日が幸せだったんだ」


 ナコが息を呑む。


「じいちゃんは研究者だった。人々の暮らしをもっと豊かにするための研究をしてた。自然エネルギーを増幅させて、誰でも使えるようにするデバイス。風がよく集まる場所なら、その力を特殊な鉱石に閉じ込めて、何倍もの出力にして使える……そんなふうな研究だ」


「偉大な研究者だったんだな」ミルトが低く呟いた。


「あぁ。そうやって俺たちは平和に暮らしてた……その、無数の飛行体がやって来るまでは」


「それでやってきたのが……シャクイガなの?」ナコが問い掛ける。


「そうだ。奴らはこの星に降り立つや否や、首都だった街を壊滅させた。そして言ったんだ。『この星を我々の管理下に置き、結晶体の保管惑星とする』ってな」


「結晶体だと……?」ハリーの声が洞窟に響いた。


 青年は頷く。

「当然、星の人たちは反発した。問答無用で街を焼き尽くされて、勝手な言い分に従えるはずがなかった。技術力もあると思っていたから、すぐに反撃隊が組まれた。俺は子供で行けなかったが、じいちゃんは参加した……だが、奴らの力は圧倒的だった。反撃隊は簡単に壊滅され、じいちゃんだけが生き残った。研究の第一人者だったから、壊滅の寸前に逃がされたんだ」


「ひどい……」ナコの声が震えた。


「そして、シャクイガはこの星の人たちの反撃が煩わしくなったのか、持ち込んだ青く光る結晶体で……大津波を引き起こした。その力は絶大だった。あっという間にこの星のほとんどは海に沈み、人々は命を落とした」


「なんということを……」ミルトが言う。


「生き残った人々は、わずかに残った陸地に散り散りに隠れ住み、俺とじいちゃんはこの孤島に流れ着いた。そこからじいちゃんはあの悪魔の結晶体を研究することに全てを注いで……俺はじいちゃんを守れるように格闘術を学んだ。いつか、この星を奴らから取り返すために」


 青年は深く息を吐き、ミルトたちを見据えた。

「これが……俺の知ってる全てだ。今度は教えてくれ。今はいつだ? なぜじいちゃんが……白骨になっている? なぜ研究所が朽ち果てている?」


 ミルトは一度息を呑み、慎重に言葉を選んだ。

「君の記憶でいい。今は宇宙歴何年だ? 答えてみてくれ」


「……宇宙歴七八一年、八の月二十一日」


 その言葉に、三人は息を呑んだ。


「今は……宇宙歴二七八五年だ」


「……う、嘘言うんじゃねぇ!」青年は頭を抱えた。


「俺の記憶では確かに七八一年だ……三日前にじいちゃんの誕生日を祝ったんだ……小さいけどケーキを作って、祝って……祝って……!」


 言葉が崩れ、呼吸が乱れる。

「はぁ、はぁ……祝ったんだ、じいちゃんと……それ、それで……」


「落ち着け! 深呼吸しろ!」ハリーが肩を押さえる。


「うわぁぁぁぁぁ!」


 青年は錯乱し、白骨が座る書棚の方へ走った。

「日記だ……じいちゃんは毎日日記を書いてた……どこだ、どこだ!」


 乱暴に本を引き抜き、散乱させる。そして一冊を掴み、震える手でページを開いた。


 声が震えながら文字を追う。

「……宇宙歴七八一年、八の月二十日……研究所はシャクイガの手先に襲撃された……数は二名……イクサと迎え撃ち、撃退……だが……勝ちを見誤った」


 ページをめくるたびに、青年の顔色が変わっていった。

『死の直前……やつらが放った結晶体の力を封じた弾丸が私に迫り、その前にイクサが飛び込んだ……致命傷……私はすぐに行動を起こした。研究の全てを結集し、イクサの細胞に有機質と機械を融合させ、命を繋ぎ止めた……イクサを助けたい一心だった。だが、私のエゴは狂気に変わった。エネルギーは半永久機関。次にお前が目覚めた時に私はいないかもしれない。だが、もしこの星がやつらに奪われたままだったのなら、我らの意思を継いで、星を……取り返してほしい。お前を人造人間にしたじいちゃんを許してくれ……』


「……俺……俺が……人造人間?」


 青年は崩れ落ちた。

「俺はただ眠ってただけなんだ……昨日じいちゃんの誕生日を祝って、眠りについて……爆発音で目が覚めて……じいちゃんがいなくて、研究してるんだと思って……なのに……俺が……人造人間……じいちゃん……」


 洞窟の冷たい空気の中、嗚咽が響き渡った。


 ミルトが低く呟く。

「……俺たちがこの星に墜落した衝撃音で……彼の眠りを覚ましてしまったのかもしれない。二千年もの、安らかな眠りを……」

第40話『大海原へ(前編)』に続く。

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