第16話 ストラトバティスの鬼(後編)
第二章:禁止惑星 『ストラトバティス』編
走りに走った末、やがて視界が開けた。広い空洞のような場所に出ると、そこには松明代わりの発光石が壁面に埋め込まれており、淡い光が空間を照らしていた。
肩で息をする一行を見渡し、ソギ―が口を開く。
「ここはポイント三五。我々は地下にいくつも通路を作り、鬼に嗅ぎつけられる度に移動を繰り返している。先ほどのような襲撃は、残念ながら珍しいことではないからな」
そこには、既に先行していた集落の人々の姿があった。怯え切った顔、すすり泣く声。その中に、ナコとアゲハの姿が見える。
二人は駆け寄り、涙をこぼしながらコルトたちと抱き合った。
「よかった……無事で、ほんとに!」
「よかった……!」
細い肩を震わせるナコを、コルトは不器用に抱き返した。そしてソギ―へ視線を移す。
「悪かったな。俺たちを助けたことで……鬼どもに集落が見つかっちまったのかもしれない」
「……ふん」ソギ―は鼻を鳴らし、腕を組んだ。「そう思うなら、さっさと荷物をまとめて出ていけ。と言いたいところだが……お前たちの機転がなければ、さらに被害は増えていただろう。全滅もありえた。我々の生活に、ああいった出来事は日常だ。誰が悪いだの、責任を押し付ける気はない」
沈痛な空気が漂う中で、ミルトが声をあげた。
「ひとつ気になることがあるんだが……」
「なんだ?」ソギ―が眉をひそめる。
「鬼に……繁殖活動はあるのか?」
場の空気が一瞬ざわめいた。
「……どうしてだ?」コルトが問う。
「いや、俺たち……鬼に見つかる前に崩壊した街の廃墟を調べただろ。その時、壁面を解析用スキャナで読み取っていたんだ。襲撃のせいで確認できてなかったが、今ようやく解析結果を見てみてね」
「何かわかったのか?」
ミルトは手元の端末を示し、声を低くした。
「含まれていた鉱物や放射性物質の量、使われていた石材に含まれる化学物質の劣化具合……総合的に見て、あの街が廃墟になってから軽く二千年は経過している」
「二千年だとっ!」ソギ―が声を荒げる。
「間違いないのか?」コルトが念を押す。
「あぁ。多少の誤差はあったとしても、二千年以上は確実に経過しているだろう」
その時、アゲハが恐る恐る口を開いた。
「それと……鬼の繁殖に何か関係があるの?」
ミルトは頷いた。
「少なくとも二千年以上前から鬼がこの星を牛耳っていたなら、今ごろ地上は鬼で溢れかえっていてもおかしくない。この星に鬼の天敵となりえる存在はいないんだからな。だが実際は……俺たちが降りてから見かけた鬼の数はそう多くはない」
ハリーが眉を寄せた。
「たしかに……死体も見てないな。どっかで朽ちててもおかしくないはずだろ」
「そうだ」ミルトはうなずいた。「だが痕跡すらない」
ソギ―が重い声で言う。
「確かに……俺たちも鬼の死体を見たことはない。まさか……不死身なのか?」
「わからない。ただ……やつらは本当に生物なのか?」ミルトの声は低く響く。
「……もし人間を喰って生きているなら、この星に残る人間の数では到底足りないだろう。それに、この星に銃弾はないのだろう?」
「まぁ、槍だの石斧などを使ってるんなら、存在しねぇわな」コルトが言う。ミルトがさらに続けた。
「生物の進化ってのは環境の変化に適応する過程で起こるものだ。天敵もいない、致命傷を与えられるような武器もない。そんな環境で銃弾をも弾くような体表に進化する必要なんてないだろう、考えれば考える程、この星の生物とは思えないんだよ」
ソギ―が深く頷いた。
「鬼が人間以外を喰らっているところを見た者はいない。やはり……」
「人間しか喰わない……しかも飢え死にする個体すらいない。となると、奴らはただ人間を襲うためだけに存在しているということか」
「そう誰かに命令され続けているとか?」
静寂を破ったのはナコだった。思わず漏らしたように、小さな声で。
「えっ」皆が振り向く。ナコは顔を真っ赤にして両手を振った。
「え、あ、いや……勝手に口から出ちゃって……」
その時、コルトがにやりと口角を上げた。
「命令か……ドンピシャかもしれねぇな。おいソギ―、鬼どもが不自然に集まってる場所に心当たりはないか?」
ソギ―はしばし沈黙し、目を伏せた。そして静かに答える。
「ある。我々なら絶対に近付かない場所……そして、例の“件”の報告を受けた場所でもある」
空洞に緊張が走った。次なる目的地の影が、暗闇の奥に姿を現そうとしていた。
第17話『鬼の棲み処(前編)』に続く。




