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『地球』という言葉が禁句の異世界宙域で秘密の禁書を追う話。  作者: 綾坂真文
第三章:禁止惑星『リムスタング』編

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第29話 交錯する思惑(前編)

第三章:禁止惑星 『リムスタング』編

 エレベーターが静かに停止した。表示板には「五十七階」と赤い数字が灯っている。


「ちっ、直通じゃねぇのかよ」コルトが舌打ちした。

「構わない、上まで行くぞ」ヒョウガは迷いなくエレベーターを出て、階段へと向かう。


 深夜のドグマタワー、広い廊下に立哨している兵はまばらだった。三人は気配を殺しながら進み、すれ違う兵を容赦なく叩き伏せていった。ヒョウガはガンブレードの柄で、コルトは電磁銃の銃床で、アゲハはブーメラン型銃の一撃で。短く、鋭く、音を立てぬよう。


 やがて到達した最上階の扉は、拍子抜けするほど簡単に開いた。パスキーも認証もなく――。


「……嫌な予感しかしねぇな」コルトが低くつぶやく。

 しかし立ち止まる理由もない。三人は身構えながら、六十階の室内へと足を踏み入れた。


 そこはまるで別世界のようだった。広大なフロアの中央に鎮座しているのは、地下から続いているのであろう巨大な円柱。特殊金属のドームが天井へと伸び、その中心には黄色の輝きを放つエネルギー結晶体が浮かんでいる。

「……やっぱりここにもありやがんだな」コルトが喉を鳴らす。彼の腰のポーチに隠された赤色の結晶体と、同じ形をしていた。


 そして、結晶の前に置かれた宝石のテーブル。その椅子に腰掛けていたのは――ドギガイズだった。


「ふん……こうもコバエがうるさくては、夜も落ち着いて寝られんな」

 薄く笑うその顔には、焦りの色は一片もない。警備の影もなく、ただひとりで。だがその余裕が、かえって異様さを際立たせていた。


「ドギガイズッ! 貴様ァァッ」


 怒りを爆発させたヒョウガがガンブレードを抜き、駆け出す。

「おい、待てヒョウガ!」コルトの制止も聞かず、一直線に突っ込む。だが――。


 目に見えぬ壁がヒョウガを弾き飛ばした。


「ぐはっ……!」

 床を転がり、呻きながら立ち上がる。

「エネルギー障壁だとッ!?」コルトが目を見開く。


「クク……これだから下等惑星の人間は。知能が猿並で困るな。あぁ、猿に失礼か」


「貴様ぁッ!」再び向かおうとするヒョウガの肩を、コルトが掴んだ。

「落ち着け! 安い挑発に乗るな!」

「くっ……!」悔しげに歯噛みし、ヒョウガは踏みとどまる。


 ドギガイズの視線がコルトとアゲハへ移る。


「そっちの男と女は……クク、ノワリクトの銀河指名手配犯か。人数は五人と聞いていたが……三人はもうくたばったのか?」

「きっ……!」アゲハが銃を構えかける。

「待て。相手のペースに飲まれるな」コルトが制した。

「ほう、冷静だな」ドギガイズの口端が吊り上がる。


「よう、ノワリクト政府銀河治安主席執政官ドギガイズ様よ。筆頭四人衆のあんたが、なんでこんな禁止惑星を牛耳ってやがる? 銀河政府に厄介者としてハブられたのか?」

「ハハハ、面白いことを言う。だが理由はもう見当がついてるんだろう? 下等惑星の資源とエネルギーは、上級の星が食いつぶすのが礼儀だ。虫けらも役に立って、さぞ嬉しいだろうよ」


「うおおおおッ!」ヒョウガが銃を乱射する。だが光弾は障壁に弾かれ、火花を散らすのみだった。


「ゲスいねぇ……ノワリクト銀河政府は一体、何をどれだけ隠してやがる」コルトが吐き捨てる。

「お前たちが知る必要はない。どうせここで息絶えるのだからな。……ちょうどいい、試したいものがあってね」


 ドギガイズが指を鳴らした瞬間――。


 円柱の影から、巨大な咆哮が轟いた。六本の腕を持ち、爪と牙を備えた巨獣が姿を現す。その眼光は血に飢えた獣そのもの。

「おいおい……なんだこいつはッ」ヒョウガが息を呑む。

複数同位体(ケルベロス)だと!? ちッ、散れ! 喰い殺されるぞ!」


 三人は四方へと跳んだ。巨獣の爪が床を裂き、轟音がフロアを揺らす。


「はははははッ! それじゃあ私は特等席で、お前たちの殺戮ショーを楽しませてもらうとしようか」


 ドギガイズは椅子に深く腰掛け、愉悦に顔を歪めていた。

第30話『交錯する思惑(中編)』に続く。

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