第24話 リムスタングの狂気(中編)
第三章:禁止惑星 『リムスタング』編
蒸気機関車の背にしがみつきながら、ナコたちは荒い息を整えていた。風は鋭い刃のように頬を切り、耳を裂いていく。列車はなおも速度を緩めることなく、黒煙を吐きながら疾走を続けていた。
ナコたちの手には、先ほど貨物車両から投げ渡されたカードが掴まれている。落ち着いたのも束の間、貨物車両から三つの影が跳躍し、先頭に立つ男と、その背に従う二人の部下らしき者たちが、蒸気機関車の背に着地した。
微動だにせずナコたちを見据える。
「お前たち、密航者だろう」
落ち着いた声。しかし、その存在は周囲の空気を支配するかのような静かな威圧感をまとっていた。
コルトが身じろぎすると、男は即座に動いた。右手に携えたブレード型の銃を構え、左手には小型の銃を突きつける。
「おっと、下手な行動はやめてもらおうか」
冷たい銃口が、たしかに彼らを射抜いていた。
「……ノワリクト製の動力式ガンブレードに……シャープネス小型銃か。ノワリクト政府関係者か?」
ミルトが低く呟く。
男は片眉を上げ、口の端をわずかに吊り上げた。
「目ざといじゃねぇか。なら、この状況で逃げるのは難しいってのは当然理解してるよな」
コルトは周囲を見渡す。動く蒸気機関車の背。足場は心許なく、ホバーボードすら持たない自分たちには逃げ場はどこにもない。
「ついてこい」
男は短く言い放つと、身軽に背後の貨物車両へ飛び降りた。続けざまに振り向き、言葉を投げる。
「ひとつだけ先に教えておいてやる。俺たちはノワリクト政府関係者ではない。この武器は、この星で我が物顔で闊歩しているドギガイズのクソ兵隊どもから奪ったものだ」
ナコたちは一瞬言葉を失う。
やがてコルトが低く言った。
「…………言う通りにしよう。どのみちここから逃げるのは難しい。それに、アイツが何者かはわかんねぇが、ニセのIDカードで俺たちを助けた。少なくともドギガイズに突き出されることはないだろう」
その眼差しは鋭さを増す。
「それに、この星の状況も分かりそうだ。仮にアイツが元からリムスタングの住人なんだとしたら、禁止惑星とされているこの地でノワリクトの名を知っているはずがない。知ってるってことは、それなりの情報を掴んでるってことだ」
ナコたちは頷き合い、貨物部分へと身を躍らせた。
全員が下りると、男は二丁の武器を構え、連結部分へと引き金を引く。轟音とともに鉄が弾け飛び、貨物車両は切り離された。蒸気機関車はなおも前方へ走り去り、やがて遠い闇に飲み込まれていった。
「こっちだ」
男の声に導かれ、彼らは倉庫街の一角へと進む。そこは閉ざされた建物が連なる静かな区画だった。
扉を開けて中へ入ると、ざわめきが広がる。数十人規模の若者、女子供が集まり、武器を整備する者、アナログコンピュータを操作する者、粗末な食材を分け合う者の姿があった。
「ここは?」
コルトが問いかけると、男は奥の中心に用意された椅子へ腰を下ろした。
「ここは反ドギガイズ組織《蒸気の狼煙》……そして俺が、ここを取り仕切っているヒョウガだ」
ヒョウガと名乗った男が指を鳴らす。横合いから一人の少年が顔を出した。十二、三歳くらいだろうか。
「悪いがお前たちのことは調べさせてもらった。こいつはルクス。こう見えて腕利きの情報屋でね。街中で見慣れないやつらがいるってんで、つけさせてもらっていた」
「尾行に私が気付かないとは……」
ハリーが低く呟く。その瞳には、わずかな驚きと警戒が入り混じっていた。
コルトが前に出る。
「だが、それだけでなぜ俺たちをここに招いた? ドギガイズに情報が洩れたらやばい場所なんだろう。おたくらの《蒸気の狼煙》って組織は。よっぽどの確証がない限り、簡単には招いたりしないはずだ。なのになぜだ?」
ヒョウガはしばし無言でコルトを見据えたのち、静かに答えた。
「……とある筋からの情報でね。お前たちが銀河鉄道でこの星に降り立ったこと、そして銀河指名手配されていることは、最初から知っていたんだよ」
「なんだと……? 誰からの情報だ」
「……守秘義務があるのでね。言う事はできない」
コルトは舌打ちをひとつ落とす。
「……ちっ。まあいい、ここで押し問答しても時間の無駄だろうからな」
「理解が早くて助かるよ」
「ならば教えてくれ。リムスタングは今、どうなっている? なぜノワリクトの軍隊がこんなにも入り込んでいる」
ヒョウガはゆっくりと組んだ足を組み替えた。
「条件付きで、質問には答えよう」
「条件だ?」
「我々に協力してもらうことが条件だ。それができないなら、我々はすぐにでもお前たちをドギガイズに密告し、明け渡す」
コルトは鼻で笑った。
「ひゅー、刺激的じゃねぇか。ハナから選択肢はないってね。いいだろう。どちらにせよ俺たちはこの星での目的がある。ドギガイズとの事は避けちゃ通れない。なら、今の状況に詳しい協力者がいるにこしたことはないからな」
ヒョウガが静かに頷いた。
「お互いにお互いを利用する……か。いいだろう」
第25話『リムスタングの狂気(後編)』に続く。




