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死に戻り令嬢 性別を偽って女人禁制、イケメンだらけの孤島の神学校に潜入し絶望の未来を回避する

作者: ガブリエル




嫌味ったらしいぐらいに晴れ渡ったマリアブルーの空。


断頭台ギロチンの刃が陽射しを照り返してギラギラ輝いている。



父、母、妹の首が、続けざまに飛ぶさまを目のあたりにしたわたしの心は、刃が届くまえにとっくに殺されていた。




「公爵令嬢ユリアン・フォン・ランスフェルト、お前の罪状を読み上げる。素直に罪を認めて少しでも冥府での罪業を軽くするのだな」




ふたたびデタラメの罪状が読み上げられて、一瞬、怒りに心の表面が波だったけど、そのさざ波もすぐに消えていく。



もう何もかもどうでも良かった。



まわりの群衆たちから、罵声が飛んでくる。



「魔女め」「悪魔と契約した汚らわしい魔女め」「死ね、死んで詫びろ」



財産目当ての叔父によってかけられた冤罪。


死産してきた皇太子さまをお腹のなかで呪い殺した、というのがわたしの罪状らしい。


誰がどう見ても偶然の、不幸な死産でしかないのに、わたしとその家族はスケープゴートにされて処刑されることになった。



鋭く、凶悪な刃がわたしを目がけて落ちてきた。



鈍く、激しい音。衝撃。




その瞬間。







「はぁ………はぁ………はぁ………」




わたしは、荒い息をつきながらベッドのうえで目覚めていた。




枕もとのカレンダーがちょうど三年前の同じ日づけに逆行していること。



それに気づいたのは、ひとしきり泣いて泣いて、目を腫らしたあとだった。




□□




リビングで淑やかにお茶を飲んでいたお母さまに、自分が体験したことを話した。すると、その反応は予想外に鮮烈なものでした。



まるで信じてはもらえないだろうと思っていたのに………。




きりりと凛とした鋭い眼差しになったお母さま。




「はやく荷物をまとめなさい」



「………え?」



「あなたは一刻もはやくこの土地を離れなければなりません」




「きゅうに、なにを言って」




「あなたは、公爵令嬢ユリアン・ランスフェルトは死んだことになって、別の土地で」

別人として生きなくてはなりません




「………」




頭がついていかない。もしかしてこれは夢の続きなのかしら?




「わたしも、あなたぐらいの年の頃に体験したことがあるのです。



【死に戻り】を」




思わず息をのんだ。




「………お母さまも?」




「ええ。あなたのおばあ様もね。わたくしの母もね」





お母さまによれば、この【死に戻り】の能力はわたしたちの家系のなかで女性だけが先祖代々受け継いでいる特殊な能力なのだとか。



でも、この能力はお腹の中で新しい命を育んで出産した瞬間に失われてしまうのだという。




その日の夜。墓場の亡霊だって微睡まどろみそうな深夜、わたしは夜逃げ同然の状態で出立させられた。


わたしの荷物がいっぱいに積み込まれた馬車に同乗してるのは執事ただ1人。幼馴染として子供の頃からともに過ごしてきたヘインリッヒだ。


絶世の美男子として他家の令嬢などから騒がれているイケメン執事だけど、わたしにとっては弟みたいなものなので何も感じない相手だ。


少なくとも駆け落ち感、愛の逃避行感がまるきり出ないくらいには男を感じない。



わたしには行き先さえも告げられていなかった。




「ユリ殿の口が軽すぎるからですよ」



無駄にきらきらと輝くゴージャスな金髪をかきあげながら生意気な執事がそう言ってくちびるをとがらせた。



「あなた、絶対に口を滑らせて行き先を吹聴してしまうでしょ。ケサランパサランより口が軽いんだから」



「どういうたとえよ?それ?」




無駄にイケメンで他家の令嬢にモテモテなだけなら良いんだけど、この執事は口が悪い。



口の悪さと顔の良さを取り換えて産まれ直してきて欲しいくらいには口が悪い。



他家の令嬢が見向きもしないブサメンで、かつ天使のように気だての良い青年に。




「それにしても………あなたの生きた世界線で、このぼくはなにをしていたんですか?黙ってユリ殿が処刑されるところを見ていたっていうんですか?」



「事前に………毒殺されてしまったのよ、あなたは。世界有数の剣の達人だってことが世間に知れ渡っていたから」



ヘインリッヒは不満げに鼻を鳴らすと



「ぼくが、ユリ殿を残して死ぬわけがないでしょ?」



こちらを真っすぐに見つめてくるヘインリッヒ。


北欧の、底まで透き通った湖面みたいに美しい瞳。




今生こんじょうでは、たとえ殺されても墓所から蘇ってあなたを守り抜きます」




なんで、みんな、わたしの話をこんなに真っ向から信じてくれるのだろう?



ふだん、意地悪なヘインリッヒの真っすぐすぎる瞳に、ちょっと、胸がドキッとした。



地平線が朝焼けに染まるなか、馬車が到着したのは港町だった。



大型船がいくつも停泊している立派な港。




「もしかして………わたしたち船に乗るの?」




ヘインリッヒは皮肉げに微笑んで。




「ええ。自主的な島流しです。ユリ殿を陰謀の魔の手から守るために………あなたには公的には死んでいただきます」




「どういう意味よ?」




故郷において、わたしが文字通り死んだことになっていて、数日後には葬式まで執り行われていたことなんて、わたしには知る由もなかった。



停泊中の船のなかでも一番立派な船………




その横に浮かんでいた一番のオンボロ船にわたしとヘインリッヒは乗り込んでいった。




□□




「なによ、これ………」



オンボロ船の薄暗い船室で、ヘインリッヒに服を手渡された。


それは、まるで青年の学徒が身に着けるような地味な色合いの男装で。




「ユリ殿には、今日から別人になってもらう必要があります。とりあえず本日で女性は廃業してください」



なにを突拍子もないことを言うのだろう。この男は。性格の良さだけじゃなく、頭脳のスペックも顔の良さに変換されてしまったんだろうか?


これではヒモ属性のダメンズに目が無い好事家の令嬢しか婿の貰い手が無いのではないか、とヘインリッヒの将来が心配になる。



「心のなかでものすごくぼくのことをバカにしてるでしょ?でもね、これ冗談じゃありませんから」



「いや、冗談であれ」



「なにを言ってるんですか?性別を偽って、今日から別人として生きる。これ以外にあなたを守りきるすべはないのです」



異常な信念の輝きにキラキラと輝いているヘインリッヒの瞳。



荷物をごそごそ漁っていたかとも思うと、振り返ったその手には禍々しい光沢を放つハサミが握られている。



「なにをするつもりなのかしら?」



わたしが顔をひくつかせながら質問すると。



「どこの世界に………そんな背中まで髪を伸ばした男の子()()()がいますか?そんな艶々の長髪をひけらしていたら女性だってモロバレじゃないですか?」



わたしは、ヘインリッヒの手によって半ば強引に散髪されてしまった。


少し中性的な美少年ってくらいのショートカットに。



「うん。似合ってますよ。女だてらに革命をおこして処刑された女性英雄ココ=ウィドウみたいに凛々しいお顔です。これなら女性と見まがうばかりの美少年で通るでしょう」



「縁起でもないたとえしないでくれるかな?」



いまのわたしとって『火刑にされた女英雄』は身につまされ過ぎる。



ショートカットにして、学徒風の男装に着替えた鏡のなかのわたしは、なかなか様になっていた。


あまり発育のよくない体つきが功を奏してるみたい。



「貧乳に産まれたことを、神に感謝する日がくるとは思いませんでしたね」




いっしょに鏡をのぞき込みながら意地悪な表情でつぶやくヘインリッヒのわき腹に肘鉄をいれてやった。




日の出の光に孤島が浮かび上がる。


オンボロ船は、無事に目的地に到着したのだった。




「これって………」




―――そこは



島全体が、まるまる一つのひとつの学校の敷地となっている、世界でも有数のエリート神学校。



聖ペトロ神学院だった。



各国から名門貴族のエリート学生が集まってくる世界最高峰の教育機関であり、中高大学と絶対的な女人禁制を貫く超ストイックな男子校。


各業界、政界や経済界、あらゆる分野でトップに立つ人材を輩出していることで知られ、国王に並び立つ権威をもつ法皇も、三期連続でこの学院の出身者がつとめている。


もはや、各業界のトップや法皇を目指すには子供の頃から逆算してまずはこの学園への入学を目指さなきゃいけない。そう囁かれているほどの超名門。



将来、世界を牛耳る権力者を育成する学び舎。




「まさか………」



「ええ。そのまさかですよ。ユリ殿には、あの聖ペトロ神学校に入学し、3年間を過ごしていただきます」



「ねぇ、なにをバカなこと言ってるの?あれって完全女人禁制の男子校だよ?」



「だから、男装してるんじゃないですか」



「はぁ?」



「ユリ殿は男子生徒して、あの学園に入学するのですよ」




あまりにもトンデモな展開に、頭がくらくらしてきた。



「すでに、ご両親の伝手つてによって入学の手続きは済んでいます。ぼくもいっしょに入学して全力でサポートいたしますのでユリ殿はなにも心配なさらずに」



いや、心配するでしょうが。


心配しかないって。




□□



ひとつの小規模な島が、まるごと学園機能に特化した学園都市、一大学生街になっている………そして、この島自体が修道会の敷地であり、神学校の内部として扱われるため女性の上陸すらお断りされている。


それが、この島。



だから、わたしが普段通りの服装(ヘインリッヒに言わせるなら『虚飾にまみれて豪勢な』)をしていたなら間違いなく入港した直後に門前払いをくらってしまう。


でも、今回は特になんのお咎めも無く港の学園事務局で入島の手続きを終えることができた。



多少、中性的で女の子じみた少年くらいこの島では珍しくないのかも知れない。




「よかったですね、ユリ殿が男顔おとこがおで」



「それ、いったいどういう意味でおっしゃっているのかしら?」



わたしはヘインリッヒに剛腕ヘッドロックをかけながらおしとやかなに問い返した。



確かに男装にあまり違和感がないのは自分でも引っかかってた。



「ユリ殿ならイーリッシュの女性歌劇団で男役がつとまりますよ」



「まだ言うか」



拳でこめかみをはさんでグリグリしておいた。



「おうぅ!MISAEスタイル!」



たまにヘインリッヒはわけのわからないことを口走る。



「………それにしても」



幼稚舎から大学院まで、全カテゴリーがおさまった女人禁制の男だらけの学園島。



それは不思議な空間だった。



学生街らしい古書店の並ぶ通りを歩く、男の子たち。いちばん年長に見える年ごろの子でも、せいぜい二十歳前後ってところ。ほとんどは十代前半の男の子で、なかにはまだ7,8歳にしか見えない小さな子もいる。


それに、この学園の入学条件に『容姿端麗であること』って条件でもあるのか?っていうぐらい綺麗な顔立ちの少年が多かった。


あれ女の子じゃないの?ってくらい中性的な顔の子も。



「男しかいない環境に長くいると、だんだんと女性あつかいされて女の子化してくる生徒がいるんですよ」



ヘインリッヒはそう言ってクククと黒い笑みを浮かべた。



「たぶん、彼氏役の生徒にさんざん愛されすぎて少女化が止まらないんですね」



「なんであなたがそんなことを知っているのよ?」



ずっとわたしのそばに仕えていたのに。



「え?これくらい一般常識ですよ?」



絶対に違うでしょ。



なぜか、古書店通りを歩くとき、すれ違う美少年たちがことごとくわたしのほうを振り返っていった。


あからさまに頬を赤く上気させている子もいる。


思わずわたしは自分の服の袖の匂いをかいだ。



なんか、女子の匂いが漏れ出てないよね?



「安心してください。ユリ殿、()()()()、見惚れられてるだけですから」




………ちょっとそれ、複雑なんですけど。




わたしたちは聖ペトロ神学院の、高等部へと向かった。



そこに着くまで、あらゆる年代の何千人という少年たちとすれ違った。


たまにいる中年や老年の男性はみんな落ち着いて雰囲気で、子供たちみんなから挨拶をされている。


そのなかにはわたしでも知っているような有名な教授もいた。



超一流の教育機関、在籍している教師の顔ぶれも世界最高峰の人材がそろってるのだろう。



男子だけ、ズルい。こんな環境で学ぶ機会を与えられるのが、男だけだなんて。ちょっとむくれてしまうわたし。



大きな大きな、宮殿みたいな高等部の学舎が見えてきた。



「生意気な生徒がいても、イジメたりしないでくださいね。通ってる生徒はだいたい名門貴族の子息か、もしくはどこかの国の王子だったりしますのでね」



「イジメるって、どういう色メガネで見たらわたしがそんな人間に見えるわけ?」



「さっきぼくのことイジメてたじゃないですか?」



「いや、あれは……ヘインリッヒが毒舌を吐くから」



「はたから見たら誰がどう見ても君主から執事へのパワハラですよ?」



わたしは言葉につまってしまった。


※こうして冤罪はつくられる。



それにしても、ああして廊下を歩いている生徒1人1人がどこかの有力者の血縁なんだとしたら本当に注意しなきゃいけない。



学生時代のもめ事とかパワーバランスって、案外その後も尾を引いているケースが多いから。


お父様も、学生時代のイジメッ子貴族をいまだに根にもって嫌っていたし。



宮殿のような学舎のなかは、室温をコントロールする魔法がかかっているのかひんやりとして涼しかった。



そして、豪勢な理事長室。


王国の大臣クラスがつかっていても不思議じゃないくらい高級感のある部屋。



そこで、知的な風貌で白髪交じりの初老の男性が出迎えてくれた。



「ようこそ、名門ランスフェルト家のご令嬢、ユリアン殿」



すこし崩れた感じの挨拶だ。



「なるほど、若いころのユーリにそっくりだ」



この学園の理事長は、父の学生時代の親友なのだとか。


ユーリは、父の名前。


父に似てるなんて初めて言われた、


男装しているせいかな?



「ユーリも、同級生たちから大変モテていたなぁ」



懐かしそうに微笑む理事長。



「え?」



思わず絶句する。


同級生からモテるって………父は男子校出身。


というか、この聖ペトロ学院の高等部を卒業しているはずなんですが。



「人には言えぬ道ならぬ恋の一つや二つ、誰にでもありますよ、ユリ殿。クククク」



邪悪な笑みをうかべたランスフェルトがそう囁いてきた。



「事情はすべて聞いていますよ。お母上からね」



しっかりと頷いて見せる理事長。



「なに、心配はいりません。あなたの身に迫った危険が解消されるまで、あなたの身はこの学園のなかで保護いたしますので。ユリアン殿は一般の学生として、気楽に学園生活を送っていただければ結構」



いや、気楽に学園生活って。女の子1人、男子生徒のなかにまぎれて気楽な生活なんて遅れるわけがないでしょうが。



「心から感謝いたします」



ランスフェルトは深々とお辞儀する。



「これだけ生徒の多いうちの学園だ、うまく馴染なじんでしまえば、ユリアン殿の存在を察知することなど誰にも出来ますまい」



いや、むしろ悪目立ちして変な評判が立っちゃったりしないよね?



□□



学園の寄宿舎へと案内された。


最高級の七つ星ホテルみたいな豪華で綺麗な寄宿舎で、とても子供たちだけで寮生活してるような建物に見えない。



「王族も数多く在籍する学院ですからね。さすがに粗末な部屋に住ませるわけにはいかないのでしょう」



理事長は気をきかせて、本来は五人で生活する一部屋を、わたしとヘインリッヒだけに割り当ててくれたみたいだ。


2人だけで住むには、あまりにも広すぎる部屋。



寄宿舎、というかホテルのような廊下を歩いているときに、何人にもの生徒たちが興味深げにわたしたちのほうを見つめてきた。



噂が噂を呼んで、わたしたちの部屋のまえに生徒たちが集まりはじめていた。



やたらと特別扱いをうける謎の転校生。しかも、その正体は男装した公爵令嬢。


これ、悪目立ちする条件が揃いすぎてない?



わたしが深刻な顔で考え込んでいると



「まぁ、そう考え込まずに。みんなすぐに飽きて興味を失いますよ」



そう言いながらヘインリッヒは上着を脱いで上半身裸になっていた。



「ちょっ!なに脱いでんの!」



芸術家の頭のなかにしか無い理想の裸体像みたいに、筋肉が美しく盛り上がったヘインリッヒの上半身。



「え?こんなもの子供の頃から見馴れているでしょ?」



そんなの6歳ぐらいまでの話であって、こんな男らしい筋肉質な身体なんて初めてお目にかかる。



ヘインリッヒはちょっとチャラい表情になって



「これから、1000回以上はぼくの裸を見ることになるんだから早く見馴れてくださいね。ほかの男たちの裸も毎日見るハメになるんですから」



たしかにそうなんだけど………。



ヘインリッヒが部屋のバスルームから洗い髪をタオルで拭きながら出てきたとき、ドアがコンコンとノックされた。


ドアを開けてみると、生徒の1人………その後ろから何十人って可愛らしい顔立ちの少年たちが部屋のなかをのぞき込んできている。



猿山のお猿さんたちみたいね……。



「なんでしょうか?」



気取った表情で胸を張っている先頭の少年はうやうやしく一礼すると



「生徒会長がお呼びです」



思わず振り返ると、ランスフェルトが溜め息をついている。



「猿山のボス猿さまへご挨拶……というわけですね」



甘い香りのする濡れた金髪をかき上げながらそんなことをささやいていた。



□□



ガラス張りの巨大なドームに、森の木々がまるごと張り付いているかのような空間。


生徒たちの共用スペース、憩いの場。


そこにこの学園の生徒会長がいるみたいだった。



何人もの下級生とおぼしき美少年をはべらせて、黄金のたてがみをもった大柄な生徒がふんぞり返ってる。


ガラス張りのドームの一番奥のスペース。



神学院の生徒会長っていうより、ギャング団のリーダーでもいるみたいな近寄りがたい一画。



ほとんど女の子化してるように見える美しい少年たちが、飼い猫みたいに大柄な生徒のまわりに寄り添っている。



「猿山のボス猿だわ………」



思わずわたしもぼそりとささやいてしまった。



「やあ、きみがユーリ・クロフォードくんか?」



黄金のたてがみをもったライオンじみた青年が右手をあげて声をかけてくる。



思わず自分のことを指さしてしまう。



それで、本名だとマズいので偽名が使われていることに思い至った。


そうだ。公爵令嬢ユリアンは死んだことになっているんだった。



愛想笑いしながら、どうもどうもと頭をさげる。



「ふむ………」



ライオン然とした大柄な青年はなぜか顎をつまんでわたしの顔をマジマジと見ると



「似ている。似すぎてる……性別が逆転しているだけではないか」



「………え?」



ドキッとした。


もしかして、以前のわたしと顔見知りの人だったのかしらん?



「いや、申し訳ない。知り合いの姉御さまにずいぶん似ていたものでね」



「はぁ」



わたしに弟はいないので、どうやら別人のことだったみたい。



「申し遅れた。俺の名はサルダード・フォン・ゴールドシュミット。一応、学内選挙によって選出され生徒会長をつとめている。まるでそういうガラではないんだがね。傍若無人に振る舞いすぎた下級生時代の俺への、ある種の罰ゲームとして生徒会長をやらされているといったほうが正確なのだけど」



みんなの怨みを買ったせいで選挙に選ばれた人なんて初めて聞いた。


というか、この人、あの有名なゴールドシュミット家のひとなんだ。



「世界三大名家のひとつであり、世界の富の10分の1を掌握しているといわれるあのゴールドシュミット家ですか」



性悪執事がボソッとつぶやく。



「季節外れの編入できみも大変だろうけど、俺たちのほうでもきみがいち早く学園に馴染めるように全力で協力しよう。というのも、理事長からそう厳命されてしまったからなのだが。はは。だからといって恩着せるつもりはないから安心してくれ」



理事長さん。親友の娘のために骨を折ってくれてるのは分かるけどあからさま過ぎやしないかい?



「そう言っていただけて、とても心強いです」



ここは丁寧に頭をさげておく。



ヌワハハハとゴールドシュミット家の御曹司は豪快に笑った。


顔を上げると、女の子と見まがうような美しい下級生たちがなぜか怖い目をしてこちらを睨んでいる。



「愛妾の座を奪われるんじゃないかと心配してるんですね」



聴こえたらどうするのよ。ランスフェルトは意地悪そうな表情でこのシチュエーションを楽しんでいるみたいだ。



□□



そして翌日。


はじめて迎える通常授業の日。



「転校生だぁ!」


「ねぇねぇ、どこから来たの?」


「あのねぇあのねぇ好きな食べ物なに?」



案の定、わたしは教室で生徒たちに囲まれて好奇心の雨あられをうけている。



ほんとうに、これ、わたしと同年代の子たちだろうか?そう首をかしげたくなるような子供っぽい少年が多かった。


もしかしたら、男たちだけで長期間にわたって共同生活をしているせいでじゃっかん発育がおくれているのかも知れない。


好きな食べ物なに?って幼稚舎の低学年じゃないんだから。



やけにヘインリッヒの座席のほうで黄色い声援が上がってるのでそちらを見てみると、なぜか女の子と見まがうような中性的な美少年ばかりがヘインリッヒのまわりに集まってキャピキャピと騒いでいる。


パッと見た感じだと、美少女をはべらせているようにしか見えない。


学園内の女の子役ばかりが群がっている。


ヘインリッヒは、わたしの視線に気づいて肩をすくめてみせた。


なんか、知らないけどモヤモヤするわね。



そして、わたしとヘインリッヒのアイコンタクトを敏感に察知した美少年たちはなぜかキッとこちらを睨みつけてきた。


………なんで!?



「どうやら、魅力的な男子生徒の恋人になるのがこの学院内でのステータスになるみたいですねぇ。ユリ殿は有力な殿方の寵愛を奪い去っていきそうだから警戒されているのでしょう」



それが、あとから聞いたヘインリッヒの解説はなし



みんなから質問されているわたしたちのところに生真面目そうな雰囲気の黒髪の美少年がやって来た。


学年リーダーでありクラス長のフランシスだ、と彼は自分で名乗った。



「ようこそ、私たちの学院へ。校内の施設を案内するよ」



まわりよりも一回りも以上も大人びた雰囲気の、誠実そうな黒髪の美青年のうしろについてわたしたちは校内の色んな施設を見てまわった。


ただ、フランシスは地下階にある、ある一画には足を向けずに、



「あの、悪霊祓い研究の実験棟には近づかないように」



そう注意してきた。



「あそこは札付きの不良生徒たちの溜まり場になっているから」



その一画だけ見るからに薄暗くて不気味で、言われなくても近寄る気にもならない。



「悪魔祓い研究の実験棟ですか。将来の司祭候補にとってエクソシズムの技術は必要不可欠なものでしょうが、必要が無いならなるべく近づきたくないエリアですね」



ヘインリッヒはそう言って十字をきった。



「あなたの口の悪さは悪魔憑きの前兆かも知れないからお祓いしてもらえば?」



わたしがそう軽口を叩くと



「ぼくの悪魔的な言葉責めじゃなきゃ満足できない身体になっている癖に」



ヘインリッヒの足を思いっきり踏んづけておいた。




□□



転校直後の急性期が終わって、じょじょに学園の雰囲気にも馴れてきたころ。


わたしはなんとか性別をバレずにやり過ごせていた。


「なんかユーリってすごく良い匂いがする」転校3日目にある生徒がそんなことを言い出して、教室にいるクラスメイト全員からクンクンと順番に身体の匂いを嗅がれたていったときはさすがにもう終わった、と思ったけどね。



「あれだけ大勢の男子が気づかないってことは、ユーリ殿ってほんとうは男なのかも知れませんよ?女だと思い込んだままその年齢になったのかも知れませんよ?」


ヘインリッヒはそんなことをのたまっていた。



………なぜ、そうなるの?



「ユーリぃ、一緒に帰ろう?」



今日もお人形さんみたいに顔立ちの整った可愛い少年たちがわたしの机のまわりに群がってくる。


寮に帰る前に、門限ギリギリまで学生都市内のスポットをぶらぶらするのがここの生徒たちの流儀らしい。


女子と隔離されて禁欲生活を送る生徒たちのストレスを爆発させないためか、この島の学生街はそのへんの繁華街よりも華やかな遊び場が揃っていた。



「やはり、本能的に好いたらしいものを感じるのでしょうかね。オスの本能的に」



わたしがクラスメイトたちから引っ張りだこなのが妬けるのか、ヘインリッヒは嫌味を忘れない。


そういう自分だって、女の子っぽい雰囲気の生徒から毎日デートに誘われているくせに。




「あの、ごめんね、今日さ、清掃当番なんだ」



「えぇえええ~」



わたしがそう言うと、みんな心底がっかりしたような声をあげた。


ちょっとそのリアクションが素直で、可愛らしすぎて思わずキュンとなる。



「今日はどこの掃除なのぉ~」



「えっとねぇ、今日は地下階の担当」



なぜか、みんな表情が変わった。


あからさまに青ざめている子もいる。



「放課後に………地下には近づかないほうがいいよ」



「………え?なんで?」



「危ないもん」



みんなうなずいている。



「地下階の掃除当番なんか、みんなサボってるんだよ。ユーリも今日はやめときな」



美少女みたいな少年たちに囲まれているヘインリッヒも、この会話を注意ぶかく聞いているみたいだった。


いや、でも、転校早々の新参者がいきなり掃除当番のサボりだなんて感じが悪すぎるし……。



けっきょく、まわりの評判を気にして掃除当番をサボれなかったわたし。


掃除道具を手に薄暗い地下階に一人ぼっちでたたずんでる。


みんなの言う通り、地下階の掃除当番なんてみんなパスしてるのか、そこにいるのはわたし1人だけだった。



「わたしもサボればよかった」



すでに半ベソをかきながらわたしはつぶやいた。




□□



全体的に薄暗い地下階なんだけど、その闇の深さ、不気味さは奥に進めば進むほど密度を増しているような感じだった。


教室の入り口にかかってる教科の名前も、



【黒魔術研究】



【対悪魔学】



奥に行くにつれてそんな字面からして不気味でおどろおどろしいモノが増えていく。



悪魔祓い士を養成する講座も開かれているというこの地下階の教室では、本物の悪魔を呼び出す儀式まで行われているって話だ。



さっさと掃除を終えて下校したい。その一心でテキパキと奥へ奥へ清掃を続けていく。



そして、あっからさまに真っ黒い空気が漂い出てきている


【悪魔祓い学】


の教科の表札がかかった大教室の前まで来た。



その瞬間ときだった。



廊下の物陰から、いくつもの黒い影が飛びだしてきた。



驚きのあまりに頭も心臓も真っ白く白熱して、声も出せないくらいパニックになる。



その場にへたり込んでしまうわたし。


男らしいリアクションをしなきゃいけないなんて意識も消し飛んでる。


ていうか、男だって腰を抜かすよ、こんなの。



黒い影たち。


その姿をハッキリ見ると、もっと驚愕が加速する。



山羊や、牛や、狼………



わたしを取り囲んだ黒い影たちは、みんな半人半獣。


動物の顔をもった異形の姿をしていたのだ。



ははははははははっ!!!!



いつも耳慣れた少年の声とは違って、変声期を終えた野太い男たちの声で高らかに哄笑する牛頭、山羊頭の魔人たち。



大声で楽しげに笑いながら、いつまでもいつまでもわたしのまわりをグルグルと回り続ける。



魔人たちが一斉にわたしに覆いかぶさって来る。



その瞬間、意識が遠ざかった。



□□



不思議な香の匂いが鼻につく。


甘いのだけど、どこかツンとする刺激的な香り。


不快ではないけど、不安をそそるお香の匂い。



「………馬鹿………………」



落ち着いた男の声が聴こえる。




「連れてこいとは言ったけど……………からかい過ぎだ」



薄く目を開けると、広く暗い部屋のなかで、半人半獣の魔人たちがペコペコとしきりに頭を下げているのが見えた。



長身の青年…………美しい銀髪をした青年が、つぎつぎに獣頭の悪魔たちの頭を引っぱたいていく。




悪魔が折檻をうけている、


ここは


………地獄?




「いつまでかぶってんだ、それ」



半人半獣の魔人たちは、頭から獣の皮を引き剥がしていった。


中から現れたのは二十歳前後くらいに見える大人びた青年たち。


人間の若者たちだった。



どうやら上級生みたいだ。



さっきわたしを取り囲んでいたのは、動物の被り物をした上級生たち。それにしても、この被り物がリアルすぎる。



さっき悪魔に折檻を与えていたリーダー格らしき生徒が、腰を抜かしてしゃがみ込んでいるわたしのほうに歩み寄って来た。



信じられないぐらいの美形。


堕天使が人間に転生したみたいな、美しすぎる顔立ち。


月の光を丹念に編み込んで加工したみたいな艶やかな銀髪。


手のかたちも、体形も、まつ毛の一本にいたるまで、異様に緻密に整ってひとつの完璧な美形を形作ってる。


神様が、あからさまに依怙贔屓えこひいきをして造られた人間の一例って感じ。



ここは、不良生徒のたまり場になっているという噂の、例の地下階の一番奥にある悪魔祓い実験の教室みたいだった。



しゃがみ込んで、わたしの顎をつまみ、顔をのぞき込んでくる。



さっきまで余裕しゃくしゃくの表情だった銀髪の青年が、なぜかハッと顔色を変えていた。




「…………フローラ」




愕然とした表情でそう囁いた銀髪の青年は、




「お前らが仕組んだのか…………」




そう怒りに染まった表情で後ろを振り返った。




「どういうつもりだ………お前ら」




なにを怒っているのか意味が分からない。




「なにを言ってんだ?ロウ?」



上級生の1人がわたしの顔を見てハッとする。



「いや、よく見ろよロウ。そいつは男だぜ?他人の空似だよ!」



思わず心臓が跳ね上がる。


いや、ほんとうは女なんですけど。



ロウと呼ばれた銀髪の青年はまだ怒りに満ちた眼差しでわたしを見つめてくる。



「他人の………空似だと?」



少なくとも、わたしのほうはこの人を知らない。



「そうだよ!この子はこのあいだ転校したばかりの一年生で、ユーリってんだ。な、な?そうだよな?」



必死で弁解してる周囲の上級生たち。


このロウという銀髪の青年はよっぽどの権力者の子息なのか、その歪なパワーバランスが透けて見えるようだった。



わたしは、コクコクと必死で相槌あいづちをうつ。



もう一度、息がかかるほどの至近距離で顔をマジマジと見つめてくる彼。



頭がぼぉっとするような甘い匂いを感じた。



いや、近眼なんですか?そんな間近でじっくり見つめて。



「………男、なのか」



ようやく納得したように銀髪の彼は笑った。


でも、どこかその笑みは引きつっているように見えた。



「ユーリといったかい?」



「……はい」



「驚かせて悪かったね。もう帰っていいよ」



わたしは、恐怖で全身がカクカクに強張った状態で、出来の悪いカラクリ人形みたいになりながらなんとかその不気味な実験教室から出ていった。


チラと見えた黒板には、いくつもの悪魔召喚の魔法陣が描かれていた。



□□



高級ホテルみたいな寮の部屋に帰って泣きながら今日の出来事を訴えると、



「あぁ。上級生たちの新入生いびりですね」



ヘインリッヒはそう事もなげに言った。



「………知ってたの?」



「ええ。新入生や転校生に上級生の威厳を示すと同時に下級生の可愛い子を物色する、という彼らの趣味と実益をかねたお遊びですよ」



「知ってたんなら何で教えないのよ!?」



わたしは、ヘインリッヒにヘッドロックをかけて締め上げた。



「なんた害は無いお遊びだって分かってましたんで………アイタタタ。こういうのは甘んじて受け入れたほうが波風が立ちませんし………アイタタタ」




上級生による下級生の物色…………実際にその通りだった。



その日を境に、わたしは上級生たちから頻繁に『お茶会』に誘われるようになった。


それは、上級生たちのなかでも、いわゆるカーストの上位層に位置する生徒たちによって開催されている集まりで、放課後に生徒会のサロンに、気に入った下級生を呼び出して一緒にお茶を飲みながら雑談をしたりして交流を図るというもの。


実際のところは、上級生たちの愛妾探しのためのイベントだって話だ。


わたしは誘われるたびに丁重にお断りをしていた。


あんな性質タチの悪いイタズラをして下級生を驚かせて喜んでいる人たちとお近づきになんてなりたくなかった。


でも、学園生活に馴れていけばいくほど、わたしは思い知らされることになった。



あの銀髪の彼、異常に美形のあの男。ロウが、この学園でどういうポジションにいる生徒なのか。


彼が、どれほど凄まじい権力者の子息なのかを。


ロウは、あの堕天使みたいな冷たい雰囲気の男は、この学園の支配者だった。



「グランドブリテン帝国の………第一王子?あのロウが、ロイヤルファミリー?」



グランドブリテン帝国は、世界中の辺境国を軒並み植民地にして支配している世界最強の巨大帝国。


皇帝一族の個人資産だけで、世界の富の六分の一を掌握している言われている。


裏でも、表でも世界を完全に支配している覇権国家だ。



顔をしかめながらうなずくヘインリッヒ。



………どうりで、学園のなかの誰もロウに頭が上がらないはずだ。


教師たちでさえも、ロウに対してだけはどこか遠慮しているというか、学校に遅刻しようが授業中にそのへんをブラブラ歩いていようが何の文句も言えない有り様。


生徒にいたっては、全員でひれ伏しそうな勢いでロウを畏れている。



「目玉が飛び出るような多額の寄付をしているロイヤルファミリーですから、学園側も多少の規律違反は見逃すしかないのですよ」



最近、そのロウがなぜか毎日のようにわたしのクラスの教室に押しかけてきて、直接お茶会の誘いをかけてくるようになった。


わたし本人ていうよりもまわりのクラスメイトたちがびっくり仰天して、怯えてしまっていた。


そして、また、わたしがロウからのお誘いを平気で断るもんだから、クラスメイトはみんなそのたびに悲鳴をあげ、腰を抜かさんばかりに怯えてしまっていた。




「ロイヤルファミリーだからといって何でも手に入ると思っているお坊ちゃまの誘いなんて、乗る必要ありませんよ」



なぜかヘインリッヒは不機嫌な様子でそうコメントしていた。



「でも、なんでわたしばかりしつこくお誘いに来るんだろう?美形ぞろいのこの学園なら、ほかにいくらでも可愛らしい子なんているのに」



ヘインリッヒはなぜか少し深刻な表情でジッと前を見つめていた。



「それについても、密かに調べておきましたよ」



「え?ほんとうに?まるで忍者ね」



「先日会った生徒会長さんがね、すべての事情を知っておられました。どうやら、生徒会長さんはロウ殿の幼馴染だそうでしてね」




………あの、ライオンみたいに風格のある生徒会長さんが?




□□




ガラス張りのドームの一番奥。


実質、生徒会長のための専用スペースと化している場所。



そこらへんの美少女以上に可憐な美しい男子生徒たちをハーレムみたいにはべらせたライオンみたいな風格の生徒会長がそこのソファーに寝そべっていた。



「来たか、ユーリ」



仮にも司祭を養成するという名目で建設された学園都市の生徒会長が、堂々と男の子の愛妾をはべらせるのもどうかと思うけど、わたしはこの生徒会長の人柄が嫌いじゃない。



「どうも、うちのとこのロウが毎日のようにきみのとこへ押しかけて迷惑をかけているみたいだな」



どうやら、皇帝のご子息の奇行ぶりは生徒会長の耳にも入っているみたい。


下級生の教室に上級生が押しかけることはほぼ無いことで、暗黙のルールとして下級生のエリアに踏み込まないようになっている。


なのに、ヒエラルキーの最上位にいる上級生が毎日教室に押しかけてくるなんて、下の者からしたらパニックを起こしかねない案件だ。



「こちらからも、注意はしているのだけどね………なんせ甘やかされて王様気質に育ってしまったヤツなものでな」



「…………なんで、ロウさんはわたしにそんなにこだわるのですか?わたしなんて特に目立つほうの生徒でもないのに」



いや、十分に目立ちまくってると思いますが………ヘインリッヒがそうささやいてきたけどスルーする。



「…………」



わたしの顔をジッと見つめてくる生徒会長。


何かしらのメッセージでも、わたしの顔から読み取ろうとしているみたいに。



「きみは………生き写しなんだ………亡くなったロウの姉君、フローラのね」



「………え?」



「髪の色、目の色はちがう。でも、その声とか表情とか、仕種とか。体形まで。まるで男女の性を入れ替えてフローラが蘇ったみたいに………」




「つまり、性別も含めてユリ殿と瓜二つの女性だった、と」



ヘインリッヒが際どいことを囁いてくる。




「……わたしが、彼の姉に?」




「ロウが君に対してだけ異常に執着する理由はそれ以外には考えられない」




なんて言っていいのか分からなかった。



「どうか許してやって欲しい。あいつにとって、姉のフローラはあまりにも特別すぎる女性だったんだ。あいつもそのうち、きみが姉君とはまったくの別人格であることに気づくはずだから」



生徒会長にとっても、ロウのお姉さまという方は大切な人だったのかも知れない。ライオンみたいな生徒会長の悲しげな瞳の色を見てそう思った。


わたしはモヤモヤした気持ちのまま生徒会長のサロンを後にした。



□□



亡くなったロウの姉上というひと…………。


わたしに瓜二つだというそのフローラさんって一体どんな顔をしているのだろう?



その日も、六限目の授業が終わるやいなや教室に押しかけてくるロウ。


授業をサボってなきゃ説明がつかないぐらい絶妙のタイミングで教室に闖入してくる。



その堕天使みたいに生意気そうで美しい顔。


お姉さんを亡くして、悲しい境遇にあるのは分かったけど、だからってこんな傍若無人に振る舞っていいってことにはならない。



思わずムッとした顔になってしまう、わたし。



「破裂寸前の熟れブドウみたいな顔になってますよ」



ヘインリッヒがニタニタ笑いながらささやいてきた。


いったい、どういうたとえよ?



さんざんわたしのクラスメイトの戦々恐々とした様子を楽しんでいたロウだったけど、わたしの席の前にチンピラみたいな態度で陣取ると



「どうやら、あのモジャモジャ頭の生徒会長から余計なことを聞かされたらしいな」



後ろめたいことなんて何も無いのに胸がキュッと締め付けられる。



「俺の姉上の事なんかを、聞かされたんだろ?」



瞳にわたしの顔が大写しになるくらい顔を寄せてくるロウ。



「………言っとくけど似ても似つかないぞ、お前と姉上は」



そう辛辣な笑みを浮かべてささやくロウ。



なんだか、はずかしめられたような心地がして、勝手に顔が赤くなってしまった。



別に、この傍若無人なお坊ちゃんの姉君に似ていたいだなんて1ミリも思ってないんだけどね。



「へぇ~そうですか?わかりました、わかりました。じゃあもうわたしに付きまとう理由なんてありませんよね?」



わたしをロウを置き去りにしてさっさと席を立つ。




「見せてやろうか?姉上の顔」




思わず立ち止まってしまった。




「今宵、例の教室で集会サバトを開く。姉上の顔を見たいんだったらお前も参加しろ」




………集会?


夜の学園で?



怪訝そうなわたしの表情を見てロウは笑う。




「ああ、もちろん校則違反だよ。お前にそんな度胸無いか」



「………別に、構わないよ、校則違反くらい」



別に意地なんて張らなくても良いのに、この服装のせいなのか最近、負けん気がどんどん強くなってる。


ヘインリッヒが後ろで溜め息をついていた。



「ぼくは付き合いませんからね」




□□



その夜、わたしは初めて校則を破って深夜0時過ぎになってから寮を抜け出した。


実際、結構な数の生徒が毎晩、寮から抜け出しているみたいだけど、それはほとんど上級生たちの話で下級生はあまりしない。


静まり返った真夜中の寮内はそれなりに不気味だった。



校舎へと続く遊歩道へ出たところで、ロウの取り巻きの上級生たちが待っていた。


みんな、不気味な真っ黒いローブをかぶってる。


死神の群れみたいで恐ろしい姿だった。


約束が無かったら、絶対に近づきたくないくらい。



わたしは、葬列みたいな先輩たちの後ろ姿について行って、深夜の地下階で開催されているという集会に向かった。



□□



奇妙なお香の匂いが地下階にたちこめている。


頭の芯がクラクラしていくような甘い香り。


この前来たときはあんなに閑散とした雰囲気だった一番奥の大教室、


【悪魔祓い学】


の教室内が人の熱気に満ちている………。


いえ、そこまで人口密度が高いわけではない。


人の数は、それほど多いわけではない。


それなのに、南国の【死者のお祭り】の最中みたいな異様な熱気、人の気配が大教室のなかに充満してる。


明らかに、そこにいる()()()()の気配と熱気。



教室の中心の床には、大きな大きな魔法陣が描かれている。


そして、その魔法陣の中心に捧げられた生贄の羊。


血を流して死の痙攣にとらわれている子羊………。



「なにこれ………」



教室全体を覆い尽くす特殊なお香の匂い。


そして、黒いローブを着た上級生によって高らかに読み上げられている聴き馴染みのない異教の呪文。



これじゃ、まるで()()の悪魔召喚の儀式じゃない………。



異教の呪文を唱えていた男が黒いローブをたくし上げると、美しい銀髪が現れる。



「やぁ、来たか。今宵の主役が」



ロウが、妖しくギラギラした光を放つ瞳でそう言うと、わたしは後ろから誰かに羽交い絞めにされていた。



「………なにこれ、どういうつもり?」



わたしは、無理やり魔法陣のなかに連れていかれる。



「あなたのお姉さんの顔を見せてくれるんじゃなかったの?」



ロウは首を横に振る。



「見せてやるとも………だが………見るだけじゃ物足りないだろう?」



「はぁ?」



「悪魔の権能によって今宵、この場所に姉上の魂を召喚する」



背筋がゾワゾワと冷えていく。



「なにをバカ言ってるの?こんな事をして、さすがに放校になるよ?」



「かまわないさ………もう一度、姉上に会えるならば………」



それって、どういう意味?



「お前を、姉上復活のための器にする」



ロウの美しい瞳は、狂気の輝きに彩られている。



わたしを羽交い絞めにした誰かは、強引に魔法陣の中心へとわたしを連れていく。



「ふざけないで、悪魔なんて実際にはいるわけ………」



その瞬間、耳のあたりに異様に生温かい風が吹きかけられるのを感じた。


まるで、巨大な何かに吐息を吹きかけられたみたいな感覚。



確実に、()()()()()………



あたり中から、人のいないような地点から、得体の知れない何かの笑い声が響き渡ってきた。



信じられないことに、床に描かれた魔法陣がほんとうに光り輝いていた。


………本物の魔法?


わたしはパニックになって、思わず悲鳴をあげてしまう。


必死で手足を振り回して抵抗する。


けど、わたしを抑え込んだ男はとても力強くて、とても逃れられない。



「………落ち着いて」



耳元でそう囁く声が聴こえた。


それは、とても馴染みのある声。


ヘインリッヒの声だった。


黒いローブのなかに、きらめく金髪が見えた。



もうすでに、わたしを助け出すために集会のなかに潜り込んでいたんだ。



………けど。




ぼんやりと輝く、美しい女性が魔法陣のなかにたたずんでいた。


とても高貴な雰囲気。気品に満ちた女性。


さっきまで、ここに女性なんていなかったはずなのに。



なによりも、彼女の身体はうっすらと透けていた。




「………姉上」



ロウが、呆然とした表情でつぶやく。



「………え?」



そういえば、王侯貴族の女性らしい身なりをしたその女性は、どことなくロウに似た顔立ちをしている。



大天使が顕現したみたいな、絶世の美女。



彼女は、悲しげな瞳をしていた。


今にも涙をこぼしそうな悲しげな瞳。




「………幽………霊?」




また、すぐ首筋のあたりで生温かい風を感じる。



すると、わたしを形だけ羽交い絞めにしていたヘインリッヒの身体が、いきなり吹き飛ばされた。



ヘインリッヒは、天井に打ちつけられて、そのまま壁際まで投げ飛ばされる。



超自然的な現象だった。




わたしと、美しい女性と、生贄の羊だけが魔法陣のなかに取り残されていた。



つぎの瞬間。




ぬぅぅうう………



半透明に透き通った美しい女性の身体が、ものすごい、スピードでこちらに吸い寄せられてきた。



ぶつかった衝撃は感じなかった。



その代わりに、何かが自分のなかに入り込んでくる感覚を覚える。


自分と同じくらいの大きさの何かが、入り込んでくる違和感。




「憑依転生が………はじまった」




興奮した眼差しでつぶやくロウ。




「姉上が、蘇える」





なに、言って………。



笑いたいのに笑えなかった。



激しい恐怖にとらわれるわたし。



腕をあげて自分の顔を触ろうと思った。



出来ない。



歩き出して、この魔法陣の中から歩き出そうと思った。



出来ない。



全身が。



指先の果てに至るまで痺れている感覚。



目が、勝手にまばたきをした。



人生で、こんなリズムのまばたきをしたことなんて無い。



まるで、他人に身体を操作されているような感覚。




「………ロウ」




唇が、独りでに言葉をつむいだ。



銀髪の美少年の目が大きく見開かれて、うるうると涙ぐんでいく。




「………姉上」




両手を広げて、こちらに歩み寄って来る。


わたしの身体を抱きしめようと、ゆっくりとこちらへ向かって。



激しい嫌悪感で身の底から震えが起こった。



自分の手が勝手に動いて、わたしの手を見つめている。



「姉上の新しい身体だよ………」



「………」



「姉上は、この生の世界に戻って来たんだ」




「………ロウ」




わたしのなかにいる誰かが、真っすぐにロウを見据えた。




美しい銀髪の青年の指先が、わたしの頬に触れようとした………その瞬間。



ガシッ。



可憐で清楚な、わたしのなかに入っている高貴な女性が、ロウの腕を両手で掴んでいた。極東の国の柔術使いみたいな素早い動作で。




「……え?」



………はい?




わとしとロウは同時に素っ頓狂な声を上げている。わたしのほうは声にならなかったけどね。



ズドバァアアアアアアアアン!!!!



釣りたての巨大魚を思いっきり船の甲板に叩きつけたような音をたてて、ロウは床に投げ飛ばされていた。




「………一本」




ようやく身を起こしかけたロウが、その光景をぼんやりと見つめて訳の分からないコメントをした。




叩きつけられたまま目を白黒させているロウ。




「なんてバカなことをしてくれたのよ、どこまで愚弟アホなの?あんたは?」




わたしのなかにいる女性の怒りが、こちらにまで伝わって来る。



この高貴な女性は、髪の毛が総毛だつくらいの物凄い怒りに震えている。



なめらかな身のこなしで自分も床に滑り込んだ女性は、



ガキンッ



今度は【帝国軍式腕ひしぎ十字固め】をロウに決めた。




「あぁあぁぁああああああああん!!!!」




大悲鳴をあげるロウ。



そのまま腕をへし折らんばかりにめつづける高貴なる女性。




他人様ひとさまに迷惑かけおってからに、このバカチンがぁああああああ」




鬼の形相でそう叫んだ。



もしかして、お姉さんの魂を召喚したつもりが、凶悪なる大悪魔でも呼び出してしまったんだろうか?



ロウは、激痛に歪んだ表情のなかに歓喜の笑みを浮かべて。



「お姉ちゃんだぁあああああ!本物のお姉ちゃんだぁああああああ!」




えぇえええええ………!?



「えぇえええええ?」




ヘインリッヒとわたしが同時に声をあげる。



これで本物?




「じゃかわしいわい!このバカ弟!死んだあとまで迷惑かけよってからに!」




高貴なる女性による執拗な関節技はいつまでも続き、ロウの歓喜の悲鳴が地下階に響き渡り続けた。




「どういう状況なのですか?これ」




ヘインリッヒは1人たたずんで、この奇怪なシチュエーションを眺めていた。




□□




『ごめんなさいね、ユリアンちゃん』




わたしの身体から抜け出した高貴な女性が、半透明に透き通った身体でわたしに頭を下げてくれた。




「………ユリアンって、あの………」




『ごめんなさいね、あなたのなかに入った瞬間、同性だってことはすぐに分かったわ』




そっか。


隠せるわけないよね。自分に憑依した幽霊にまで。




透き通った女性、ロウの姉フローラは気絶している弟を振り返って



「あいつ、致命的なくらいバカで生意気で、救いようのないアホだけど………ほんとうに心底から悪い人間ってわけじゃないんだ」



「………」



「今回も、あなたの命まで奪おうとしていたわけじゃないと思う。ただ、わたしにそっくり過ぎる女性ひとが目の前に現れたから、すごく動揺してしまったんだと思う」



もう一度、深く頭を下げる高貴で美しい女性。



「本来なら、本国で裁判にかけられて永遠に流刑の罪を課せられるか、処刑されるぐらいのことが筋だと思います………………でも、今回だけは許してもらえませんか?バカな弟に更生のチャンスを与えてもらえませんか?」



わたしは、ロウのほうを見つめる。


全身の関節をめられて失神しているロウ。



………いや、もうすでに相当な罰則をうけているような気がします。




「アラビア圏の体罰刑でもあそこまでしないですね」



ヘインリッヒは冷や汗をたらしながらつぶやく。



「だいじょうぶです。こんな素敵なお姉さまですもの………もう一度だけ会って、話したくなる気持ちも分かりますし」



深々とお辞儀をしていたロウのお姉さまはなぜか怖い目つきで顔をあげる。



『でも、ただで許すなんてダメよ?これだけは約束して。必ず()()()()()()()()()ケジメをつけること』



………え?



『これだけは絶対に約束してね』




「あ、はい」




お姉さまの圧力に思わず敬礼してしまうわたし。




「それにしても、ほんとうにユリ殿にソックリですね。性格までソックリだ」




ヘインリッヒは感心した様子で頷いている。




「どこが!?性格はまだわかるけど、わたし、あんなに綺麗じゃないって!」




「たしかに、今のユリ殿は男キャラが板につき過ぎていますからね」




…………なんかムカつく。



ロウの看病をしていたらいつの間にか朝になった。


集会に出ていた上級生たちは召喚してしまった悪霊を追い返すのにひどく手間取って、けっきょく悪魔祓いの教師を呼ばなくてはならないハメになっていた。


大人にこの遊びが露見したことで、この集会は二度と開催できなくなったろう。



ロウは、朝陽の射し込む医務室のベッドでようやく目覚める。


なんで、わたしがロウの看病なんかしなきゃいけないのか?って。



それは、こいつが目覚めたらまっ先にやらなきゃいけない事があるから。



ちゃんと『ケジメをつける』ことってロウのお姉さまと約束したから。



朝陽のなかで見るロウの寝起きの顔は地上に堕ちてきた天使みたいに神々しい美しさだった。




「これ…………は………………姉上は?」



「元の世界に、黄泉の国に帰った」




「そうか…………」




ロウは気まずそうに顔を背けると




「謝るつもりなんて毛頭ないからな…………お前に迷惑をかけたなど、これっぽちも」




「………そう」




わたしはうなずく。




この男は、救いようがないくらいの暴君なのね。


きっとこれからも、ずっと。




「ねぇ、ロウ」




憎たらしいぐらいの美形が振り返った瞬間




パンッ!




わたしは、ロウの横っ面を思いっきり張り飛ばした。




「調子に乗ってるんじゃないわよ、このクソガキが!」




「………え?」




「どれだけ親が凄いのか知らないけどね、あんたのオモチャにされて良い人間なんて、この世に1人だっていないんだから。今のあんたに比べればね、路上生活者のほうがずっと立派。自分の足で立たずに、まわりの人に迷惑ばかりかけているあんたなんかよりは!」




ベットの上から呆然とわたしの顔を見上げるロウ。




これで、もうこの学院にはいられなくなるだろうな…………



世界最大の帝国の御曹司。未来の皇帝にビンタまでしてしまったのだから。




わたしは、言うだけ言ってスッキリした気持ちで、学園の医務室をあとにした。



部屋の外で待っていたヘインリッヒは皮肉げに笑って。




「ずいぶんと派手にやりましたね」




でも、ヘインリッヒはそれ以上こちらをなじろうとはしなかった。




□□



スクールカーストの最上位も最上位、教師さえも頭が上がらない学園の最高権力者にビンタを入れてしまったんだ。


翌日から、わたしの学園生活はさぞかし荒れるだろうなって予想してビクビクしていた。



なのに…………。




「おはよう、ユーリ!」



「おはよう!」



同級生たちの美少年たちの朝の笑顔が依然とまるで変わらないばかりか…………。




「ユーリ、おはよう!」



「よう、元気にしてるか?」




なぜか、そこまで近しい存在ではなかった上級生たちまで親しげな笑顔を向けて挨拶してくる。



………なに、これ?どういうこと。




わたしの隣で不思議そうな顔をしているヘインリッヒ。




「悪い噂を流したり、イジメの包囲網を発動したり………ぜんぜんそんな様子も無いみたいですね……」




いや、そんなのあり得ない。あんな暴君が。


人の命を犠牲にしても平気でいるような冷血人間が、ビンタなんかされて黙って引っ込んでいるわけがない。


これは、わたしを油断させるための何かの陰謀かも知れない。




宮殿みたいな学舎の入り口に、銀色の髪をきらめかせながらロウが立ってた。



待ち構えていたのか、わたしを見つけた途端にその瞳がキラキラと輝きはじめた。



………いったい、なにを考えているの?こいつ。




「ユーリ…………」



なぜか、わたしを指さしてくるロウ。




「…………俺は、お前が好きだ!」




「………………はぁ?」




まわりにいた登校中の美少年たちがいっせいに顔を赤らめている。



ザワザワし出す学園の生徒たち。




「お前に、俺に惚れることを命じる!」




思わずズッコけそうになるわたし。




「これからの学園生活のすべてを賭けて、俺に惚れさせてやるからな!」




ロウは瞳をキラキラさせて、表情を輝かせながらそう宣言した。




「…………ほう。ぼくへ向けて宣戦布告するつもりですか?帝国の跡継ぎ様」



なぜか、ヘインリッヒがくらい瞳でそうささやく。




………これ、どういう展開ですか?





―――この日から、わたしのことを男の子として愛妾にしようと決意し、狂的な溺愛をはじめたロウとの壮絶な学園生活が幕を開けるのでした。





【おしまい】


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