当るくじ
火曜日、朝。
駅前の肉屋の前に、小さな募金箱が置かれていた。
「未来の子どもたちに、ささやかな支援を」
そんな手書きのポップが添えられている。
「……あら、いいわねぇ」
買い物帰りの陽子さんは、財布から小銭を取り出し、
百円玉をひとつ、募金箱に入れた。
(もし宝くじが当たったら、この子たちにもっと寄付してあげたいわ……)
それは、ふわっとした、けれど本気の願いだった。
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水曜日。
何気なく買ったスクラッチが、当たった。
三千円。
「まあ、ちょっとしたご褒美ね」
笑って、もう一枚だけ買った。
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木曜日。
今度は一万円が当たった。
しかも、当選の文字を見たとき、陽子さんは、
「次はもっと大きいのが当たるかも」と自然に思っていた。
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金曜日。
本格的に宝くじを買い始めた。
ロト、スクラッチ、ナンバーズ。正直当る確信しかないから番号も適当なゾロ目にしてやった
結果――
三十万円の当選。
笑いながら、近所のお店で高級なお肉を買い、
仲の良い友人たちに食事をご馳走した。
「寄付? もちろんするわよ、落ち着いたらね」
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土曜日。
ナンバーズで五百万円を当てた。
税理士を雇い、口座を分け、投資の相談まで始めた。
「寄付? もちろんよ、ええ。でも今は手続きが忙しくって」
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日曜日。
ロト6で一億円を当てた。
マンションを即決で購入。
ブランドバッグをいくつも抱え、
友人には高級車をプレゼントした。
「寄付? そうねぇ、タイミングを見て……」
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月曜日。
豪華客船で世界一周旅行のパンフレットを眺めながら、
陽子さんは思った。
(もう、宝くじなんて買う必要ないわね)
(だって、なくなったらまた買えば当たるんだもの)
紅茶を飲みながら、のんびり微笑んだ。
寄付のことは、すっかり頭から消えていた。
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