第37話 グリムジャガーの鍾乳洞(後編)
第四章:禁止惑星 『グリムジャガー』編
地下鍾乳洞に足を踏み入れた瞬間、ひんやりとした空気が肌を撫でた。足音と、時折天井から滴る水滴の音だけがやけに響き、ナコは小さく肩を震わせる。
しばらく進むと、洞窟はふいに広がりを見せた。薄暗い空間の奥には、岩肌を削り出して作られたであろう階段が、さらに地下深くへと続いていた。
「この加工部分、自然にできた階段ではなさそうだな」
ミルトが手で触れながら低く言う。
「あぁ、人の手が入っている」ハリーも頷いた。
「奥に……人が、住んでるのかな?」ナコが不安げに呟く。
「わからんな。だが、少なくとも最近の人の出入りの痕跡はない。大昔に作られたものなのかもしれん」ミルトが冷静に答える。
「慎重に進もう。一応武器は構えとけ」ハリーの声が低く響いた。
三人は階段を下った。陽の光が届かないはずの地下だが、壁の岩肌には光石のような石が点々と輝き、薄明かりを放っている。入り組んだ地形のその先には、小さな鉄の扉のようなものが見えていた。
「何が起こるかわからん、注意して鉄扉まで向かうぞ」ミルトが指示を飛ばす。
「滑りやすいな、足元に気を付け……ナコ、しゃがめっ!」
咄嗟の声にナコが反射的に身を低くした瞬間、鋭い鉄の矢が頭上をかすめ、岩壁に突き刺さった。
「っ……!」ナコは息を呑む。
ハリーが銃を構え、周囲を見渡した。
「足下にロープ……侵入者撃退用の罠か」
ミルトが矢を抜き取りながら冷静に分析する。
「だが、大分劣化している。おそらく随分昔に設置されたまま放置されてるんだろう」
「この先に誰かが住んでいるってこと?」ナコの声が震える。
「あるいは……既に死んでいるのかもしれん」ミルトが短く答える。
「私が先頭に出る。用心して進むぞ」ハリーが前に出て、再び歩き出す。
三人はさらに目を凝らした。岩の隙間には劣化したスイッチ、足元には張り巡らされたロープ、岩に擬態した落とし穴……至る所に罠の痕跡が残っている。
「随分と用心深い人間だったようだな。だが、なぜこんな小さな孤島の洞窟の奥に……」ハリーが小声で呟く。
「そうしなければいけない理由があったか、よっぽどの変わり者か……どちらにしろ、あの鉄扉を開けば分かることだろう」ミルトが前を見据えた。
やがて、三人は錆びついた鉄扉の前に立った。
「鉄扉、すごい錆び……これじゃ開きそうにないよ」ナコが覗き込む。
「うむ、やはり……」ミルトが言いかけた時、ハリーが一歩前に出た。
「どいてな」
銃口を施錠部分に向け、引き金を引く。乾いた銃声と共に鍵が砕け、鉄扉は軋む音を立ててゆっくりと開いた。
扉の中に、一歩足を踏み入れたその瞬間。
目にも止まらぬ速度で飛び出した拳がミルトの顔面を狙う。咄嗟に強化手甲で受け止め、衝撃を受け流す。続けざまに繰り出される拳と蹴り。ミルトは後退しながらも捌き、必死に応じた。
「……ッ!」火花が散るような攻防。
やがて攻撃は一旦止み、薄闇の中に一人の影が立った。
ネイビーブルーの髪を持つ青年。落ち着いた声色と、余裕を感じさせる不敵な笑み。
「へぇ、やるじゃないか」
張り詰めた空気が洞窟内に充満する。
第38話『取り残された青年(前編)』に続く。




