第36話 グリムジャガーの鍾乳洞(前編)
第四章:禁止惑星 『グリムジャガー』編
墜落の衝撃から数刻。空に浮かぶ赤色矮星の光はわずかに角度を変え、静かな青の海を照らし続けていた。
「直りそうか?」
斜面に横たわる銀河鉄道の巨大な車両を見上げながら、ハリーが口を開いた。
「わかんねぇな」
コルトが腕を組み、唸るように答える。
「やってはみるが……部品次第だろう」
「まぁ、陸に墜落しただけ幸運だったんだろう」
ミルトが冷静に呟いた。
視界の先に広がるのは、見渡す限りの海と、青く光る水平線。そのどこにも、陸地らしい影は見えなかった。
「確かにな……海に落ちていたらそのまま沈んでジ・エンドだっ」
コルトが苦笑混じりに言う。
「見渡す限りの海……海の星……」
ナコが呟いた。その瞳は遠い海面を映し、水面に反射した赤色矮星の光が星のようにきらめいている。
「本当に海しかないね」アゲハがぽつりと漏らす。
「この孤島も規模的にはかなり小さそうだ。偶然とはいえ、陸地に墜落できたのは幸運としか言いようがないな。……墜落してるから幸運とは言えないかもだが」
ハリーが続けた。
「不幸中の幸いってやつだな」コルトが肩をすくめる。
「なんにせよ、このままじゃ銀河鉄道は動かない。修理しようにも、それなりの文明と人が集まる場所に出なきゃ、難しいな」
「どうやって?」ナコが問いかける。
その場に重苦しい沈黙が落ちた。
「後部車両の備蓄倉庫に、小型の船とか……入ってないの?」
「さすがにんなもん用意してねぇ。想定してねぇからな」コルトがすぐに答えた。
「あ、ストラトバティスで使ったホバーボードは? あれなら海渡れるんじゃない?」
「止めた方がいいだろう」ハリーが首を横に振る。
「ホバーボードで確かに海の上を走ることはできるが、目に入る視界内に陸が見えない以上、ホバーボードで進むのは危険だ。海に出れば方向感覚も狂う。海の真ん中で取り残されたら終わりだ」
「じゃあ、その辺の木材で作る……とか?」
ナコの提案に、ミルトが即座に返した。
「無謀だ。それに未知の惑星の海、どんな生物が生息しているかもわからない。危険すぎる」
「……詰んでない?」ナコが肩を落とした。
「まずはこの島をまわって、誰か人がいないか探すべきだな。期待は薄そうだが」コルトが言った。
「生態系も調べたい。コルト、銀河鉄道の方は任せていいか?」ミルトが問う。
「あぁ。だが、気を付けろよ」
「わかってる」
話し合いの結果、銀河鉄道の現状確認はコルトとアゲハ。探索はミルト、ハリー、ナコの三人で行うことになった。
三人は鬱蒼とした木々と岩の斜面を登り、島の内部へ進む。何の変哲もない森の中。微かに水の流れる音と、昆虫の小さな声。植物も独自の進化を遂げているものは少なく、わずか数十分で反対側の海岸に出てしまった。
「まじかよ……」
目の前には、やはり果てのない海。
左右に分かれて海岸線を歩いてみるも、また数十分で元の墜落地点に戻ってしまう。
「相当小さな島だぞ……人がいるような気配もない、生物もいくつか昆虫を見かけるくらいで、野生動物を見ることもない」ミルトが顔をしかめた。
「ただでさえ、ジャコウから遅れをとっているのにこのままじゃまずいな……というか、銀河鉄道を直せなきゃこの星を脱出することもできん……」ハリーが唇を噛む。
「もう一度、くまなく島の内部を調べよう」
三人は再び、島の中央部へ足を運んだ。
密集した木々の根、複雑に入り組んだ岩の割れ目。細かく探すも、目立った痕跡はない。諦めの空気が漂い始めたその時だった。
「きゃっ……!」
ナコが足を滑らせ、岩場の陰に転げ落ちた。
「ナコ!」ミルトとハリーが駆け寄る。
ナコが落ちた先は、ぽっかりと口を開けた空間となっていて、その目の前には洞窟のような入り口が見えている。
「地下……鍾乳洞。天然物か?」
「さあな。だが、確認はするべきだろう」
三人は顔を見合わせ、小さくうなずくと、湿った風の吹き出す暗がりへと足を踏み入れた。
第37話『グリムジャガーの鍾乳洞(後編)』に続く。




