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会えるバス


火曜日。学校帰り、駅前のバス停でコロッケを一つ買った。

なんとなく匂いに釣られて。なんとなく、目の前の看板に“手作り100円”と書かれていたから。


その日、特に何も起こらなかった。

ただ、翌日のバスで――隣のクラスの先輩が乗ってきた。


たまたまかもしれない。いや、そう思っていた。


木曜日、また同じ時間、同じ路線のバス。

また先輩が乗ってきた。


金曜日も。やっぱり先輩は、同じ席に座った。

話しかける勇気はないけど、見つめることだけは許される距離だった。


「これ……もしかして、コロッケのおかげ?」


思い返してみると、あの日から妙な偶然が続いている。



---


土曜日。

平日より少し遅い時間のバスに乗る。

特に何を思うでもなく、スマホでドラマを見ていた。


画面の中には、今をときめく人気俳優が映っていた。 ふと目を上げると、その俳優がバスに乗ってきた。


その後も、見ていたドラマに出演しているアイドル、モデル、声優が次々に乗ってきた。 車内がまるでテレビの中の世界になったようだった。


「……これって、もしかして……」


偶然とは思えない出来事に、彼女は初めて“何かがおかしい”と気づき始めていた。


さすがに怖くなってきた。


「……まさか」と思いながら、遠くに住む姉のことを思い浮かべてみた。


次の停留所で、姉が乗ってきた。



---


日曜日。学校は休みだったけど、能力の正体を確かめるためにバスに乗った。


“会いたい人”を思い浮かべれば、必ず現れる。

最初に思い浮かべたのは、小学校時代の親友・紗英だった。 引っ越してしまって今は離れた町に住んでいるけれど、あの頃は毎日一緒に笑っていた。 次のバス停で、本当に紗英が現れた。


続いて思い浮かべたのは、今は疎遠になってしまったいとこのお姉ちゃん。 中学生になってからは連絡も取っていなかったけれど、優しくて遊んでくれた記憶が残っている。 やっぱり、バスに乗ってきた。


でも――ふと、嫌な人のことが頭をよぎってしまった。


最初に乗ってきたのは、小学校のときに意地悪だった男子・柿沼。 消しゴムを勝手に使われたり、給食で嫌いなメニューを押し付けられたりした記憶が残っていた。


次に現れたのは、去年のクラスでやたらと噂話をしていた女子・宮前。 一度、好きな人のことを話したら翌日には学年中に知られていた苦い思い出がある。


さらに現れたのは、塾でいつもマウントを取ってきた男子・松井。 成績のこと、制服の着方、文房具の値段まで、とにかく何かにつけて競ってくる面倒なタイプだった。


思い出すたびに、バスの車内は嫌な人たちで埋まっていった。

気づけば、息が詰まるほどの居心地の悪さ。


「この力……危ない……」



---


月曜日。 “先輩が乗ってきますように”と、強く願っていた。


静かに、そっと、目を閉じていた。


次のバス停で、先輩が見知らぬ女性と一緒に乗ってきた。


その女性と親しげに話す姿を見た瞬間、胸の奥がざわついた。 それ以上見ることができず、目を閉じた。



---


火曜日。

バスには、先輩は乗ってこなかった。

それ以降も、先輩の姿は見ていない。


今では、少し時間をずらしてバスに乗るようにしている。

乗っている間は、ただ一つだけ祈る。


「どうか、先輩と彼女が乗ってきませんように」


祈りは、今日もきちんと届いている。

そう、彼女は信じていた。




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