獣心②
まだ11月だというのに、吐く息が白い。
口から溢れる蒸気は、まるで生き物の様に蠢きながら上空に吸い込まれていった。
寒い。しかし、胸から背筋にかけて妙に暖かい。
心にもなくときめいてしまった。面白いものを見た好奇心旺盛な幼子のように、胸が熱くなった。我ながら難儀な性格だと思う。
大抵の人は、湧き上がる欲望を強い理性で抑え込んでいる。その強い理性は、年を積み、経験を重ねることにより成熟させる。
大人の階段を登るとはそういう事なんじゃないか、と齢16のガキが生意気な口を叩いてみる。まだ子供だからそんなもの、分かる訳ないじゃない。大人に聞いても、達観した意味のない返答が返ってくる。
なら、どうすればその答えが分かるの?
答えは単純明白。途中式を見ればいい。0から9までの数字を見ても、解答だけを見ても、習ってない数式は解らない。同じ様に、大人の階段を登り切りそうな人物を観察すれば、大人と子供の違いが分かるはずだ。
白河楊は子供だ。けれども、私よりも数段大人に近い。彼は今、大恋愛の最中にいる。纏綿のような人間関係と、嵐のように吹き荒ぶ感情の葛藤に苦しんでいる。
ああ、青い。私と同じだ。同族嫌悪を催すほど、彼は青い。そして、憧れてしまうほどに眩しい。
彼の恋の結末は、きっとつまらないものになってしまうだろう。それは、星崎夜船と井和瀬の会話を聞いて確信した。
ならば、守株待兎としてはいられまい。
このままでは、彼はただ失恋してしまう。失恋の記憶を胸に秘め、大人の階段を一段登るのだろう。それではだめだ。その程度の機微など見るに値しない。
もっと、もっと、一息に駆け上がってしまうような、心境の大地震を起こすのだ。
壊して、直して、汚して、引っ掻き回して、引き摺り出して、慰めて、ばらばらにして、混ぜて……そうして彼は大人になる。
胸の高鳴りは依然止まず、熱は冷めず、心はいつまでもときめいていた。
「明日からが楽しみだなぁ」
呟いた一言は誰の耳にも届かず、白いもやとなって消えた。