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『地球』という言葉が禁句の異世界宙域で秘密の禁書を追う話。  作者: 綾坂真文
第四章:禁止惑星『グリムジャガー』編

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第34話 グリムジャガーへの宙路(深まる絆)

第四章:禁止惑星 『グリムジャガー』編

 銀河鉄道の揺れが、深夜の静けさをいっそう際立たせていた。

 中央車両のランプは落とされ、青白い非常灯がわずかに光を投げている。寝息を立てる仲間たちを背に、コルトとミルトはテーブルに身を寄せ、ひそやかにジャコウの小型端末の画面を覗き込んでいた。


 テーブルの上には、赤と黄色の結晶体が並んでいる。輝きを完全に失ったにもかかわらず、その存在感はなおも異様で、まるで周囲の空気を押し沈めるかのように重くそこにあった。


「……見てくれ」


 ミルトが低く呟き、端末の画面を操作する。浮かび上がったのは「禁止惑星リスト」。その最下段の奇妙な記号を指差した。

 平行四辺形のひし形。その中央に黒点。そして、その黒点の下には――禁句とされる単語が静かに表示されている。


『地球』


「地球という黒点を取り囲むように描かれた四辺の記号……これが何を表していると思う?」ミルトが問いかける。

「何って……まさか……」コルトの表情が凍りつく。


 ミルトは続けた。

「ストラトバティスで見た過去の映像では、結晶体は『禁書のかけら』と呼ばれていた。それを信じるなら、『禁書』ってやつは宇宙を終わらせかねないほどのエネルギーの塊の総称なんだろう。実際にストラトバティスの赤の結晶体に続いて、黄色の結晶体も解析してみたが、やはりエストリプス銀河では確認されていない未知の素粒子で構成されてた……暗黒物質(ダークマター)だ」


「……暗黒物質(ダークマター)、か」コルトが唸る。


「そして、ジャコウが言っていた青の結晶体という言葉――。やつが持っていた黄色の結晶体のエネルギーを吸収した漆黒の結晶体……」

「つまり、ストラトバティスの赤の結晶体も、ジャコウがエネルギーを吸い取った後だったってことだな」


「おそらくな」ミルトは指先で端末を叩きながら続ける。

「ここからは俺の推測だが、ジャコウは禁止惑星に散らばる『禁書のかけら』のエネルギーを集め、最後に“完全なる禁書”を完成させようとしているんじゃないだろうか」


 コルトは息をのんだ。「完全なる禁書……じゃあ、この平行四辺形は……」

「あぁ、四辺が『禁書のかけら』を表してるんだろう。すべての力が揃ったとき、“禁書”は本来の姿を取り戻す。そして中央の黒点……『地球』という、何かが起こる」


「……何かって、なんだよ?」

「さぁな」ミルトは目を伏せた。「ただ、良いことではないのは確かだろう」


 コルトが深く息を吐く。


「四辺が結晶体なら、残りは二つ……いや、漆黒の結晶体もある。なら、残りはひとつか……」

「いや、ふたつだろう」ミルトは首を振った。


「おそらく、ジャコウが持っていたあの漆黒の結晶体こそが、ノワリクトで最高機密とされていた『禁書』と呼ばれていたもの……さし詰め結晶体のエネルギーを吸収するための『器』なんじゃないだろうか」


「なるほど……器にかけらを集め、最後に黒点……何かを起こすってことか」


「あぁ。だからこそジャコウは禁止惑星を巡って結晶体の力を集めている。……そして、十中八九ノワリクトの高官たちは、『禁書』を完成させることで起きることを把握している。ストラトバティスでの過去の映像を信じるなら、おそらくノワリクトの基礎となった古代惑星大帝国レスポリアの時代から隠され続けてる、“銀河の闇”の部分だろう」


「……だが、なんだってジャコウがそれを暴こうとしてる?」

「それは本人に聞くしかないな。ただ、あいつの纏っていた邪気は常軌を逸していた。銀河の闇とジャコウの思惑……どっちに転んでも、良い未来は待っていないのかもしれない」


「アゲハには……酷かもしれねぇな」


 コルトが視線を落としたその時――カタリ、と微かな音。

 二人が振り返ると、物陰からアゲハが顔を出していた。


「……聞いていたのか?」

「ごめん……聞こえてきちゃって……」アゲハは小さく肩を震わせながら呟いた。


「アゲハ、このまま旅を続ければ、俺たちはお前の兄、ジャコウと対峙しなくちゃいけなくなるかもしれない、それに……」

「わかってる……わかってるんだ」アゲハは声を震わせる。


「……ジャコウ兄さんが、一体何を考えているのか、あの優しかった兄さんがどうして別人のように、あんなにも恐ろしい邪気を抱えていたのか。怖い、怖いよ……だけどっ――」


 膝をつくアゲハの肩に、ハリーが手を添えた。


「本当のことを知りたいんだろ」

「……うん」

「私も知りたい。知らなきゃいけない気がする」ナコも姿を現し、強い眼差しを向ける。


「ちっ、全員起きてやがったか」コルトが頭をかく、しかし表情は真剣そのものだった。

「……そうだな、ここまで来たんだ。今さら下りろなんて言わねぇ。だったら全員で真実を突き止めよう。ジャコウをぶん殴って正気に戻して、銀河の秘密を暴いて……それでまた、いつもの日常に戻ろうぜ!」


 誰もがその言葉にうなずいた。

 深夜の車両で、五人の絆はさらに固く結ばれる。


「グリムジャガーまでは、まだ時間がある」ミルトが言った。


「じゃあ、ひとまず寝るか」「……深夜だしな」

「うん……」「おやすみ」「ありがとう、みんな……」


 青白い光に包まれた車両で、仲間たちはひとり、またひとりと眠りに落ちていく。

 銀河鉄道は、静かに、しかし確実に進んでいた。


 次なる禁断の地――禁止惑星『グリムジャガー』へ向けて。

第35話『墜落、グリムジャガー』に続く。

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