冒険者ギルドでの仕事
獣人は皆、立派な体格をしていて、ここでは僕は、普通の部類だ。
ギルドには、100人が常住している。ギルドの職員、使用人などだ。
有事の時はギルド職員も魔物に対峙する。逞しい人達だ。
ギルドの建物の1階は造りは大きいが、他のギルドと同じだった。前世の銀行の様な受付が中央にあり、獲物の搬入口が別になっている。ギルド入り口から向かって右が食堂。左が購買部だ。受付の奥の方は薬師の作業場になっている。
購買部には、各種ポーション、防具、武器、その他の雑貨などが販売されている。これは一般には販売されていない。冒険者に特別価格で提供される。
この価格の仕組みは、サウスでは、無かった。此処は辺境の開発最前線だ。
中ツ国のような、比較的魔物が少ない所とは違う。日々命の危険に晒される厳しい場所だ。
その為、冒険者の地位は高い。
今日は初仕事だ。勢い込んでギルドに入っていった僕に任されたのは、事務方だった。事務所で僕が呆然としていると、美しい受付嬢が
「貴女、魔法士よね!」と言った。僕は鼻穴を膨らませ、
「はい!そうです!」と答えると
「なら、文字、読めるわよね!」と言われた。そりゃあ、文字が読めなければ魔法士は務まらない。
「だったら、はい!よろしく」と言って書類の束を渡された。
傍らではトム兄が横目で僕を見て、首をフリフリ『黙って、仕事しろ、バーカ』と、口パクで伝えてきた。トム兄は魔法兵士だ。確かに文字は読める。
僕は、ため息を一つして、素直に書類を受取った。
考えてみれば、ここは獣人の国だった。魔法士なんぞ居なくても十分に成り立ってきたのだ。
ずば抜けた身体能力と国民の9割が何らかのスキルを複数保有しているのだ。
そして、ここには中ツ国のような識字率向上政策はない。また、獣人は、人族と比べると、やや知力が低い傾向にあった。
一言で言えば、脳筋の集まり。気の良い奴ばかりだが、僕の使いどころ、間違っている!
一人、ぶつくさ言いながら、書類しごとを黙々と熟した。
☆
そんな日々を過ごしていたある朝、魔物の大量発生が確認された。
僕は人生初のスタンピートに浮き足だった。しかし、ギルドにいた冒険者達は、
「「稼ぎ時ダアー!!」」と言って飛び出していった。
僕はトム兄にどうすれば良いか聞くと「ギルド長の指示を待て」と言われた。
暫くソワソワしながら待っていると、ギルド長がやってきて、
「カムイ。お前、アイテムボックス持ってたよな」といわれた。はい。と答えると、
「ちょっと行って、ブツ拾ってこいや」と言われた。何とも釈然としないまま、おとなしく他のポーターと一緒になって、出発したのだった。
2時間馬車に揺られ、着いたところは、正に戦場だった。
至る所に大小様々な魔物が、所狭しと犇めいていた。それを、実に効率よく、端から倒していく。
獣化した冒険者達が最前線で、強力な魔物と対峙している傍ら、身体強化や剣術のスキル持ち達が周りの雑魚を次々と屠っていく。
その後を、アイテムボックスもちのポーター達が、めぼしい獲物を選別し収納していく。その後ろではじかれた魔物を解体班が必要な部位を漁って、残った邪魔な獲物を脇に寄せていく。
僕はただただ圧倒されて、為す術無く、言われるがまま、黙々とブツを収納に入れていった。
一日中、いつ果てるとも知れない魔物の群れ、延々と続く討伐。
日没後、それにもやっと終わりが見えてきた。
「君のそれ、まだ入る?」
と聞かれたので、「はい。まだ、まだ大丈夫です。」と答えた。何しろ、無限収納だ。幾らでも入る。それは言わなかったが、矢張りビックリされた。
餞別から外された魔物は、コッソリ別枠で収納した。普段なら、ソコソコ良い値で、取引されている物だ。貧乏性のサガだ。勿体ないと思ってしまう。
夜が明けて、漸く僕達の作業も終わり、帰途についた。
今回のスタンピートで魔物の回収率が最高値をたたき出した。
これで、ギルドの職員達から、一目置かれるようになった。
まあ、良しとしよう。
書類整理しか能が無い役立たずと思われるよりは良いだろう。