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銀河戦記/鳴動編 第一部  作者: 神崎理恵子
第一部
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第十三章・ハンニバル艦隊 V


「お待ちもうしておりました、ランドール司令。配下の部隊、全艦出撃準備完了しております」

「ご苦労様です。こちらの部隊の燃料等の補給が済み次第出撃します。それまで待機させておいてください」

「かしこまりました」

「大佐、私のオフィスに」

 正式には第十七艦隊所属独立遊撃部隊司令という肩書きを有しているアレックスであるから、当然このシャイニング基地にも部隊司令用のオフィスを構えていた。もっともカラカスを攻略してからというもの一度も帰舎できないでいたが。

「お帰りなさいませ」

 オフィス事務官のシルビア・ランモン少尉が出迎えた。

「留守番ご苦労さま。何か変わったことは?」

「いえ、ありません」


 その大佐と司令官室において面談したアレックスは、その威厳に満ちた風格に、ともすれば自分が上官であることも忘れてしまうほどであった。

「ところで、地球古代ローマ史にならって、ハンニバル艦隊と呼称されておりますが、一体率いている武将は誰なのでしょうか」

 先に口を開いたのはチェスターだった。自分が戦う艦隊の司令官を知りたくなるのは当然だ。

「レイモンド・スピルランス少将ですよ」

 といいつつそばのレイチェルに視線を送るアレックス。その情報を集めたのはレイチェル配下の情報部である。

「がしかし、実際に問題となるのは、作戦参謀として参加しているスティール・メイスン准将のほうでしょうね。おそらくはこの作戦を考えだしたのも彼でしょう」

「私もそう思います」

 そう。第五艦隊を壊滅させた張本人なのだから。

「第五艦隊の将兵達の士気はいかがですか?」

「気力は十分にあります。ランドール司令の艦隊に転属ということで、士気は上がっております。いつでも出撃可能です」

「それは良かった」


 一時間後。

 旧第五艦隊の将兵を前にして、アレックスは言い放った。

「君達はもはや敗残兵ではない。私の手足となって働く有能なる戦力として生まれ変わったのだ。君達が持てる力のすべてを出して作戦遂行にあたれば、いかにハンニバル艦隊とて恐れるに値しない。敵を撃退し、共に凱旋して基地に戻ろうではないか」

 この演説は、将兵達の士気を鼓舞するに十分な効果を与えた。

 敗残兵は常に懐疑的になる。もはや戦力として期待されていないのではないか、前線に投入されたとしても単なる捨て駒として利用されるのではないかと。

 しかし、この司令官は将兵達の存在価値を認めたことで自信を取り戻させた上に、あの強敵のハンニバル艦隊を撃退することを明言し、凱旋して基地に戻ろうと言うのだ。否が応にも士気はあがっていった。



 ハンニバル艦隊旗艦艦橋

「司令。カラカスにいたランドールが五万隻の艦艇を率いて、我々を撃退すべき出撃したそうです」

 スティール・メイスンは、情報部よりの報告をスピルランスに伝えた。

「ほう、あの若造がか……しかし、五万隻とはどういうことだ。三万隻じゃなかったのか?」

「シャイニングに駐留していた第五艦隊の残存艦隊二万隻を組み入れたようです」

「おまえが撃破したあの艦隊か。とっくに解隊されていると思っていたぞ」

「ともかく、ランドールをカラカスから引き離すという当面の課題は成し遂げたのです。そろそろ引き際と考えて、敵が来る前に撤退いたしましょう。そしてカラカス攻略部隊に合流して基地の奪還を計ります」

「撤退だと?」

「そうです」

「何をいうか。我々に立ち向かえる艦隊は、同盟のどこにもいやしない。たかだか五万隻の艦隊など蹴散らしてくれるわ」

「しかし、司令!」

「ええい。うるさい、下がれ!」

 司令官は聞く耳をまるで持ち合わせていなかった。

 勝ち戦が続くと、誰しもが傲慢になる。この指揮官も例外ではなかった。

 ハンニバル艦隊と呼ばれ、同盟を震撼させることになる作戦のことごとくを考えだしたのは、作戦参謀であるスティール・メイスンの功績によるところが多い。しかし、連戦連勝を続けていくうちに、いつしか最強の艦隊と自負するようになり、その自負が最強の艦隊を支える真の功労者を忘れ、ひいてはすべての功績が自分にあるとの錯覚を覚えるようになる。

 司令室を退室したスティールはため息をついた。

「愚かなことだ。いかに優勢に戦いを進めていても、引き際というものを知らなければすべてが無に帰してしまうことを」

 これ以上ここにいては、自滅することは判りきっていた。

 スピルランス艦隊が、連邦を震撼させる代名詞サラマンダー艦隊を率いるランドールにかなうわけがなかった。スティールは作戦当初から、今回の作戦をあくまでランドールをカラカスから引き離す陽動作戦としか考えていなかった。そのランドールが出てきたならば、これ以上ここに滞在する理由はもはやないのだ。

 すみやかに退去するに限る。

 スティールは、自分の副官や参謀を引き連れて、この艦隊から立ち去ることにした。

 自分の艦に戻ったスティールは、スピルランスに参謀降任の挨拶として最後の通信を交わした。

「司令官殿。参謀としての役目は終わりました。私はもう必要ないと思われますので、帰還させていただきます」

「帰還だと?」

「私などがいても、邪魔なだけでしょう。司令官のお気に召すままに存分にお戦いください」

「ええい。わかった、失せろ!」

「では、そうさせて頂きます。ご武運を」

 通信を終えると、傍に控えていた副官が苦笑いを浮かべて尋ねた。

「ご武運をですか……本気で言ってますか?」

「一応の外交辞令だよ」

「だと思いました」

「よし帰還するぞ。巻き添えを食わないうちにな」

「了解です。進路はお任せください」

「頼むよ」

 スピルランス艦隊から一隻の戦艦が離脱を始めた。

「この戦い……またしてもランドールに軍配があがるな」

 スクリーンに映る離れゆく旗艦の姿を、苦渋の表情で見つめるスティールだった。

「おそらくこれで、将軍へと昇進するのは確かだろう。となると奴の次の目標はタルシエン要塞攻略だ。そろそろこちらも手を打っておいた方がいいな」

「それでは例の件を発動させるのですか?」

「機は熟したと思うがな……」

「判りました。配下に準備に取り掛かるように指令を出します」

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