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『地球』という言葉が禁句の異世界宙域で秘密の禁書を追う話。  作者: 綾坂真文
第三章:禁止惑星『リムスタング』編

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第32話 灰色装束の男(前編)

第三章:禁止惑星 『リムスタング』編

 刹那。

 死神の鎌――そうとしか言いようのない漆黒の刃が、異形へと変貌を遂げかけていたドギガイズの首を、無音のような鋭さで刎ね飛ばした。


 ごろり、と巨体が床へ崩れ落ちる。

 その場に立っていたのは、灰色の装束に全身を包んだ男。顔はフードに隠れ、その素顔を窺うことはできない。


 誰もが息を呑む中、男は無言のまま黄色の結晶体の前へと進む。暴走するエネルギーが激しくうねり、空間を震わせていた。

 だが、男は懐からひとつの結晶体を取り出す。漆黒に濁った、不気味な輝きを宿す結晶。


 その瞬間、空気が張り詰めた。

 淡く光を放ったかと思えば、黄色の結晶体から溢れ出していた奔流のエネルギーが、一気に黒き結晶へと吸い込まれていく。


 ――ズズゥゥゥゥゥ……ッ!


 凄まじい音。みるみるうちに黄色の結晶体は輝きを失い、部屋を支配していた異様な威圧感も霧散していく。

 誰の目にも明らかだった。黄色の結晶体の全エネルギーは、灰色装束の男が持つ漆黒の結晶体にすべて吸収されたのだ。


 その異様な光景に――あるいは黒く淀んだ力そのものに――場にいる全員が圧倒され、身体を縛りつけられたかのように一歩も動けない。

 呼吸すら憚られる。恐怖が骨の髄まで凍りつかせていた。


 やがて男は結晶体を収め、背を向けると窓の外へ歩き出した。

 誰も動けない。ただ、ただその背中を見送るしかなかった。


 ――ただ一人を除いて。


「う、うぁ……あ、あぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 喉を震わせ、絞り出すような咆哮を上げたのはヒューベルトだった。

 一歩。力強く踏み出し、男へと駆ける。


「……ッ!」


 灰色装束の男がわずかに顔を向ける。その一瞬、フードの隙間から口元が覗いた。

 不敵な笑み。まるで「自分を前にして動けるやつがいるとは」とでも言うように。


 ヒューベルトのカットラスが閃き、男の装束をかすめる。

 裂けた布の隙間から、隠されていた顔が白日の下にさらされる。


「なっ――」アゲハの声が震えた。


「……ジャコウ兄さん……」「ジャコウっ!」「ジャコウさんっ!」

 ナコ、コルト、他の仲間たちも息を呑む。


 そこにいたのは、アゲハの兄。ノワリクト禁書盗難の容疑をかけられ、銀河政府からも、そして……その無実を証明しようとしていたナコ達からも追い求められていた男――ジャコウだった。


「兄さん……!」アゲハの叫びは、次の瞬間かき消された。

 ジャコウの放つ波動がヒューベルトを吹き飛ばし、床に叩きつけたのだ。


 フードを剥がれ、素顔を露わにしたジャコウは静かに仲間たちを見回す。

 ナコ、アゲハの目を真っ直ぐに見据え――低く、しかしはっきりと呟いた。


「今はまだ……その時じゃない」


 言葉と共に背を翻し、窓の外へ向かう。


 振り返ることなく最後に放たれた声は、全員の心を凍りつかせた。

「真実を知りたければ……追ってこい。青色結晶は、グリムジャガーだ」


 次の瞬間、黒い機体――獣のようなシルエットをした飛行兵器が窓の外に現れ、ジャコウは迷いなく飛び乗った。

 エンジンの咆哮と共に、その姿は夜明けの空へと消えていく。


 ……沈黙。


 灰色装束の男――ジャコウが去った瞬間、まるで呪縛が解けたように全員の身体が一斉に動き出す。

 張りつめていた緊張が崩れ、荒い息を吐き出した。


 気づけば窓の外には朝の光が差し込み、ドグマタワーの戦場を淡く照らしていた。

第33話『灰色装束の男(後編)』に続く。

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