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傭兵になりたかった

作者: 月這山中


 傭兵になりたかった


 紛争地を回り 時々は気の好かない相手に使われても

 何を考える暇も無いよう 戦って生きたかった


 オブジェクトを殲滅する 指先の甘美な刺激に陶酔し

 枕元に立つ 敵味方の亡霊を見つめ 毎夜を過ごしたかった


 澄んだ笑顔の爆弾少女

 足の無い子供たちに見つめられながら食事を取って


 グダグダに煮込まれた激情のスープの中でゴミのように死にたかった


 傭兵になりたかった 田舎の裕福な家になんて 産まれたくなかった

 ほんの砂利道を走り降りるだけで 息が上がるような身体に産まれたくなかった


 歳月につれ 脂肪で重くなる身体が 月の一度に訪れる出血が 

 笑顔を振りまく使命が 忌まわしくて仕方なかった

 切れない生綿で大動脈を結ばれた 日常の持久戦から逃亡した


 味方は思い思いの顔で逝く

 心の一部を冥土の土産に刳り貫いて


 砂漠

 忽然と現れる建造物群


 平和主義者が文字迷彩 Text Camo の薄い装備で並んで歩く

 それを避けて通った道で 小隊はゲリラとの交戦に入る


 「話し合いで解決しなかったからこうなっているんだろう」

 味方の中から無情の声が聞こえた


 苦い 苦い 思い出を 割り切れなかった生き死にを

 飲めない安酒で流し込み 噛み締めながら 噛み締めながら


 ―――安酒で流し込み、噛み締めながら、私は自分の寝床に居た。


 終末の知らせが来ても 一向に沈まない足場に焦らされ


 ―――地雷を撤去する。雇い主は自分の撒いた糞を拭かせて素知らぬ顔をしている。


 押し付けられる厚意を屈辱と一緒に啜って


 ―――気の狂った曹長はろくな会話もできなくなり、捕虜の虐待を始めている。


 薄氷を厚くするに躍起な臆病者に囲まれて


 ―――戦闘中の事故に見せかけて、そいつを後ろから撃ち殺した。私は呟く。


 そうして日々に殺されそうな私は


 ―――なにも出来ないで吼え続け、どこにでも噛み付く狂犬だから。


 なにも出来ないで吼え続け どこにでも噛み付く狂犬だから


 ―――これは自浄作用だ。私がしなくても誰かがやったことだ。言い聞かせる。トリガーを引いた指が感覚を残している。


 毎夜 銃声響く戦場を想う

 第二の生を走る彼に


 ―――いつか私がそうなれば部下が殺してくれるだろう。同じように。考えるだけで震えが走る。トリガーを引いた指から脳へ、震えが虫のように這い上る。いつか私がそうなれば。


 いつか撃ち殺される日を夢に見ている


 ―――生まれ変わることがあれば、彼女のように田舎で物語をつづるような、平穏な日々を過ごしたい。


 生まれ変わることがあれば 彼のような傭兵になりたかった


 ―――飲めなくて吐いた気付け酒を、噛み締めて。


 噛み締めて 噛み締めて 噛み締めて


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