花粉マスター花田! 最終回!! 『共に生きる』
僕の名前は草木林太郎!
植物が大好きな中学二年生!
ある日、森の中で散歩していると花粉の精霊を名乗る怪しげなマスコット、カフルンに出会ったんだ!
「このままじゃ、花粉が消え、この世から多くの植物が消えてしまうでおじゃる。愚かな人間よ、力を貸せ」
「な、なんだって! それは大変だ! 僕で良ければ力を貸すよ!」
そして、僕はカフルンと供に花粉をこの世から消そうとしている悪の組織「花粉滅殺団」と戦うことになったんだ!
「人の子よ。そやつら花粉は、我々に恐ろしい災いをもたらす。邪魔をするな」
「愚かな人間! あいつらの言うことなど聞くことないでおじゃる! 早く、この花粉エネルギーを使って奴らに花粉攻撃を食らわせるのじゃ!」
「分かったよ!」
「ガキめ……。邪魔をするというなら相手してやろう!」
「食らえええええ! 花粉インパクトオオオオ!!」
「ぐああああああ!!」
次々と襲い掛かる強敵。
「くくく。奴を倒すとは中々やるじゃないか。だが、あいつはシンドロームレベル3の雑魚」
「だ、誰だ!?」
「吾輩の名は涙目のジョニー。シンドロームレベルは4――「花粉インパクトオオオ!!」
「目が、目があああああ!!」
「涙目のジョニーをやるとは中々にやるようザマスね」
「だ、誰だ!?」
「私の名前は鼻水ドリンクバ――「花粉バーストオオオオ!!」
「ふぎゃあああああ!!」
時には、戦う理由が分からなくなる時もあった。
「カフルン。何で僕だけ戦わなくちゃいけないの?」
「愚かな人間よ。そんなこと考えなくていいでおじゃる。愚かな人間はただ、我々花粉の手足となればいいのでおじゃるよ」
「……そっか。そうだよね! 僕、頑張るよ!」
最終決戦が近付くにつれ、戦いは激化していった。その戦いの途中には悲しい別れもあった。
「おはようございます林太郎さん」
「え……? だ、誰? カフルンは? カフルンはどこ!?」
「彼は、後輩の雌しべに無理矢理受粉を迫ったとして捕まりました。これからは私があなたのサポートをさせていただきます」
「そ、そんな……! まあ、いっか。これからよろしく!」
「はい」
そして、遂に僕は「花粉滅殺団」のボスと対峙したのだ!
「お前が花粉滅殺団のボスだな!」
「それが、どうした?」
「花粉をこの世から消すなんて許せない! 絶対にここでお前を倒してやる!!」
手に花粉エネルギーを蓄える。これまで数々の強敵を倒してきた僕の必殺技である「花粉インパクト」の前に敵はいない。
「食らえええ! 花粉インパクトオオオ!!」
微動だにしないボスの顔面に花粉エネルギーを込めた拳をお見舞いする。だが、僕の拳に蓄えられた花粉エネルギーはボスの顔面に触れる瞬間に霧散した。
「そ、そんな……!!」
「愚かだな。自分だけが花粉を操れる特別な存在だとでも思っていたのか?」
「ど、どういうことですか!?」
ボスの言葉に疑問を投げかけたのはカフルンに変わる新たな僕のパートナー、カフルーンだった。
「花粉と話すことなどない」
「ぐあああ!!」
ボスに腹を蹴られる。
痛い痛い痛い。
今までまともに攻撃を食らったことなんてなかった。僕より強い敵なんていないはずだった。
「少年。まだやるというのか?」
敵のボスが僕を鋭く睨みつける。心を覆いつくすのは恐怖心だった。
「あ……あぁ……」
今すぐにでも逃げ出したい。元々、僕みたいな中学生に世界を救えという方が間違っている。
カフルンたちのせいで学校にも一か月通えていない。
僕は漸く現実に戻ってきた。
「こ……」
降参です。許してください。そう言おうとした僕の言葉を止めたのは、カフルーンだった。
「林太郎さん! 私たちにはあなただけが頼りなんです! お願いします! それに、あの子たちに会えなくてもいいんですか!?」
カフルーンの目には涙が浮かんでいた。
その涙を見て、僕の心にもう一度火が点いた。
そうだ。僕には戦う理由があるんだ。戦いを始める最初に、カフルンを通じて花粉界の精霊と交渉した。
僕は彼らのために戦う。そして、彼らはその対価として僕の家にある観葉植物に意志を宿らせる。
僕の大切な家族である観葉植物たちと話をするためにも、僕はここで諦められない!!
全身に力を込め、立ち上がる。
「僕は、諦めない!!」
「愚かだな。何も知らないからこそ、そうやって花粉の味方をしていられる」
立ち上がる僕の姿を見て、ボスは悲しそうにそう呟く。
「なあ、少年。君は花粉症を知っているか?」
「知っているけど……」
花粉症くらい僕でも知っている。僕の友人も花粉症が辛いと言っていた。僕は花粉症になったことがないから分からないが、かなりつらいらしい。
「そうか。だが、お前は花粉症をまだ理解できていないようだな。なら、その身体に教えてやる。そうすれば、お前も花粉の味方をする気が失せるだろう」
その言葉と供に、ボスが僕に近づく。そのあまりの速さに、僕は反応することが出来なかった。
「シンドロームレベル5の世界を見せてやろう」
その言葉と供にボスが僕の頭に手をかざす。すると、僕の身体が淡く光りだした。
異変は直ぐに起きた。
「うわあああああ!!」
「林太郎!?」
な、何だこれ!?
目が熱い? いや、目が痒い! 痒すぎて目を開けられない! おまけに涙も止まらない!
それに鼻水が凄い出る!
啜ろうとしても鼻水で鼻の穴が塞がれて鼻呼吸が出来ない!
苦しい!!
「どうだ? これが花粉症だ。花粉がいるだけで俺はこの苦しみを何度も味わってきた。初めてのデートの日、大量に街中を飛び回る花粉のせいで俺は碌にデートを楽しめなかった! 更に、彼女に鼻水が垂れるブサイクな姿を見られた!!」
ボスが何かを言っているけど、碌に聞こえない。
生まれて初めて体感する花粉症の辛さに僕は、苦しむことしか出来なかった。
「さあ! 言え!! 諦めると! 花粉の味方をするなどという愚かな行為をやめると!!」
「……はあはあ……。いやだ」
短く、それでもはっきりとそう言った。
「うぐっ」
ボスの手が僕の口を押える。
「今のお前は鼻呼吸が出来ない。こうして、口を押えられれば窒息死するぞ? 花粉のために命を落とすのか? さあ。今なら許したやる。諦めると言え」
呼吸が出来ない。苦しい。どんどん息苦しさは増していく。
でも、それでも……。
「いやだ。僕は、植物大好きだから……植物と供に生きるんだ……」
「なら、その大好きな植物の花粉で死ねええええ!!」
ボスがより強く僕の口を押える。
鼻呼吸は鼻水で当然できない。意識が遠のく。それでも、僕の大好きな植物を裏切りたくは無かった。
「林太郎さん!!」
意識が消えると思ったその時だった。カフルーンの声が響き、僕の身体を淡い黄緑色の光が包み込む。
「くっ……!? こ、これは花粉エネルギー!? くそ! 離れろ!」
ボスが僕の花粉インパクトを阻止した時の様に、花粉エネルギーを霧散させようとする。だが、花粉エネルギーは何度も何度も僕の身体を覆っていく。
「お、俺の力が効いていない……!? くっ!!」
強大な花粉エネルギーによりボスの身体が吹き飛ばされる。
「林太郎さん! お待たせしました。あなたの植物への思い。受け取りました」
膨大な花粉エネルギーに包まれた空間の中でカフルーンが話しかけてくる。
「正直、私たちはあなたを信用しきれていませんでした。なんせ、人間は自らの欲のために私たち植物の生命を奪ってきたものたちです。今回もあなたは裏切るのではないか。そう考えていました。ですが、あなたは裏切らなかった。あなたが植物を本当に大切に思ってくれている人だと分かった。だから、私たちはあなたに力を貸します!!」
カフルーンの言葉と供に、数多の精霊たちが姿を現す。その中にどことなく見覚えのある顔があった。
「君たちは……まさか!」
「ご主人様。お願いします。あいつを倒してください」
「ふん! さっさとあんなやつ倒して家に戻ってきなさいよ!」
「……林太郎いないと、暇」
彼女たちは僕が育てている観葉植物の精霊だった。
「愚かな人間。我からも頼む。我々を救ってくれでおじゃる!!」
そして、囚人服の様なものを着たカフルンも僕に頭を下げる。
あの偉そうな態度を崩さなかったカフルンまで……今もちょっと偉そうだけど。
「皆、ありがとう! 僕、戦うよ!!」
「「「お願いします!!」」」
全ての花粉エネルギーが僕の身体に吸い込まれていく。それと供に、さっきまで僕を苦しめてきていた花粉症の症状が治まっていく。
「ば、馬鹿な!? この花粉エネルギーの量……常人なら花粉症で死んでいてもおかしくないぞ!!」
僕の目の前で動揺するボス。
僕は、ボスと戦って一つだけ分かったことがあった。
「お前は、重度の花粉症に苦しめられていたんだね?」
「……っ! ああ。そうだ。俺は憎い! 花粉が無ければ花粉症になどならなかった! 花粉が無ければ鼻をかむ音で周りの人に気を遣う必要もなかった! ゴーグルのような花粉用の眼鏡を買ったり、多めにティッシュを買ったりする必要もなかった! 部屋に散らばる大量のティッシュを見られ、可笑しな勘違いをされることも無かった!! 全て、花粉のせいだ! 花粉が無ければ俺は!!」
「花粉が無ければ、新たな植物は生まれない。植物たちは僕らに酸素を届けてくれる。彼らは、僕たち人間にとって欠かせない存在だよ」
「そんなこと分かっている!! だが、どうすればいい? 薬だって試した! 耳鼻科にも行った! だが、治らなかった!! 植物が必要なことなど分かっている! なら、俺はこの怒りを誰にぶつけたらいいんだ! 俺と同じ花粉症に苦しむ人はこの苦しみをどうすればいいんだ!!」
ボスの悲痛な叫びが響き渡る。
やっぱり、この人も植物が僕らに必要なことくらい理解しているんだ。それでも、花粉症が辛くて溢れる怒りを抑えることが出来なかった。
花粉症の辛さはなった人にしか分からないという。それに、同じ花粉症を患っている人でも辛さは人によって全然違うらしい。
きっと、彼は人の数倍思い花粉症に苦しめられ続けてきたんだ。
「その怒りも、苦しみも僕が受け止めるよ。だから、お前も花粉症を受け止めて欲しい。僕たちは植物と供に生きなくちゃいけない。そもそも花粉症が浸透するようになった原因の中には僕たち人間の都市開発が進んだことが挙げられている。今まで、僕たちは植物と供に生きると言っておきながら、自分たちに都合の良いようにその言葉を使ってきた。だから、今度は本当の意味で、植物にとっても人間にとっても利益のある、本当の意味での共生をしなくちゃいけないんだ」
「……無理だ。もう、俺は止まれない。だから、次で決める。お前か、俺か。この世界の未来を決める人間をな」
ボスが静かに構えを取る。そして、その手に黒い邪悪なオーラを集める。
話し合いは無理のようだ。嫌、最初から彼と僕が相容れないことは分かっていた。それでも、僕は彼を理解したかったし、彼にも僕たちを理解して欲しかった。
「分かった」
彼と同様に僕も、両手に花粉エネルギーを集中させる。勝負は一瞬で決まるだろう。
「行くぞ」
「うん」
彼と僕が同時に走り出す。
「食らえ!! 花粉を恨む全ての人間の負の感情を込めた一撃! 花粉よ消えろ!!」
僕の身体を彼の手から放たれた邪悪なオーラが包み込む。
「花粉を未来へ」
その邪悪なオーラを飲み込むほどの眩い輝きを放つ花粉エネルギーが当たりを覆いつくした。
***
戦いは終わった。
あの後、ボスが倒れたことを確認した僕は気を失ったその場に倒れた。僕が目を覚ました時にはボスの姿は無かった。
でも、カフルーンの話を聞く限り、ボスはもう花粉を滅ぼしたりはしないだろうと思えた。
「ご主人様! 朝ですよ!」
「ほら、いい加減起きて学校行きなさいよ!」
「……出席危ない」
「おっと。そうだね。急がないと!」
考え事をやめ、急いで学校へ行く準備を整える。
あれから、約束通り僕の観葉植物たちには意思が宿り、言葉を喋るようになった。
「あ! 今日もありがとう。皆綺麗だよ」
日課の水やりと声掛けをする。
「いえ。林太郎さんもかっこいいですよ」
「ふ、ふん! そんなこと言われても嬉しくなんてないんだからね!」
「……ありがとう」
植物たちが嬉しそうに葉を揺らす。
「それじゃ、行ってきます!」
「「「いってらっしゃい!」」」
特別な時間はもう終わった。でも、これから先僕がやっていくことは変わらない。
今まで通り、植物を愛し、植物を大切にして、植物と供に生きていく。
彼らを守るために、この間の様な激しい戦いをすると言うことはもうないが、彼らを守るための地味で小さな戦いはこれからも続くのだから。
ありがとうございました!
次話で完結です!
感想、評価などして下さると嬉しく思います。