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『地球』という言葉が禁句の異世界宙域で秘密の禁書を追う話。  作者: 綾坂真文
第二章:禁止惑星『ストラトバティス』編

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第20話 ストラトバティスの真実(後編)

第二章:禁止惑星 『ストラトバティス』編


 最奥の扉が開いた。

 重厚な隔壁が軋む音を響かせてゆっくりと開いていくと、そこに現れたのは、これまで誰も見たことのない光景だった。


 目に飛び込んでくるのは、無数のクリスタルが壁や天井を覆い尽くす、幻想的な空間。透き通った結晶の群れは境界を持たず、刻一刻と色を変えながら混ざり合い、あたかも異なる世界が幾重にも重なり合っているかのように揺らめいていた。


 しんと静まり返った空気の中、その中央にひときわ強い存在感を放つ祭壇があった。そこに鎮座しているのは赤色の結晶体。

 しかし、その光は弱々しく、今にも完全に失われてしまいそうだった。


 ナコは息を呑んだ。アゲハもまた、吸い寄せられるように結晶へと歩み寄る。


「なんだここは……どうなってやがる」

 コルトが警戒しながら呟く。


 赤く不気味に光る結晶体。その光に取り憑かれるかのように、ナコとアゲハは結晶に向かって手を伸ばしていた。


「おい、ナコ、アゲハ! どうした、返事をしろ!」

 ハリーが叫ぶ。


 次の瞬間、ふたりの指先が赤い結晶体に触れた。


 眩い光が瞬き、場の全員の頭に、鮮烈な映像が流れ込んでくる。


 ――白黒の世界。


 映っているのはこの世界の過去だろうか。断片的な映像、途切れ途切れに聞こえてくる声。


「シャクイガ様、それは……」


「ええい、黙れ! この施設は未来永劫、誰にも侵入させてはならん。そのためには、永遠に働き続ける守護者が必要なのだ」

「ですが、この実験はあまりに非人道的……!」

「レスポリア政府の意向だ。この件についての決定権は全て私にある」

「くっ……」


 映像は場面を変えて続いた。


 ストラトバティスに暮らしていた人間たちが次々と実験施設に連行され、人体実験の名のもとに命を奪われていく。

 何十、何百の犠牲の果てに生み出されたのは――複数同位体(ケルベロス)

 そう、ストラトバティスの「鬼」たちだった。


 目まぐるしく場面は切り替わる。


「シャクイガ様、今、なんと……?」


「この星は放棄する。複数同位体(ケルベロス)の量産は完了した。やつらは永遠に動き続け、この施設を守り続けるだろう。奥に眠るエネルギー結晶体――禁書のかけらは、やつらに任せておけばよい」

「しかし……残っているストラトバティスの住人たちは」


「捨て置け! どうせ複数同位体(ケルベロス)に喰い殺される」


「な……。ならば、せめて残っている住人を別の星に……」

「レスポリア政府の命令だ。星は放棄、住人は捨てる。それに、他の結晶体の件もある。我々は至急惑星リムスタングへと向かわねばならん。意義はあるか?」

「……いえ、仰せのままに」


 その言葉を最後に、映像は途切れた。


 ナコ達は一斉に現実へと引き戻される。

 コルトが呻くように呟いた。


「なんだ……今のは。過去の記録……エネルギー体、禁書のかけら……」


 ソギ―は膝をつき、顔を歪めていた。

「そんな……あの鬼たちは……もとは、この星の……俺たちと同じ……人間……」


 次の瞬間、結晶に触れていたナコとアゲハは糸が切れたように崩れ落ちた。


「ナコ! アゲハ!」

 ハリーが駆け寄り、必死に呼びかける。


 コルトは赤い結晶体を見つめながら低く言った。

「俺たちは……とんでもねぇことに足を踏み入れているのかもしれねぇな」


 ミルトが蒼ざめた顔で続ける。

「レスポリア……現ノワリクト政府の礎となった惑星大帝国……禁書……一体どういうことだ……何かが、繋がっているのか」


 コルトは輝きを失いかけた結晶体をそっと手に取った。


 瞬間、結晶は最後の力を振り絞るかのように輝き、光はストラトバティス全体へと広がっていった。


 それと同時に、扉の外から微かに聞こえていた鬼の咆哮と気配がすべて消え去った。


「……ここから出よう」

「そうだな……」


 ミルトは気を失ったナコを抱き、ハリーはアゲハを抱える。

 絶望に打ちひしがれたままのソギ―に、コルトが手を差し伸べた。


「気をしっかり持て。これからはお前が、このストラトバティスの人たちを導いていくんだ。真実を知ったものの責任として」


 誰もが無言のまま、実験施設の隔壁を解除する。「おいっ」ソギ―が声を弱々しく上げた。しかし、開かれた空間の外では、鬼たちが静かに眠るように沈んでいて、その身体はやがて灰色の砂となり、風に流されていった。


 コルトは言う「こいつらは……解放されたんだよ。もうこのストラトバティスの地に、鬼は現れないだろう」


 ソギ―は膝をつき、声をあげて泣いた。


「……っ……っ……っ……!」



 ――数日後。


 ソギ―を中心に、ストラトバティスの人々は陽の差す地上に新たな街を築き始めていた。

 鬼がかつて人間だったことは伏せられたまま。もう、誰も鬼に怯える必要はないのだ。ソギ―は英雄として人々を導く希望となった。


 そしてナコ達は、隠しておいた銀河鉄道のもとへと戻る。


「数日ぶりだってのに、随分と懐かしく感じやがる」


 コルトがステルス機能を解除して、車両を点検する。


 ソギ―と、何人かの住人が見送りに来ていた。


「これが……銀河鉄道ってやつか」


「宇宙を駆ける私たちの移動手段です」


 ナコとアゲハが笑顔で答える。その横から「この星のやつらには、ちょいと刺激が強すぎたか?」と、冗談交じりにコルトが叫んだ。


「お前たちには本当に世話になった。できることなら、我々もお前たちの旅に協力してやりたい。だが、ストラトバティスの復興がある。子供たちの為にも、未来を作ってやりたい。……ここでお別れだ」


「あぁ。頑張れよ! また全てが終わったら、様子を見に来てやるよ」

「……ありがとう。それまで、さよならだ。お前たちの次の目的地は決まっているのか?」


 コルトは静かに頷いた。

「リムスタングだ。あの結晶体から流れ込んできた記憶と、それに……ジャコウの禁止惑星リストにも載っていた星だ。何かがあるのは間違いない」


「そうか……気を付けて行けよ」

「あぁ」


「ソギ―さんたちもお元気で」


 ナコ達は銀河鉄道に乗り込んだ。星の航路を、新たな目的地へと進路をとって。

 宇宙空間へ飛び立つ車窓から見える星々は、まるで彼らの旅路を導くように瞬いていた。

 ■第三章:禁止惑星『リムスタング』編■


        第21話『リムスタングへの宙路(情報整理)』に続く。

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