叶えるノルマ達成
「……ノルマ? はい、進捗は……あと13件残ってます」
男はスマホを肩に挟みながら、埃をかぶったパソコンの電源を何度か押しては諦め、
代わりに紙ファイルをペラペラとめくっていた。
外は曇天、境内は今日も無人。時計の針だけが時間を刻んでいる。
「いや、だから営業は無理ですって……場所的に外に出られないんで……はい、ええ、わかってます、そういう決まりですから……」
受話器の向こうから怒気混じりの声が聞こえてきたような気がしたが、気にしない。
「……あ、ひとつ入りました。例の箱経由で。希望内容は……記載なし。そういうの、最近多いですね」
男は引き出しから契約処理シートを取り出し、いつものようにさらりと書き込む。
願意未記入、期限未定。分類:簡易対応。
「まあ、額面はそれなりでしたし……逆にありがたいくらいですよ。手間も少ないですし」
そう呟いて、椅子を軋ませて横に倒れる。
「じゃあ、例の通り対応します。はい、無理のない範囲で。成果は……まあ、出ればってことで」
通話を切ると、男はそのまま毛布をかぶり、小さく丸まった。
パソコンのランプがひとつだけ、静かに点いた。
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そのころ、街の端を歩いていた営業マンは、なんとなく立ち止まり、空を見上げていた。
気づけば、古びた神社の前を通り過ぎていた。
財布が少し軽くなったような気がしたが、何かに使った覚えはない。
「……ま、たまには運にでも頼ってみるか」
誰に言うでもなくつぶやき、ネクタイをゆるめる。
そしてその日、彼のスマートフォンに1件の通知が届いた。
【先方より再提案の相談希望】
驚きながらも、彼はゆっくりと会社の方向へ歩き出した。