第12話 禁止惑星ストラトバティス(中編)
第二章:禁止惑星 『ストラトバティス』編
銀河鉄道が静かに地表へと降り立った瞬間、車両全体を包んでいた光の膜が霧散し、赤褐色の砂が舞い上がった。足元には無限に続く砂漠が広がり、地平線のかなたまで、揺れる蜃気楼が線を引いている。その一角、微かに緑が滲むように点在する森林が見えた。
「砂漠の星……か」
コルトは列車のシステムを操作し、ステルスモードを起動、周囲の砂に溶け込むよう偽装を施す。列車は風に削られた岩陰のように姿を消し、そこに在ることを知るのは彼らだけとなった。
「空気は問題なし、気温も想定範囲。重力もノワリクトとほぼ同じだな」ミルトが数値を確認しながら報告する。
「ただし……赤色矮星の直射はきつい。こりゃ長時間歩きゃ体力が削られるな、待ってろ!」コルトが短く言うと、後部車両の備蓄倉庫を開けた。金属の光沢を持つ薄板状の機材を何枚も重ねて取り出す。
「動力型のホバーボードだ。これなら消耗を抑えられる」
人数分のボードを取り出し、砂上に展開すると、滑らかな駆動音を響かせて浮き上がった。それぞれに足を乗せると、機体は瞬時に使用者の体格や重心を解析し、柔らかく身体を支える。初めてホバーボードを体験するナコも、数歩の試運転で感覚を掴み、自然と加速に乗ることができた。まるで自分の足で砂上を駆け抜けているような心地よさだ。
「便利なものですね……」アゲハが感嘆の息を漏らす。
「なに、市販されている量産型をちぃとばかしこちらで弄ってやっただけだ」コルトがつぶやく。
一行は赤く照りつける太陽を背に、遠くの森林へ向け砂漠を横断しはじめた。砂の上を滑るように進むうち、足元には奇妙な影がちらつく。砂粒に混じって這い回る昆虫たち——形状は異なるが、どこかノワリクトで見かけた種に酷似している。
「……生態系は、案外ノワリクトと近いのかもしれねぇな」コルトは目を細めた。
さらに進むと、砂漠の中に、黒ずんだ石造りの残骸が点々と姿を現し始めた。崩れ落ちた塔、砂に埋もれた家屋、風雨に削られた街路。人の住んでいた痕跡。だが、そこに人影はなく、音もなく、ただ風が吹き抜けるばかり。
「……ここ、街だったのかな」ナコが呟く。
「だが、生物の気配がない。滅びてから多くの月日が流れているのだろう」ミルトの声は低い。
次々と現れる廃墟はどれも朽ち果て、数十年、いや数百年の時を経たように荒れていた。ナコの胸に、寒気が忍び寄る。
「ここの星の人たち……もしかして、絶滅したのかな……」
答えはなく、一行はさらに進む。やがて、ひときわ大きな廃墟へと辿り着いた。瓦礫と化した建築群が荒野の中に鎮座し、まるで星そのものの墓標のように静まり返っている。
「ちぃとばかし、調べてみるか」コルトが言い、皆が頷いた。
瓦礫をかき分け、古びた石段や倒壊した門を進む。砂に半ば埋もれた壁の間に残るのは、かつての市街の構造。ミルトは壁面に残る刻印を指でなぞり、解析用のスキャナを取り出す。アゲハは耳を澄まし、ナコは視線を巡らせながら緊張を強めた。
——そのとき。
空気を裂くような轟音が、突如として辺りに響き渡った。耳をつんざく咆哮。砂漠の空気が震え、瓦礫が細かく揺れる。全員の動きが止まる。
「な、なにっ!?」
ナコが振り返った瞬間、瓦礫の影から巨影が躍り出た。
それは二足歩行の異形——人型に似てはいるが、骨格は歪み、皮膚は岩のように赤黒く、肩から背にかけて棘のような突起が連なっている。瞳は赤い裂け目のように光り、口腔の奥から再び獣じみた咆哮を迸らせた。
「ひっ!?」
その巨体はナコたちの星の平均身長の二倍以上、軽く四メートルはある。
振り上げられた腕は岩塊のようで、瓦礫を易々と砕き散らす勢いだった。
「おいおい……シャレになんねぇぞ!!」コルトの叫びと同時に、異形の影は一直線にナコたちへ襲いかかってきた。
第13話『禁止惑星ストラトバティス(後編)』に続く。




