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『地球』という言葉が禁句の異世界宙域で秘密の禁書を追う話。  作者: 綾坂真文
第三章:禁止惑星『リムスタング』編

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第21話 リムスタングへの宙路(情報整理)

第三章:禁止惑星 『リムスタング』編


 安定航行に入った銀河鉄道の車内。

 窓の外では、無数の星々が静かに流れていく。ストラトバティスを離れてから数時間。誰もがまだ心に重いものを抱えていた。


「安定宙域に入った」操縦席から戻ったコルトが言う。「ここからリムスタングまでは約四日。その間に情報を整理しておきたい」


 中央車両の円卓に全員が集まった。鉄と光の質感が交わるその空間に、緊張が漂う。

 コルトは腰を下ろし、無言のまま懐から赤色の結晶体を取り出した。テーブルの中央に置かれるそれは、今やただの石ころのように、色を失っていた。


「まず、何といってもコイツだな」


 全員の視線が、結晶体に吸い寄せられる。


「持ち帰ってから、ミルトが解析機器を駆使して物質と成分を調べてくれたが……ミルト、説明してくれるか」

 促され、ミルトは小さく頷く。


「あぁ。まず、この結晶体の物質成分についてだが……結論から言うと、エストリプス銀河に存在するどの物質とも一致しなかった。試しに、ストラトバティスの砂や、廃墟の瓦礫、あの実験施設から持ち帰った金属片も比較してみたが……まったく関連性はなかった」


「存在しない物質ってこと?」アゲハが眉をひそめて尋ねる。


 ミルトは神妙な顔で頷いた。


「未知の素粒子で構成されていることは確かだ。広い宇宙だ、俺たちのまだ知らない物質があったとしてもおかしくはないが、コイツはおそらく、そのどれにも属さない代物。心当たりがあるとすれば……」


「それは?」ナコが身を乗り出す。


暗黒物質(ダークマター)だ……」


暗黒物質(ダークマター)……?」全員が聞きなれない言葉に声をもらす。


「宇宙の質量の大部分を占め、銀河の形成や運動に影響を与えるとされる、未解明の素粒子。言うなれば――原始ブラックホールの一部が結晶化したもの……かけらと言っていいだろう」


 言葉が落ちた瞬間、空気が重く沈んだ。

「……原始ブラックホール……のかけら?」ハリーが小声で繰り返す。


 ミルトは続ける。

「宇宙誕生直後に形成されたと考えられている原始ブラックホール。つまり、この結晶体は――エストリプス銀河そのものを誕生させるほどの膨大なエネルギーを持つ、原始ブラックホールの一部が結晶化したもの。尋常じゃない程のエネルギーを秘めていた可能性があるってことだ」


 一同が沈黙する。テーブルに置かれた結晶は、今やただの石でありながら、その存在が場を圧倒していた。


 コルトが静かに口を開く。


「この結晶体にナコ達が触れた時、奇妙な映像が頭の中に流れ込んだよな」


「あぁ。その中で科学者らしき人物が、結晶体を……禁書のかけらと呼んでいた」ハリーが答える。


「ノワリクト政府が最高機密としている『禁書』……」ミルトが腕を組む。「名の通り書物なのか、データなのか、それともまったく違う存在なのか。だが、もしそれがこの結晶のようなものを指すなら――“禁書”とは宇宙の創まりであり、終焉でもあるほどのエネルギー体の塊……なのかもしれない」


「ただ、この赤色の結晶はすでにエネルギーを吸い尽くされている。今では単なる抜け殻だ」ミルトが続けた。


「この宇宙の全てが収められていると言われている『禁書』。宇宙の創生と終焉をも起こしかねないエネルギーの塊。言いえて妙だな。なら、ジャコウは、それを知っちまったうえで……何かを起こそうとしているのか?」


 コルトが吐き捨てるように言った。


「否定はできないな」ミルトが首を振る。


「アゲハの言っていた『禁書盗難』のニュースが流れる二週間前からのジャコウの不可思議な行動。秘密裏ではなく、あれだけ大々的にノワリクト政府が報道指名手配をしたこと、ナコが見つけた機密情報の入ったジャコウの小型端末、古いノート、禁句となっている『地球』という言葉……」


「ジャコウ兄さん……一体何を……」アゲハが小さく呟き、下を向く。


「すまない……ただ、あくまで可能性だが、これらは全て“繋がっている”と考えた方がいいだろう。ストラトバティスの結晶体もだ。現時点では糸口すら掴めないが……それに、もう一つ気になるのは、あの映像の年代だ」


 ミルトは左手でこめかみを抑え、思い出すかのように薄く目を閉じた。


「“レスポリア”という名前。古代史の記録で見たことがある。今のノワリクトの基礎となった惑星大帝国……二千年以上前の存在だ」


「…………」誰もが沈黙する。空気が重い。


「どのみち、ジャコウを追っていけば分かることだろう」ハリーが顔を上げた。


 コルトは頷き、視線をナコとアゲハに向ける。

「ところで――ナコ、アゲハ。お前たちは結晶体を目にしたときのこと、覚えているか? 心ここにあらずのような感じだったが」


 二人は視線を交わし、ゆっくりと口を開いた。


「……あの結晶を見た瞬間、頭に膨大な情報が流れ込んでくるようで……自分が自分じゃなくなる感覚に襲われたの。気づいたら身体が勝手に動いて……触れていた」ナコが苦しげに語る。


「私も同じ。まるで、自分を空中から俯瞰してるみたいで……気が付いたら触れていて……その後は、あの映像の記憶しかない」アゲハも続けた。


「……エネルギー結晶の影響か」ミルトが唸る。「だが、なぜお前たちだけが……」


誰も答えを出せず、沈黙が落ちる。


 やがてコルトが息を吐いた。

「あぁーっ重苦しい! 小難しいことを考えても仕方ねぇ。俺たちはジャコウを追う。それを続ければ、いずれ答えは見えてくる。それでいいだろ!」


「そうだな」ミルトが同意する。「考えるのは、材料が揃ってからでいい」


「リムスタング……何かわかるのかな」ナコが呟いた。


「映像の中で、“シャクイガ”と呼ばれていた男が向かうと言っていた星。そしてジャコウの小型端末の禁止惑星リストにもその名前はばっちり載っている。なら、次の目的地としてはリムスタングが最適解だろう」


「ただ、気になるのはノワリクト銀河政府が妙に静かなことだな」ハリーが腕を組む。「私らは今ごろ、大罪人扱いのはずだろ。本気を出せば追ってくるのは難しくないはず……」


「さぁな、ジャコウを優先しているのか、あるいは……それどころじゃない事態が起きているのか」コルトが目を細める。「どっちにしろ好都合だ。俺たちは俺たちの目的を果たせばいい」


 そう言って、コルトは少し柔らかい声を出した。

「次の星でも何が起こるかは分からねぇ。今のうちに休んでおけ。食事は相変わらず宇宙食だが……栄養は申し分ないだろう」


 誰もが張り詰めた空気の中で、ふっと小さな笑いがこぼれた。

 列車は静かに、次なる運命の星――リムスタングへと進んでいった。

第22話『リムスタングと白キ戦艦』に続く。

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