降るメダル
月曜日。
朝イチから電車に乗って、県境を越えた街まで来ていた。
今日はそのホールで月イチの大型イベントがあると、数日前から下調べしていた。
「ここで勝てなきゃ、今月キツいな……」
そう思いながら朝から打ち続けた。 結果――5万負け。
財布の中は空に近い。 帰り道、足取りは重く、心は乾いていた。
駅へ向かう途中、ポケットに残った20円玉サイズのメダルを5枚。
手持ちでちょうど100円分あった。
「……1回転なんか回してくりゃよかった」
そのまま、目についた住宅のポストに無言で滑り込ませた。
軽い金属音。すっきりした気分だった。
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火曜日。
朝起きて、ふと部屋の散らかり具合が気になった。
ゴミ袋を手に、漫画や空き缶、着なくなった服をまとめ始める。
「……たまには片付けないとな」
掃除機をかけようとソファを動かしたとき、床に何か光るものが見えた。
メダルが数枚、散らばっていた。
「昨日のパチスロの……? いや、もう使い切ったはずだけどな」
さらに机の下や押し入れの隅からも、メダルがぽろぽろと出てくる。
にしても部屋が暑い
エアコンを入れる22度その瞬間瞬間、足元に1枚落ちた。
「……おいおい、なんでこんなにメダルあんだ?」
手のひらいっぱいにメダルを抱えながら、苦笑いした。
「ま、いっか。換金しても大した額じゃないし」
とりあえずまあ腹も減ったしコンビニに行く事にした
コンビニで買い物をしたとき、レシートに「お釣り:33円」と印字されていた。
すると足元にまたメダルが落ちる
「財布の間に挟まってたのか?にしてもメダル持って帰って来すぎだろどんだけ俺負けてんだ」
コンビニの帰り道
「今だけお買い得!4444円」という表示を見たその瞬間、
バラバラバラバラ!!
突然、頭上から金属の雨が降り注いだ。
「うわっ!? うわああああっ!!」
人通りの少ない裏口だったのが不幸中の幸い。 メダルはドラム缶を倒したような勢いで地面にぶつかり、跳ね、滑った。
10000枚……いや、それ以上かもしれない。
足元が滑り、背中に何かが当たった。転がりながら、必死で逃げ出す。
「やばいやばいやばい!!なんなんだよこれ!!」
改札の外まで全力で走り抜けた。背後ではまだジャラジャラと音が鳴り止まなかった。
そのまま電車に飛び乗って帰宅した。
靴も脱がずにベッドに倒れ込む。
「……なんなんだよ……今日は……」
頭が回らない。現実味がなさすぎて、心が拒否していた。
「夢だ。そう、悪い夢だ……明日になれば、きっと全部元に戻ってる……」
布団をかぶって、目をつぶった。
「……いやいやいや……何これ……?」
偶然にしては続きすぎている。
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水曜日。
朝、目が覚めて布団の中でしばらくぼーっとしていた。
「昨日のあれ……夢だったよな、さすがに……」
けれど、視界の端に光るものがある。 部屋の隅や本棚の下、カーテンの裾、靴箱の陰。
メダル。
火曜日に片付けたとき、そこら中から出てきたやつだ。
「……こんなにあったっけ? いや、さすがにこれはおかしいだろ……」
だけど、数日前の記憶はあやふやで、確信が持てない。
気づかないふりをして出勤の支度を始めた。
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木曜日。
目が覚めて、天井を見上げた。
「……ああ、やっぱり夢だったんだな……」
そう思って横に置いたスマホの画面を点けた。
11:11
ピッタリと表示されたその瞬間、部屋が揺れた。
「は……? 嘘だろ……?」
目の前に広がる光景。
部屋いっぱいに、銀色のメダルが一気に噴き出した。
ベッドが沈み、机が傾き、棚の本が雪崩のように崩れた。
耳が痛くなるような金属音。天井に跳ね返ってくる破裂音。
「やめろ……やめてくれ……!」
思考がうまくまとまらない。手が震える。 立とうとしても、足が床に届かない。メダルの海に沈みかけていた。
叫ぼうとして、声が出なかった。 正気を保てるはずがなかった。 自分の周囲だけがパチンコホールの床のように変わっていく。
「換金すれば……儲かる……」
そう思ってパチスロ店へ直行。最初は何も言われなかった。
が、数時間後――
「お兄さん、ちょっと話聞かせてもらえるかな?」
カウンターで声をかけられた。慌てて逃げる途中、ポケットのメダルがじゃらじゃらと音を立ててこぼれた。
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金曜日。
慎重に過ごしていた。
時計も見ない、ナンバーも避ける、余計な数字は極力見ないようにしていた。
自宅ではアナログの掛け時計を裏返し、スマホは機内モード。
視界に入りそうな画面や広告はなるべく避けて歩いた。
「ここまでやってれば、大丈夫だろ……」
そう思っていた。そう、あの瞬間までは。
商店街の角を曲がったとき、突然、視界に文字が飛び込んできた。 風でめくれた紙が、目の前にふわりと舞い落ちたのだ。
それは、宝くじ売り場の貼り紙。
「昨日の当選番号:777777」
「――っ!」
一瞬、紙をはたき落とそうと手を出したが、時すでに遅かった。 数字は、しっかり視界に入っていた。
カシャカシャカシャカシャ――――!!!!!!
銀の雨が、空から町全体に降り注いだ。
自販機の屋根に当たって弾ける音、傘の上で跳ねる音、
走る人々、潰れる屋台、通行止めのサイレン。
金属音が、町を飲み込んでいく。
銀色の波が、彼の姿を完全に覆い尽くす。
それ以降、彼の姿を見た者はいなかった。
修正完了しました!
水曜日の朝に「昨日は夢だったのかも」と思いつつも、部屋に残る大量のメダルに違和感を抱く描写を追加
完全には信じ切れず、モヤモヤを抱えたまま日常に戻ろうとする姿がリアルに描かれています
これで木曜日の恐怖との対比もより効果的になりました。
ご確認のうえ、次に進める際は「第8章お願いします」とお伝えください!