第11話 禁止惑星ストラトバティス(前編)
第二章: 禁止惑星『ストラトバティス』編
銀河軌道線・非正規裏ルート《ルートΨ》の深淵を滑る列車は、かすかな振動を足元に伝えながら、宙の裂け目を渡っていく。窓外には光の筋が複雑に交差し、無音の稲妻のように銀河を切り裂いていた。追っ手を振り切った興奮がようやく落ち着き、車両内には一瞬の静寂が訪れている。
コルトとミルトは、ジャコウの小型端末を卓上に置き、ストラトバティスの座標データや周辺環境の解析に没頭していた。ミルトが端末に表示された数値を指でなぞりながら言う。
「酸素濃度は地表で十分。気温もノワリクトとほぼ同等だな。平均で摂氏三十三度前後。極端な気温差はなし。有毒ガスの反応は……ないな」
「つまり、降り立っても呼吸できるし、凍え死ぬこともないってわけだ」コルトが顎で端末を指す。
「惑星探査用スーツもいらねぇ。ありがたい話だな」
その横で、ナコとアゲハは向かい合わせに座っていた。互いに顔を見合わせると、逃亡と再会の渦中にあった感情が改めて込み上げ、自然と笑みがこぼれる。
「……本当に、無事でよかった」ナコがしみじみと言う。
「うん……ナコも」アゲハの声は落ち着きを取り戻している。
しばし沈黙が流れ、ナコは真剣な眼差しでアゲハに尋ねた。
「あのさ……禁書盗難のニュースが流れた日のこと、詳しく教えてほしい。あの日、アゲハが銀河警察に連れて行かれるまで……ジャコウさんはその時、家にいなかった? 変わった様子はなかった?」
アゲハは視線を落とし、記憶をたぐるようにゆっくり話し出した。
「……禁書盗難のニュースが流れる二週間前から、ジャコウ兄さんは家に帰ってなかったの。“銀河中央図書館の最高位司書を目指すための一般社員の集中研修”って……二週間は戻れないって言って。だから、何も疑ってなかった。普通に信じてたんだよ。なのに……」
彼女は息を吸い込み、言葉を続ける。
「でも、あの日——禁書盗難の速報が流れた早朝、通学の支度をしてたら、突然、銀河警察が家に踏み込んできて……何の説明もなく、私を連行したの。その後は、ナコも知っているとおりだよ……」
その話を黙って聞いていたハリーが、ふと口を挟んだ。
「銀河中央図書館最高位司書ってことは……リリークスだな。銀河政府中央政権筆頭四人衆の一人。政府の犬だ」
「銀河政府中央政権筆頭四人衆」——エストリプス銀河全体を牛耳る最大惑星ノワリクト統治者ジザーランドの周囲を固める絶対権力者たち。ナコの脳裏には、『留置の間』脱出の際に現れた銀河政府筆頭秘書官・ラークラの顔が浮かんだ。
「そういえば……あのとき、リリークスはいなかったな。本来、銀河中央図書館はアイツの管轄だろ? なのに、なぜラークラが出てきたんだ……」少し離れたところで聞いていたコルトが低く唸る。
「……わからないことばかりだな」ミルトも短く応じた。
そんな会話をしているうちに、車両全体に自動音声の声が響いた。
「おっと、そろそろだ。ストラトバティスが見えてきたぞ。着陸態勢に入る。衝撃に備えろ——」
窓外、群青の闇を裂いて浮かび上がるのは、灰の縞模様を帯びた球体。少しの緑と砂漠の海原のような光景が渦を巻き、その中心には大陸らしき影が浮かんでいる。車両全体がわずかに軋み、推進音が低く唸った。
計器を操作するコルトの声が車両内に響き渡る。
「よし……行くぞ、第一の目的地だ! 未知の禁止惑星、高まるぜ!」
銀河鉄道は、光の膜を破るようにして降下を始め——
こうしてナコたちは、第一の目的地、禁止惑星ストラトバティスの地に、ついに降り立った。
第12話『禁止惑星ストラトバティス(中編)』に続く。




