プロローグ
この世界の植生は、実に特異性に富んでいる。
例えば、植物油。以前僕が生きていた世界では油を取るには大変な作業でそれなりの産業になっていたのだが、こちらでは普通に木に生っている。
庭先に生えている『ゆのもく』という木の実から採れる。
ツルツルとした木肌で木の根元にドリアンのような実が瘤のように10個程くっついているのだ。
一つの実から2リットル程の植物油が採れる。
同じように、塩も植物から採れるし、ミルクのような樹液を出す木もある。
異世界の田舎に転生したと気づいた時、僕は愕然としたけれど、不便なことはそんなに無かった。
米も普通にあった。見た目は随分違うが。何なら此方の方が優れている。
テニスボール程の籾の中に一合程の米粒がギッシリ詰まっていて、籾のまま保存しておけば十年でも平気で持つ。
そして紙は、パッピルスという木から採れる。 秋になるとパッピルスの葉は落葉する。白くて適度のざらつきがあり和紙によく似た質感だが、和紙のような手間のかかる加工はいらない。
1メートル程の大きな葉っぱを水に晒して柔らかくして、葉脈を取ればいいだけだ。この領地の特産でもある。
領民総出で落ち葉を集め、規格別に分別成形し製品にする。国に税として納めたりもする。
まあ、便所は、どっぽんだが、異世界に限らず田舎あるあるだ。
尻拭き用の紙は売るほど在る規格外のパッピルスがもらえるので不便はない。(よく揉んで柔らかくして使う。)
前世のような過剰な便利さは、今思うと自分にはあまり必要では無いと感じる。
時間もまったりと流れ、正にスローライフだ。
毎日外で遊び、近所の子供と悪戯をして、大人に叱られてにげまわる。皆と笑い転げ木に生っている果物を食べたりする。
森の入り口まで行って木登りをしたり、ネズミの穴を見付け罠を仕掛けて、ネズミを捕ってきたりもする。田舎の悪ガキの大将だ。
要するに、何を言いたいかというと 今僕は異世界ライフを満喫している。
転生出来て本当に良かった!