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『地球』という言葉が禁句の異世界宙域で秘密の禁書を追う話。  作者: 綾坂真文
第三章:禁止惑星『リムスタング』編

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第23話 リムスタングの狂気(前編)

第三章:禁止惑星 『リムスタング』編

 銀河鉄道は轟音と閃光の渦を抜け、ついにリムスタングの地表へと降り立った。

 鬱蒼とした森に紛れ込むように停車し、外装を覆うステルス機能を起動する。緑に覆われた車体は瞬く間に周囲へ溶け込み、ただの樹々の連なりにしか見えなくなった。


「よし、これで大丈夫だ。気になる事は多いが……なんにせよ、まずは街だな。情報が欲しい」

 コルトが低く呟き、仲間たちは頷いた。


 森を抜けると、目の前に街並みが広がった。中心には、悪趣味なほどキラキラと輝く巨大なタワー。空を突き刺すように鎮座し、周囲のレンガ造りの家々や露店の群れとはあまりに不釣り合いだった。


 暖かな気候の中、街には蒸気機関車の汽笛が響き渡り、あちこちに線路が走っていた。屋台が軒を連ね、香ばしい肉の匂い、果実を煮詰めた甘い香りが鼻をつく。通りは人で溢れ、誰もが商品を抱えて声を張り上げている。


「ずいぶん、賑やかなのね……」

 ナコが小声で呟いた。だが、その賑やかさにはどこか焦燥めいた必死さが混ざっていた。


 人々は競うように客へと迫り、商品を売りつけようとし、さらに路地裏を覗けば、ノワリクト銀河政府宙域軍事治安維持部隊の制服を着た兵隊へ何事かを密告しているような姿もあった。


「どうなってやがる……」


 コルトの声には苛立ちが混じる。

「禁止惑星への干渉は重罪のはずだ。それなのに、宙域軍事治安維持部隊のマークが街じゅうに刻印されてやがる。まるでこの星そのものをドギガイズが支配してるみてぇだ」


 ノワリクト程の技術はなさそうだが、それなりの文明が発展している。あちこちには街の景観に不釣り合いな機械が並び、星全体がチグハグな印象を受ける。活気はあるのに、住民がどこか据わった目をしていることもこの星の異質さを物語っていた。


「おい、そこの兄ちゃんたち、これ、買ってくれよ! 金、持ってんだろ! 買ってくれよ、なぁ、なぁ、買えって言ってんだよ! 金出せよ」


 道を歩くコルト達に、露天商のひとりがしつこく商品を押し付けてきた。


 コルトはふと、その台に刻まれた印へ目をやる。


「この刻印……なんだ?」


 問いかけると、男は目を細めた。

「あん、知らねぇのか? お前たちどこから来た! この星を統治するドギガイズ様の部隊の印だぞ。ここに住んでりゃ誰だって知ってる……あやしいな、あぁあやしい! なぁ、なぁ!」


「きゃっ!」ナコがふいに手を掴まれる。咄嗟にハリーが男の手をはたいた。

「……邪魔したな」

 コルトはそれ以上口を割らず、仲間と共に歩を進めた。


「あまり目立つことはしない方が良さそうだな」ミルトが言うと「ちげぇねぇ」とコルトが頷いた。「ならば、さっさと街を抜けて、あの悪趣味で目立つタワーに向かうべきだな」ハリーが続いた。


 街の中央に聳えるタワーが視界に入る。その異質さはあまりに際立っていた。「ま、どう考えても怪しいわな」

 コルトが言ったその時、ハリーが低く告げる。

「ただし……つけられてる。二、三人だろう」


「…………」


 一行はあえて人気のない路地裏へ入り込む。広く開けた空間、その奥には鉄橋が伸びていた。下には蒸気機関車の路線が見え、行き止まりのように見える。


「出てこい」

 コルトが声を張ると、さきほどの露天商や見覚えのある住人らが姿を現した。


「……三人か、何か用か? 押し売りにしちゃあタチが悪いな」


 問いかけに、男の目がぎらつく。

「お前ら、この星の人間じゃねぇな。どこから来た……いや、そんなこたぁ関係ねぇ。一、二……五人か。ドギガイズ様に差し出せば、いい金になる」


「またドギガイズ……この星はどうなってるの」


 ナコが言葉を返すと、別の男が叫んだ。

「うるせぇ! ドギガイズ様だ! 様をつけろ女! 他の星の人間、ドギガイズ様を否定するやつ、逆らうやつは粛清対象だ! 差し出せば金と信用が手に入る。忠誠こそが、この星で生き残る唯一の道なんだよ!」


 その叫びと同時に、三人が襲い掛かってくる。


「ちっ、こっちは五人でそっちは三人、勝てると思ってんのか」

 だが、次の瞬間、物陰から続々と人影が飛び出した。十数人、いや、それ以上。皆が口々に狂ったように叫ぶ。

「粛清だ! 捕らえろ! ドギガイズ様へ差し出せ!」


 常軌を逸していた。正気の沙汰ではない。目は据わり、獣のように叫んでいる。


「おいおい、狂ってやがる!」


 ハリーとミルトが数人を叩き伏せるが、次々に押し寄せる群れに埋もれる。


「数が多すぎる! 逃げるぞ!」

「どこへ!?」アゲハが叫ぶ。

 広場の奥は鉄橋、そしてその先は行き止まり。鉄橋の下の線路までは高さがありすぎ、飛び降りれば命はない。


「ち、ホバーボード持ってくるんだったぜ……」


 その時――轟く汽笛が空気を揺らした。蒸気を巻き上げ、鉄橋の下を蒸気機関車が駆け抜ける。


「蒸気機関車! 鉄橋まで走れ、飛び降りるぞ!」

 ハリーの叫びに、全員が踵を返す。追ってくる群衆。迫る咆哮。鉄橋の下を突き抜ける機関車。


「飛べ!!」

 五人は一斉に跳んだ。鉄橋の高さを切り裂く風を受け、蒸気機関車の背に転がり落ちる。衝撃に息を呑みつつも、何とか身を伏せた。


 後方には、鉄橋に取り残された狂気の群衆。彼らの姿は瞬く間に小さくなっていった。


「助かった……」


 安堵の息を吐いた瞬間、ミルトが声を張り上げる。

「いや、まだだ! 前方に検問だ! レーザースキャンと……砲台がある! センサーに引っかかれば蜂の巣だ!」


 迫る光の線、逃げ場のない検問所。絶体絶命。


 その時、貨物車両との連結部分からひとりの男が顔を出した。


「こいつを持て!」

 投げられたのは五枚のカード。反射的に全員が掴む。


 瞬間、蒸気機関車は検問の光を突破した。

 目を瞑るナコたちの耳に、無機質な声が響く。


「……ID、確認、通過」

第24話『リムスタングの狂気(中編)』に続く。

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