第33話 灰色装束の男(後編)
第三章:禁止惑星 『リムスタング』編
ドグマタワーでの死闘から、数日が経過した。
あの混沌の夜のあと、ヒューベルトとルクスの姿は、まるで最初から存在しなかったかのように忽然と消えていた。
深い傷を負った仲間たちは療養に励み、少しずつ回復していく。解放されたリムスタングの住人、そして「蒸気の狼煙」の面々もまた、ようやく自由を取り戻した街での再建に動き始めていた。
不思議なことに、ドギガイズの兵たちは戦闘後、憑き物が落ちたように正気を取り戻した。彼らは自らの行為を恥じ、リムスタングの人々へ深い謝罪を述べた上で、復興への協力を申し出た。
塔はリムスタワーと名を改め、内外の造りを住民に寄り添う形へと建て替える計画が進められている。
地下の大空洞からは、もはやエネルギーの気配は失われ、希少鉱物の出土も途絶えていた。
重傷を負ったヒョウガも、今では復興の中心に立ち、住人をまとめあげる日々に奔走している。
旅立ちを祝福するかのように透き通った青空が広がっていた朝。
リムスタワーの仮の執務室、その扉をノックする音が響いた。
「入れっ」
凛とした声とはうらはらに、中へ入ったコルトが目にしたのは、机に積まれた書類の山に囲まれ、慣れぬ事務作業に没頭するヒョウガの姿だった。
「これは街の人々からの要望書なんだ。できる限り希望に沿いたいと思っててね。……よく来てくれた。傷はもう大丈夫なのか?」
「お前ほどじゃなかったからな。この通り、支障はねぇよ」コルトが肩を竦める。
ヒョウガは短く息を吐き、コルトをじっと見た。
「……行くのか?」
「あぁ。傷を癒すのに少し時間をくっちまったからな。それにアゲハもナコも落ち着いてきている。頃合いだろう」
「お前たちの目的は、あの灰色装束の男……か。あの男の邪気は常軌を逸していた。とやかく言うつもりはないが、対峙するなら気を付けろ」
「わかってるさ。……っても、俺たち自身が何が何だか分かっちゃいねぇんだがな。ただ、とんでもねぇことが起ころうとしてるのだけは確かだ。せいぜい気を付けていくさ」
「この先、やつを追うなら命懸けになるだろう。『蒸気の狼煙』が貸し出した武器は持っていけ。ここに残っている武器も好きな奴を持っていって構わない」
「感謝する」コルトは素直に頷いた。
「じゃあな。本当は五人全員で挨拶に来たかったが、状況が状況だ。俺だけで勘弁してくれ」
背を向け、扉に向かうコルト。その背中にヒョウガが声を投げかける。
「……前にとある筋からの情報で、お前たちが銀河鉄道でこの星に降り立ったこと、銀河指名手配犯だと最初から知っていたと言っただろ。それは『ホワイトシゼル』からの情報だ。ルクスを介してな」
「白キ戦艦『ホワイトシゼル』か……どうりで。宙域であの白キ戦艦とドギガイズの部隊が交戦している隙を抜けて、リムスタングに上陸したからな」
ヒョウガは静かに続ける。
「これは俺の推測だが……ルクスは三か月前、突然俺たち『蒸気の狼煙』の前に現れた。情報を流し、俺たちは武器を増やし、タワーの内部構造を知ることができた。今思えば、全ては事を起こすための前準備だったのかもしれない。ドギガイズを消すためのピースの駒として」
「そこへ俺たちが現れ、情報をさらに『蒸気の狼煙』に流したってか。まんまと俺たちもピースのひとつにされてたのかもしれないな。目的はいまいちわからねぇが」
「あぁ。そしておそらく……あの海賊帽の男、ヒューベルトと言ったか。アイツが『ホワイトシゼル』のキャプテンだろう」
コルトは無言で目を細めた。
「ヒューベルト、ルクス……いずれまたどこかで会うこともあるだろう。ただし油断はするな。今回は味方だったが、目的が見えぬ以上、敵に回る可能性もある」
「できれば敵対はごめんだがな」
コルトは小さく笑い、執務室を後にした。
――そして。
銀河鉄道を停車していた街の外れ。
ナコやアゲハ、ミルト、ハリーが待っていた。ステルス機能はもう解かれている。
「あいさつは済んだのか?」ミルトが声をかける。
「あぁ」コルトは頷く。
「ナコとアゲハは?」
「だいぶ落ち着きを取り戻したよ」ハリーが答えた。
「よし。出発するかっ」
コルトは懐に手を入れる。そこには、輝きを失った赤と黄色の結晶体。冷たく沈黙したその欠片を握りしめる。
「次の目的地は……ジャコウが追ってこいと言っていた星。禁止惑星『グリムジャガー』だ」
銀河鉄道の汽笛が、静かに空へ響き渡った。
■第四章:禁止惑星『グリムジャガー編』■
第34話『グリムジャガーへの宙路(深まる絆)』に続く。




