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銀河戦記/鳴動編 第一部  作者: 神崎理恵子
第一部
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第十二章・テルモピューレ会戦 Ⅵ


 サラマンダー艦橋。

 敵艦隊が出現してくるのを待機しながら、アレックスは物思いにふけっていた。

「テルモピューレか……」

 つぶやくアランの脳裏には、地球古代史にあるレオニダス率いるスパルタの三百の戦士が数万のペルシャ軍に対して死闘を繰り広げた有名なペルシャ戦役のことが思い浮かんでは消えていった。

「異国の人々よ、ラケダイモンの人々に伝えよ。祖国への愛に殉じた我等はみな、この地に眠ることを」

 後世の人々は、最後の一人になっても勇猛果敢に戦ったスパルタ戦士のために、記念碑を建て詩を刻んでその栄誉をたたえた。

 戦史でのその後のペルシャ軍は、スパルタ兵を打ち破ったものの、戦略家テミストクレスの策略にかかって、サラミス沖海戦で大敗して撤退することになる。


 玉砕しつつも後世に英雄とたたえられたスパルタの戦士達と違って、我々は煙たがられやっかい者扱いのうえに最前線送りとなっている、援軍すら認められない捨て石の部隊である。たとえ全滅したとしても家族以外に涙する者もおらず、誰も気にもとめられないであろう。

「しかし……」

 とアレックスは反問する。

 アレックスには、戦史通りの轍を踏んで、カラカス基地を死守して玉砕する考えなど微塵もないし、かといって敵を撃滅させることも不可能であるが、将兵を無駄死にはさせたくない。

 作戦がことごとく失敗に終わり、最悪カラカス基地を放棄して撤退を余儀なくされても、将兵を失うよりはいい。当然責任問題としてアレックスは糾弾されることになるだろうが。基地はいずれ取り戻せるが、将兵の命は戻らない。常日頃からのアレックスの口癖である。

 チャールズ・ニールセン中将の思惑にことごとく逆らうことになるが……。

 ともかくも、ここは戦闘を引き延ばせるだけ引き延ばして、ゴードンの別働隊が背後から襲うのを待つだけしかない。

「前方に重力反応探知!」

「敵艦隊が出てきました」

 オペレーターが叫んだ。

 その声に我にかえるアレックス。

「よし。全艦、砲撃開始」

 アレックスの下令と同時に、準備万端整っていた全艦より一斉に砲撃が開始された。


 出鼻をくじかれた格好となった連邦艦隊は、指揮系統が乱れて浮き足立ち、狭い宙域を密集隊形で進んでいるため、被爆した艦の巻き添えを食らって誘爆する艦が続出した。一刻も早く宙域を抜けだそうにも被弾して動けなくなった艦艇が行く先を塞いでいて前になかなか進めず、かといって後退しようにも後続部隊がつかえ棒していていた。右往左往しているうちにも後続の艦艇と接触事故を起こしていた。結局ほとんど押し出されるような格好で宙域を抜け出せても、宙域の外からのし烈な集中砲火が浴びせられてあえなく沈没していく。


 バルゼーは、前方で繰り広げられる戦況、一進一退すらもままならぬ苦境にいらだちの色を隠せなかった。

「一体何をしているのだ。やられっぱなしじゃないか。戦力では圧倒的にこちらが有利なんだぞ」

「とは申しましても、航行不能宙域に囲まれた隧道のような場所で、出口を完全に塞がれた状態にあっては、艦隊総数は問題ではありません」

「隧道は非常に狭く、戦闘に直接参加できるのは、艦隊の先頭領域にいるせいぜい数百隻程度。対して敵はこれを全艦で包囲する形をとり、数千隻を相手とすることになります」

「実質上の戦力差は敵に有利というわけか……どうやら、敵は我々がここを通ることを事前に察知して待ち伏せしていたようだな」

「まったくです。これだから、統合軍の参謀の考えた作戦通りに行動することなど反対したんですよ」

「仕方あるまい。上の奴らは最前線のことなど、知ったことじゃないんだからな」

「おまけに作戦に失敗したら、責任だけはこっちに回ってくると」

「その通りだ。こうなってはいたしかない。後方の部隊に連絡して、進路転進し宙域を迂回して敵の背後に回りこんで攻撃させよ」

 だが後方部隊が行動を起こすよりも早く、新たなる敵艦隊が背後から襲ってきたのである。


 ウィンディーネ艦隊が到着したのである。

「何とか間に合ったようだな」

 艦橋でほくそえむゴードン。

 遠路を迂回してきたゴードン率いる第一分艦隊が、背後から襲ったのである。

 こと艦艇の進撃スピードにおいては、巡航艦や駆逐艦といった高速艦艇だけで編成されているゴードンの第一分艦隊にまさる部隊は同盟には存在しない。まさしくこの作戦のために編成されたようなものである。アレックスの信用を一手に引き受けて、単独敵の背後に回ることに成功したことが、それを運用するゴードンの指揮能力の優秀さを証明してくれるだろう。

 もちろんいざ開戦となった時の、戦闘指揮能力もずば抜けており、その破壊力はすさまじかった。ただでさえ狭い宙域である、敵艦隊の後方部隊は回頭もままならず、反撃する機会を与えられることなく、ゴードンの容赦ない攻撃を受けて、次々と撃沈されていく。

 前面からと後方からとの挟み討ちにあっては、艦艇数の優劣に関わらず主導権を握ったアレックス達のなすがままとなった。ものの二時間も経たないうちに、敵艦隊は壊滅状態となって、敵艦隊司令官であるバルゼーは降伏した。

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