第13話 禁止惑星ストラトバティス(後編)
第二章:禁止惑星 『ストラトバティス』編
瓦礫を砕きながら、巨体の異形が咆哮と共に突進してくる。砂煙が巻き上がり、崩壊した建物が次々と砕け散った。
「冗談じゃねぇぞ、逃げろ!」コルトの怒号が響く。
ナコたちは即座にホバーボードへ飛び乗った。金属の低い駆動音が唸り、砂上を疾駆する。後方でハリーが振り返りざま、携行銃を撃ち込んだ。連射される弾丸は異形の肩や胸を正確に捉え、火花と粉塵を散らす。だが、その巨体は怯むどころか、怒りに燃えるような咆哮を上げただけだった。
「効いてない……嘘だろ……!」ハリーが呻く。
「ここを抜けて、森まで走れ! 砂漠じゃ居場所が丸わかりになっちまう!」コルトが叫び、全員がホバーボードを限界まで加速させた。
背後で巨体の影が砂を蹴り上げる。驚くほどの速さだった。その体格からは信じられない敏捷さで、廃墟の残骸を跳び越え、瓦礫を砕きながら迫ってくる。
「な……あの二足歩行の獣みたいなのが、この星の知的生命体なの?」ナコが声を震わせる。
「いや……とてもそうは思えねぇ。言葉を解する気配もねぇ。まるで獲物を見つけて喰らうためだけに襲い掛かってくる獰猛な獣だ!」コルトの返答は鋭かった。
その言葉を裏付けるように、異形は廃墟の柱を引き抜き、巨石のように投げつけてきた。砂が爆ぜ、破片が頬を掠める。ナコは咄嗟にボードを傾け、死角を抜ける。ミルトもギリギリで残骸を避け、冷や汗を流す。
——だが、地の底から響くような別の咆哮が、砂漠に轟いた。
一体だけではない。別の方向からも同じ異形が、次々と姿を現していた。
「まじかよ! くそ、禁止惑星にされてる理由はこれか……! 甘く見過ぎたか!」コルトが歯噛みする。
四方から砂を割って襲い来る異形。数は二体、三体、いやもっと……。
必死にホバーボードを操り、砂漠を駆け抜ける一行。投げつけられる瓦礫の雨を身をよじって避け、時に砂塵の壁に紛れながら走り抜けた。赤色矮星の照射が視界を歪め、緊張は極限まで高まっていく。
「もう少しだ……! 森まで辿り着け!」コルトの声に押され、全員が最後の力を振り絞る。
やがて、一面の砂地から緑の縁が迫ってきた。樹々が幹を広げ、暗い影を落としている。ナコたちは一気にそこへ突入した。鬱蒼と茂る樹林が視界を遮り、異形の影は一瞬遠のく。
だが安堵する暇もなく、耳を裂く咆哮が木々を揺らす。追跡はなお続いていた。
そのとき——。
「お前たち、何やってる! こっちだ! 早く来い!」
人間の言葉。鋭く、必死の声が木々の奥から響いた。
振り返ると、緑の影の中に人影が見えた。ナコたちと同じ人類種、若い男だった。武装らしきものを抱え、手を振って叫んでいる。
「急げ! 奴らに追いつかれるぞ!」
戸惑う間もなく、男の案内に従い、森の奥へと進む。やがて地面にぽっかりと口を開けた穴へと導かれた。急な斜面を滑り降りると、そこに見えたのは地下深くへと続く穴倉。
暗い通路を抜けると、目の前に広がったのは粗末な明かりに照らされた空間——岩肌を削って作られた小さな集落だった。
そこには十数人の人類種たちが肩を寄せ合い、かすかな火を囲んでいた。疲れ切った顔、怯えの滲む瞳。しかし、確かに生きている人間の群れだった。
荒い息を吐くナコたちに、彼らの視線が一斉に注がれる。
異形の咆哮はまだ遠くに響いていた。
第14話『ストラトバティスの鬼(前編)』に続く。




