第一話 不気味な男との出会い
初投稿です!
拙い文章ですが、暖かい目で見ていただけると助かります!
「また負けちまった……」
7月7日。今日は地域のパチンコ屋で1年に1回ある熱いイベント日だった。俺は朝4時からパチンコ屋の前に並び、開店と同時に意気揚々と入場した。その時は自分が負けることなんか考えてもいなかった。勝ったら何をしようかという妄想が頭を埋め尽くしていたのだ。
結果は散々で、俺が打っていた台は一度も当たることなく、軍資金はすべて無くなった。10日後にはクレジットカードの支払いや借金の返済があるのに、有り金をすべて使ってしまった。
(なんでいつもこうなんだ。負けた時のことを考えずに、熱くなって金を突っ込んでしまう)
何度もギャンブルは辞めようと思った。しかし、1週間も経つとそんな誓いは忘れて、気が付くとパチンコ屋にいる。たまに勝った金も次の軍資金にしてすべて使ってしまう。完全にギャンブル依存症だ。こんな自分が嫌になる。いっそのことすべて投げ出してこの世からいなくなってしまおうか。
そんなことを考えながら、ギャンブルで負けた時に特有のキリキリとする胃の痛さを感じつつ、重い足取りで帰路につく。
いつもと同じように大通りを歩き路地裏を抜けて近道をしようとすると、何か違和感を感じた。この路地裏はいつも人が通ることは無く、たまに野良猫が歩いているくらいだ。だが、今日は違った。明らかに人の気配、視線を感じる。
姿は見えないが確実に誰かいる。そんな気配を感じた。
「――誰か、いますか?」
シンっと静寂の時間が流れる。誰かに向けたはずの問いに応えはなかった。
「気のせいか」
パチンコで負けすぎてとうとう頭もおかしくなったかと思うと、馬鹿らしくなってしまい、思わずにやけてしまう。馬鹿なことをやっていないで、帰ってこれからのことを考えるか。そう思い、再び帰り道の一歩を踏み出そうとした時、
「よく気づきましたね。柊 隼人さん」
背後から突如声が聞こえた。若い男なのか、年を取った男なのかわかりづらい不思議な声だ。咄嗟に振り向くと、真っ白いスーツに白い帽子の怪しい雰囲気の男が経っていた。身長は190㎝くらいはあるだろうか、かなり細身で、でかいというより、長いという表現が適切だろうか。その男はニヤニヤと不気味な笑みを浮かべながら俺を見ている。
「どちら様ですか?」
いくら記憶を探ってもこの男のことがわからなかった。なんで、俺の名前を知っている? そもそもこんな怪しいやつを見たことがあったら絶対に忘れないと思うが。
男は、何が楽しいのかわからないが、一層不気味な笑みを強くして、両手を大きく広げて応えた。
「私は、ギャンブラーですよ! それも、この世界の誰を相手にしても絶対に負けないような、正真正銘、世界最強のギャンブラーです!」
ギャンブラー? もしかして、海外ではカジノとかでポーカーの大会があったりするから、その選手とかだろうか。しかし、なぜそんな男がこんな小さい国で、全く関りのない俺に話しかけてくるんだ? 疑問を晴らすつもりで聞いたが、さらにわからないことが増えてしまった。
俺の頭が混乱しているなか、男はさらに続ける。
「私は退屈です。どんなに世界中を探しても、対等に勝負ができるギャンブラーがいないのですから。どこかに強いギャンブラーはいないかと千を超える国々を巡りました。しかし、どこの国でどんな勝負をしても、私は勝ってしまう。勝つと分かっている勝負ほどつまらないものはありません」
この男はどれだけ自信過剰なのだろうか。あるいは、これは本当のことなのか。まあ千を超える国っていうのは絶対に話を盛っていると思うが。
「そこで私は考えたのです。誰もいないなら育てればいいじゃないかと。そして世間から強いと噂されている人間を何人か育ててみました。しかし、どれも期待外れでした。どんなに私の技術を教えても私以上の強さを得ることはできなかったのです。そこで考えました。強い者がこれ以上強くなるのが難しいならば、弱い者を育ててみればいいじゃないか、と」
無茶苦茶な理論だ。強い奴がそれ以上強くなるのが難しいから弱い奴を育てる? 弱い奴が強くなる方がよっぽど難しいだろう。
「人選はとある特殊な方法を使用しました。選ばれた貴方は幸運ですね。なにせ、世界一のギャンブラーである私に挑む権利が無条件で与えられたのですから!」
俺に口を挟む隙を与えないまま、一人でどんどん話を進めていく。
「まず貴方には、修行をしてもらいます。私に挑むにふさわしい力を着けてもらうためにね」
なにかやばい雰囲気だ。このまま何も言わずにいると取り返しがつかなくなる。そんな気がした。
「せっかくのお誘いですが、お断りいたします。仕事もありますので、そんな時間は取れないと思います。別の人をあたってください」
俺は軽く会釈をして、その場を離れようとした。こんな馬鹿々々しい話に付き合っている暇はない。
「――ありますよね?」
背後から男の声がする。何があるというんだ。
「借金」
思わず足が止まった。借金があることは家族も友人も誰も知らないはずだ。なのに、なんでこいつは知っている?
「その額は300万円。すべてパチンコで負けたことによってできたもの。どうですか? 私の話に乗るのであれば、この借金を私が代わりに返済してあげますよ」
男は言った。借金を立て替えると。なんの得があってこいつはそんなことをする? なんで借金の額を知っている? 金融会社の関係者か? 新手の詐欺か? 様々な考えが頭を巡るが、考えても考えても理由はわからなかった。そこで俺が出した答えは、
「その話が本当なら、先におれの借金すべて完済してみてくださいよ。それができたら考えます」
もしこれが詐欺なら、契約書も何も交わさずに借金の立て替えなどできないだろう。残念だが、俺はその辺の詐欺に引っかかるような馬鹿とは違う。
「できないですよね? では、失礼します」
そう告げて、俺は再び帰り道に歩を進めた。
「――言質はとりました。約束ですよ」
男が小さく何か言ったように聞こえたが、俺の耳では聞き取ることができなかった。
――1週間後。
いつものように仕事から帰って郵便受けを見ると、何枚もの封筒があった。中身を確認すると、複数の金融会社からの借金完済の通知と、7月7日に出会った男からの手紙だった。住所まで知っているのかと、恐怖を感じつつ、中身を確認した。
「約束通り、貴方の借金をすべて完済しました。次は、貴方が約束を果たしてください。次に会う時は、最高の勝負ができることを信じてます」
手紙には短い文章でそう書いてあった。方法はわからないが、どうやらあの男は本当に俺の借金をすべて返済してしまったようだ。
警察に行くべきか? そう思ったがどうやって説明すればいいのかわからない。傍から見ると、俺に被害はなく、むしろ借金を善意で返してもらったような形だ。
どうしたらいいかと頭を悩ませていると、視界の端で何かが光った。
そちらへ目を向けると、例の男からの手紙が突然眩い光を放ち始めた。
「なんだ、これ!」
俺が叫んだのも束の間、あっという間に室内が光で満たされ、俺は意識を失った。
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