第28話 ドグマタワーの交戦(後編)
第三章:禁止惑星 『リムスタング』編
巨漢のハンマーが、ナコめがけて振り下ろされる。ハリーもミルトも、間に合わない。
その瞬間――轟音を纏って回転する銀閃が、横合いから飛び込んだ。
カットラス。
回転の勢いのまま、刃は巨漢の腹を抉り取った。
「グギィィィィィ!」
奇声を上げた巨漢が仰け反る。
間髪を入れず、走り込んできた影があった。海賊帽をかぶった男。
その手に握られたパイレーツピストルが、巨漢の頭部へと突き付けられ、火を噴いた。
弾丸は空気を凝縮し、風を爆ぜさせるような衝撃を生み出し――次の瞬間、巨漢の首から上は粉々に消え去った。
圧倒され、息を呑むナコ。
海賊帽の男はそのままカットラスを拾い上げ、もう一体の巨漢へ向き直る。鋭い眼光で敵を捉えながら、周囲の仲間へ声を飛ばした。
「援護しろっ! 姉ちゃんは銃で目を狙え! そこの格闘兄ちゃんは回り込んで巨漢の足に全力で拳を打ち込め!」
反射的に動くハリーとミルト。
銃声が闇を裂き、ミルトの拳が巨漢の膝を打ち抜いた。崩れる巨体。
「上出来だっ!」
海賊帽の男は叫ぶと、巨漢の振り上げた斧の刃に飛び乗り、そのまま跳躍。空中で閃いたカットラスが、巨漢の首をはね飛ばした。
怒涛の一瞬。
頭部を失った二体の巨漢は、砂となって崩れ落ち、虚空に消えていった。
「あ……あ……」
言葉を失うナコ。
振り返った海賊帽の男が低く告げた。
「こいつらは人間じゃない。人間の遺伝子と獣を掛け合わせた、複数同位体だ」
「複数同位体……コルトが言っていた、生物兵器……人体実験の産物」
ナコの声が震える。
カットラスを腰へ収め、男は淡々と続けた。
「元は人間をベースにしているという意味では、人間かもしれない……だが、こうなってしまってはただの怪物だ。せめて安らかに眠れるよう、手を合わせてやれ」
張り詰めた空気を切り裂くように、場違いなほど明るい声が響いた。
「危機一髪だったね。感謝してよね」
男の隣から、少年が顔を出す。
見覚えのある顔だった。
「君は……確か『蒸気の狼煙』で、俺たちを尾行していたっていう情報屋の……ルクスと言ったか」
ミルトが言葉を漏らす。
そこにいたのは、「蒸気の狼煙」の隠れ家でヒョウガに紹介された、十二、三歳ほどの情報屋の少年、ルクスだった。
「どういうことだ? 彼は『蒸気の狼煙』の人間か?」
ハリーが海賊帽の男を指差す。
「うーん、今はまだちょっと明かせないかなぁ……ねぇ、キャプテン」
「キャプテン?」
海賊帽の男は短く名を告げた。
「俺の名はヒューベルト。今はそれだけ覚えておけ。いくぞ」
「いくぞって……」ナコが問いかける。
「狙いはドギガイズの首だ。最上階へ向かう」
ヒューベルトとルクスは駆け出した。
「え、ちょっ……」
「姉ちゃんたちは好きにしなよっ! じゃーねー!」
ルクスが軽口を叩きながら、男の背を追う。
呆気にとられるナコたち。
「ど、どういうこと……」
「まぁいい。まずは囚われている人たちの解放だ」
ハリーが深く息を吐く。
「そうだな。俺たちは牢屋の人たちを解放、出口まで誘導する!」
ミルトが叫んだ。
第29話『交錯する思惑(前編)』に続く。




