従者ゴスの仕事
師匠の屋敷に部屋を宛がわれ、落ち着いた頃合いで師匠に呼ばれた。
重厚感の在る広い書斎で「今日から君には、この基本魔法文字を覚えて貰う」と言って
小冊子を渡された。
小学校低学年の国語の教科書みたいな冊子。それに見たこともない奇妙な文様の文字が、ビッシリ書かれていた。一千語ほどもあるだろうか。
「此は魔法文字と言って、此を覚えなければ魔法は使えないのだ」
僕は素直に、「はい」と答えてその場を辞した。
それからは、毎日机に向かい魔法文字の暗記に明け暮れた。
僕の従者として、16歳のゴスという青年が就いた。
ゴスは何故か、毎朝僕の身長と体重を記録していく。
ある朝食の時に師匠にその事を聞いてみた。
すると師匠は藪睨みの目をギロリと僕に向けて長々と説明し始めた。
「普通、適性有りは10歳ほどで成長が終わる。君の場合マナの量の割に成長が遅れている。多分スキルに目覚めるのが早すぎて、身体の成長のマナを喰っていたモノと思われる。これからはスキルを使ってはならない。パッシブスキルが有るのも成長の妨げだ。だから君は病気をしてはならない。泣いてもならない。マスターベーションもしてはならないぞ。これらはすべてマナを浪費することになるからだ。成長曲線が安定してきたらこれらのタブーは解除する。それまでは日々の記録はとらせてもらうぞ」
と言われた。マスターベーションって・・・・・
未だ精通していないので、今世ではしていないが、あまりにもあからさまな師匠の言い方に唖然としてしまった。
まあ、成長が止まるほど、スキルを使いまくったからな。
今更ながら妹の成長の悪さを思い出して、落ち込んだ。
一月で、基本文字をマスターして次のお題を出された。
分厚い本を数十冊手渡されて、此をよみなさいといわれた。
一冊の本を読み終わるのに2ヶ月掛かった。いちいち基本文字と照らし合わせて読んでいく。
魔法文字のやっかいなところは文章の意味によって読み方が変わるところだ。
ちょっと日本語に似ている。読み方を正しく発声しなければ魔法は発現しない。
師匠ほどに生ると発声しなくても、念じるだけで発現するそうだ。
なので魔法文字をスラスラ読めるようにならなければならない。
僕は本を読みまくった。渡された本は基本魔法文字を見なくても読めるようになった。
そんなある日、魔法理論の書かれた本の中に、無属性について書かれた本に出会った。
ここに来て一年たった、10歳のときだった。
百五十年前に書かれた魔法の研究書だ。
無属性適性についての考察
マーロン・ドッジス著
諸侯等もよく認識しているように、マナとは生命力に他ならない。
マナが少ないと虚弱で、早世し易い。
適性、体力、知力、スキルすべてマナの多寡で、優劣が決まる。
魔法は適性がなければ、使うことが出来ない。また、適性があってもマナが少なければ、魔法は発現
しない。マナが少なければ大魔法をいくら詠唱しても発現しないのだ。
ここで不思議なのは、無属性である。無属性の特有魔法は未だ発見されていないが、スキル保有者に
は必ず無属性の適性がある。
そしてスキルを使うとマナがギリギリになるまで減り、不完全でも取り敢えず、事象が起きる。
まるで、無属性がストッパーとなって事象を起こさせているように見える。
無属性の保有者でないスキル有りは、過去50年のうち一名のみだ。
その者は双子で、二人ともスキル保有者であったが、一方は無属性の適性有りだったが
もう一方は無 属性の適正無しだった。マナは100で適性なしの平均値だった。
適性なしの方は10歳でスキルに目覚めたが1年後に死亡した。
スキルは特殊で、術者のマナを否応なく消費する。無属性のストッパーが無ければ術者は命を刈り取ら
れる事になるだろう。この事からスキルは無属性の特有魔法と言えるのではないだろうか。
僕はこの文章を読んで、確信した。
多分百五十年前にも転生者がいたのだ。そして転生する為に、托卵のようなことがおこなわれる。
子供の身体には負担になる、転生特典スキルを二分して一方を捨て駒にするのだ。
妹は自分の命を使って僕の身体の負担を肩代わりしたのだ。
僕は、泣いた。声を限りに。正に慟哭。今まで押さえてきたモノが一気に吹き出して、涙が後から後から湧いてでた。
僕の従者が慌てて、師匠を呼び、師匠によって僕は強制的に眠らされた。