第17話 鬼の棲み処(前編)
第二章:禁止惑星 『ストラトバティス』編
「ポイントゼロ……」
ソギ―の口から「ポイントゼロ」の名が出た瞬間、広間にざわめきが走った。人々の顔は青ざめ、怯えの色を隠せない。子どもを抱きしめる母親の腕が震え、男たちの眉間には深い皺が寄っていた。
「……ポイントゼロだと?」
「まさか、そこに行こうっていうのか……」
「禁忌の場所だぞ……」
囁きは恐怖の波紋となって広がり、場の空気は一層重苦しく沈んでいく。
「相当いわくつきの場所みたいだね」ハリーが冷静に呟いた。
「ポイントゼロ、そこに実際に鬼が集まっているかは知らない。だが、この星の人間には、絶対に近付いてはいけない場所として代々受け継がれている」
周りが下を向いて沈黙している。ソギ―は続けた。
「その地に何があるのかは知らない。誰も近づかないし、行こうともしない、だが、先人から受け継がれている絶対の掟だ。何かがあるのは間違いないだろう」
コルトは腕を組み、冷静にソギ―へと視線を向けた。
「上等だな。案内を頼めるか?」
ソギ―の顔が引き攣る。
「冗談じゃない。禁忌の場所だぞ!」
「ならば道順だけでもいい。教えてくれ」
「お前たちは一体何をするつもりだ! 見ただろ、鬼の獰猛さを。もし鬼に関する何かがそこにあるのなら、みすみす死にに行くようなもんだ!」
ソギ―の叫びにも、コルトは一歩も退かない。
「いや、そうとも限らねぇさ。場合によっちゃ、この星から鬼を消すこともできるかもしれねぇ」
「……どういうことだ」
「なに、どんなに強固なシステムもからくりを見抜いちまえば、案外脆弱だってことだ。生憎、そっち関係には強いんでね」
ソギ―は歯噛みした。
「くそっ……なんだってんだ、お前たちといい、数日前の件といい……」
その言葉にミルトが反応する。
「数日前の件? 例の件ってやつか?」
「あぁ。お前たちと出会う四日ほど前だ。ポイントゼロ方面で大きな爆発音があった。遠目だが、別の集落のやつが見たらしい。空から飛行物体のようなものが落ちていったってな」
「飛行物体だと!」コルトの声が鋭く響く。
ナコがすぐに続いた。
「銀河鉄道? それとも別の……」
ソギ―は怪訝な顔で怒鳴った。
「銀河鉄道? なんだそれは!」
「宇宙を駆ける代物だよ!」ナコが息を荒げて言う。
「宇宙を駆ける……くそ、どうなってるんだ我々の星の外は……」ソギ―の声には、困惑と焦燥が入り混じっていた。
コルトは静かに言い切った。
「この宇宙には色々な星があるってことだ」
「……あぁくそっ、わかったよ。ポイントゼロに案内しよう。その代わり、お前たちは……我々の計り知れない何かに心当たりがあるんだろうな」
「あぁ。俺たちの目的もどうやらそこにありそうだ」
ソギ―は拳を握りしめる。
「ちっ……ついてこい。ポイントゼロへ案内する」
その言葉に周囲の数十人が一斉にざわめいた。
「ほんとかよ……」
「大丈夫なのか……」
ソギ―は手を高く掲げ、皆を制する。
「あぁ。我々だって望んでこんな生活をしているわけじゃない。だが、もし希望があるというなら……この地獄みたいな世を変える力があるというなら、私が代表として見届けてくる」
その決意に人々のざわめきはやがて小さくなり、誰もが黙ってソギ―の背を見つめた。
「急げ。ここから地上は日が暮れる。夜のうちに出て、ポイントゼロに向かう」
「夜のうちに?」アゲハが息を呑む。
「鬼も夜は比較的動きが鈍る。地上を動くなら、夜しかない」
コルトが苦笑する。
「獲物としている人間が動かない夜は、鬼も静かってことか……」
「寝ているわけではないぞ、見つかれば夜だって襲われる。夜の闇で襲われたら逃げ場はない」
コルトは顎を引き、すぐに算段を立てる。
「ポイントゼロまではここからどのくらいだ?」
「今いるポイント三五からは……歩き続けて丸一日程度だ。夜だけで進むなら、昼間は必ずどこかの穴に潜る必要がある」
「歩いて一日か。オーケー、動力型ホバーボードを使えば半日で着く。夜明けにはポイントゼロだ」
コルトは振り返り、仲間たちを見渡した。
「今すぐ向かうぞ」
第18話『鬼の棲み処(後編)』に続く。




