第二話 美少女と運命
目が覚めると、真っ白な空間にいた。天井、壁、床、すべてが白い。広さは自宅のリビングの倍くらいありそうなため、20畳くらいだろうか。
ここはどういう場所だろうかと、見回していると、正面の壁に黒い文字が大きく浮かんできた。
「ここは、ギャンブラーを養成するための一次施設です。幸運な者よ、先へ進みなさい」
ちょうど文章を読み終えると、正面の壁が音を立てて、中心から左右に分かれて通路が出現した。
ギャンブラー養成の一次施設か……
部屋であの男からの手紙を見た後、急に手紙が光り出して、気づいたらこの場所にいた。にわかには信じられないが、何か不思議な力でこの場所に移動させられてしまったらしい。
このまま何もないこの場所にいてもどうしようもないと思った、俺は通路に入った。
通路の中も、先ほどの部屋と同じような真っ白な壁でできていた。ひたすら真っすぐな道を進むと2,3分ほどで広い空間に出た。真っ白な空間で分かりづらいが、学校の体育館くらいはあるだろうか。見渡していると、背後から声をかけられた。
「君が、ハヤト君かな?」
ハッとして振り返ると、そこにいたのは金髪碧眼の美少女だった。年齢は16歳くらいだろうか。白い肌に黒いドレスが映えている。髪はふんわりとパーマがかかったミディアムロングだ。
これまでの人生で見てきた異性の中で、間違いなく1番かわいい。その美しい容姿に思わず見惚れてしまう。
「私に見惚れているところ悪いんだけど、話してもいいかな?」
「あ、ああ」
内心を見透かされて、思わず声が詰まってしまった。
「じゃあ、君も色々混乱してると思うから説明するね。まずここは、君が住んでいた世界とは、違う世界、要するに異世界です! 君は、あの人の力でこの世界に飛ばされてきたんだよ。あ、あの人っていうのはわかるかな?」
「白いスーツと帽子の男……」
「そう! あの怪しい男! あの人の名前は、御堂 恭弥。どんな人かは、まあ、後々わかるだろうから省略するね」
御堂 恭弥。
それがあの男の名前か。不気味な雰囲気の割にはかっこいい名前だな。
「ここは、あの人が作ったギャンブラーを育成するための施設だよ。ここの試練をすべてクリアすると、外の世界に出ることができるよ。あ、外の世界っていうのは君がいた世界じゃなくて、この世界のことね」
「なるほどな。すぐには理解できないけど、まずはここで試練をクリアしないとどうしようもならないってことか」
「その通り! 私が案内してあげるから、頑張ってクリア目指してね!」
異世界、ギャンブラー育成施設、試練、唐突に色々な情報が頭に入ってきて疑問は尽きないが、とりあえずやるべきことはわかった。ただ、どうしても一つわからないことがある。
「なんで、異世界なんだ? 元の世界で俺を育てるというのではダメだったのか?」
そう。ただギャンブルで良い勝負がしたいというのであれば、異世界という突拍子もないところに俺を連れてくる必要は無い。元の世界で特訓でもなんでもすればいいじゃないか。
「なんで異世界? 答えは簡単よ。貴方、魔法は使えるの?」
魔法? それならよく知っている。漫画やアニメ、ゲームで何度も見てきた。空想の産物。
「使えるわけないだろ。魔法なんか空想の産物……」
言葉にして初めて気づいた。馬鹿か俺は。この異世界にはどうやって来た? 眩い光に包まれて、気が付いたらこの場所にいたじゃないか。あれは絶対に科学の力では再現できない。
「気づいたようね。そう、貴方がここに来ることができたのも魔法の力よ。あの人はギャンブラーとしても最強だけど、魔法使いとしても世界最強レベル。あの人が全身全霊の力を使って戦うなら、魔法を使えることが必須条件ね。今まで何人かここに来た人がいて魔法を習得していったけど、貴方が来たことを見ると、結局あの人の眼鏡にかなうような人はいなかったようね」
そういうことか。なんとなく理解はできた。
確かに、勝負の前提としてお互いの能力に差があっては勝負にすらならないからな。チェスをやろうとしているのにこちら側の駒がありませんと言っているようなものだ。
話を聞いているうちに少し、ワクワクし始めている自分がいた。
借金がゼロになり、漫画やゲームで見てきたような魔法が使えるようになる? 最高じゃないか。さっきの扉にも書いていたが、本当に俺は幸運なのかもしれないな。
これがテレビ番組の壮大なドッキリという可能性も捨てきれないが、借金が無くなったのは事実。仕事も別に惰性で続けてたようなどうでもいいものだ。ならば、今俺がすべきことは一つだ。
フッと笑い声が鼻から漏れる。男なら、誰もが異世界や魔法というものに憧れるものだ。それは何歳になっても変わらない。そんなチャンスが巡ってきたんだ。楽しくもなるさ。
「よし、わかった。じゃあいっちょなってみますか。最強のギャンブラーとやらに!」
俺はこの流れにのった。右手の拳を高々と掲げて。
「お、覚悟が早いですね。ここに来た人は大抵、この話を疑って、早く帰せだのなんだのわめくんですけどね」
その人たちの気持ちもわかる。
「いやーでも安心しました。まさか、こんなに早く命を賭ける決断をしてくれるなんて!」
「いやーそうだろうね。さすがに命を賭けるなんて……」
今、この女は何て言った?
賭ける? 命を?
「聞き間違いですかね……? 命を賭けるって?」
「いえ? 言いましたよ? 試練の中でも命がけのものはありますし、そもそもあの人が勝負するときは絶対にお互いの命まで賭けますからね。まあ、覚悟を決めていただかなくてもここに来た時点でやるしかないんですけどね。試練をクリアするか死ぬかでしか、ここからは出られないですから。まあ、ここから出られても結果あの人と命がけで勝負するしかないので、あの人に勝たない限りは死ぬ運命しかないですね」
この世に生を受けて26年。300万円という借金の返済肩代わりという先払い報酬をもらってしまった俺は、どうやら世界最強と呼ばれている男に勝たない限り死ぬしかないようだった。
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