金太郎と奇人
B…ボケ T…ツッコミ
T「爺さん、爺さんや! これを見ておくれ!」
B「どうしたんじゃ婆さん」
T「川で洗濯しとったら、川上からこいつが流れてきたんじゃ!」
B「おお、これは見事なアタッシュケース! 中身はなんじゃろう?」
T「きっと大金だよ! 鍵がかかっとるから、爺さんのあの技で開けてみておくれ!」
B「よし、ワシにまかせておけ! はああッ! サイクロンピッキングッ!」
T「つ、ついに出おった! 爺さんの必殺技、サイクロンピッキングッ!」
B「よし、婆さん開いたぞ!」
T「ヒョエエ! 爺さん札束じゃ! やっぱり札束が入っておった!」
B「なんという大金じゃ! ば、婆さん! これだけカネがあれば!」
T「そうとも爺さん! これだけカネがあれば!」
T&B「「鬼ヶ島へ鬼退治に行ける!」」
B「婆さん、早速このカネで武器と鎧をこさえてくれ」
T「まかせとくれ。いま腕によりをかけてこさえてやる! はああッ! ソーイングッ、ワールドッ!」
B「つ、ついに出おった! 婆さんの裁縫領域結界ッ、ソーイングワールドッ!」
T「出来たーッ! 見ておくれ! コレが爺さんの武器、名付けて札束ハリセン!」
B「さ、さすが婆さんじゃ! この分厚い札束で叩けばどんな敵でもイチコロじゃ!」
T「そしてコレが札束の鎧じゃ!」
B「なんと! この鎧、随所に分厚い札束を使っておる! 信じられん防御力じゃ!」
T「爺さんは今日から究極の戦士、その名も金太郎じゃ!」
B「よし! 金太郎出撃じゃ!」
(これ以降、Tが奇人役になります)
B「む、前方に髪を赤く染め、トサカのように立たせた奇人を発見! おい、そこな奇人!」
T「き、奇人! オレのことか!?」
B「そのような赤いトサカを持つ奴など、奇人と呼ばず何と呼ぶ?」
T「え、爺さんのそれ、まさか札束かッ!? なんで札束でミノムシみたいになってんだ!? もう奇人とかいうレベル軽く超えてんだろッ!」
B「札束ハリセンッ!」
T「ギャー!」
B「奇人も鳴かずば打たれまいに」
T「な、なにすんだジジイ! 通報すんぞ!」
B「ほう、なんとじゃな? 全身札束のミノムシ爺さんに、札束で叩かれましたとでも? 信じてくれると思うてか?」
T「くッ、なんてヤバいジジイだ!」
B「落ち着け。なにを興奮しておる」
T「爺さんが興奮させてんだよ!」
B「さては札束を見て興奮したか? 欲しいならくれてやってもよいのじゃぞ?」
T「なッ! さ、札束をかッ!?」
B「お主ほどの奇人、捨て置くには惜しい。ワシの鬼退治に同行すればくれてやろう」
T「ぐうッ、いやダメだ! オレにもプライドがある! そんな上から目線の言葉に頷けるか!」
B「ほほう、それではこれならどうかな?」
T「うわッ! こいつ後ろから抱きつきやがった! なんの真似だ!」
B「ほうれ、ほうれ」
T「や、やめろ! オレの背中に札束を押し当てるな! 当たってるッ、背中に札束当たってるうーーーッ!」
B「当てておるんじゃよう!」
T「あ……だ、だめッ。そんなに厚い札束、背中に当ててぐりぐり回されたら……ああッ……」
B「ほうれ、ほうれ」
T「ハアハア、お……お爺さん……、札束ひとつ…………下さいな」
B「ではワシと一緒に行くのじゃな?」
T「行く…………行かせて下さい」
B「ようやく素直になりおった」
T「うぐぅ~ッ! オレは人間として大切なものを失った!」
B「その心の隙間を札束で埋めればええ。ほれ、札束じゃ」
T「ヒャッハー! 諭吉くん、キミに決めたッ! 札束ッ、ゲットだぜ!」
B「うむ、まさしく奇人よな。それでは奇人よ、ともに鬼ヶ島へ参ろうぞ!」
T「待てよ爺さん! 鬼ヶ島といえば恐ろしい鬼の巣窟! そんな島に行こうとする理由はなんだ!」
B「教えてやろう。昔々ワシのところに、一本の電話がかかってきおった。電話の相手はこう言った。『もしもし爺さん? オニだよ、オニオニ! 爺さんの息子はオニたちが預かっている!』」
T「お、おい! そいつはまさか!?」
B「そう、いま流行りのオニオニ誘拐詐欺じゃ! やつら、ワシの息子を誘拐したと嘘をつき、身代金を騙しとったのじゃ! ワシはまんまと引っ掛かっかり、老後の資金をやられてしまった!」
T「なんてこった! 許せねえよ鬼の奴! くそうッ!」
B「この爺のために泣いてくれるか。さあ、この札束で涙をお拭き」
T「す、すまねえ爺さん。しかしそうか、あんた息子がいたのか。歳はいくつになるんだ?」
B「そ、それがな……詐欺にあってから三日後に気づいたのじゃ。ワシ、息子などおらんかったとなーーーッ!」
T「爺さんやっぱりボケてたんか~~~いッ!」