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銀河戦記/鳴動編 第一部  作者: 神崎理恵子
第一部
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第十二章・テルモピューレ会戦 Ⅰ

I


 惑星カラカス衛星軌道上に旗艦艦隊が展開している。

 ウィンディーネ艦隊は補給と休息待機で惑星に降下しており、ドリアード艦隊は哨戒作戦で惑星周辺に散開していた。

 サラマンダー艦内司令用の個室。

 ベッドの上でまどろんでいるアレックス。

 照明の落とされた部屋の扉が開いて、レイチェルが入ってくる。

 アレックスは、この部屋の解錠コードを、部隊創設の副官時代のレイチェルに与えており、パトリシアに副官が交代してもそのまま与え続けていた。情報参謀として最重要な人物だからである。

 ベッドの側に立ってアレックスを起こすレイチェル。

「ランドール司令」

「ん? レイチェル……。何かあったか?」

 眠たそうな目を擦りながら起き上がり、ベッドの縁に腰掛けるアレックス。自分を名前ではなく称号で呼んだことと、この部屋を直接訪れたことから、極秘重要報告を持ってきたのだと察知していた。

「タルシエン要塞に、カラカス基地を奪還するべく新たな艦隊が入港するという情報が入りました」

「そうか……とうとうやってきたか……」

「敵は一個艦隊、司令官はバルゼー提督です」

「バルゼーか……詳細を聞く前に、シャワーを浴びて頭をすっきりさせんといかんな。ちょっと待っててくれ。その間、パトリシアに連絡して、参謀達を第一作戦室に呼び寄せてもらってくれ」

「わかりました」

 アレックスがシャワー室に入るのを見届けて、艦橋にいるパトリシアに連絡を入れるレイチェル。


 サラマンダー艦橋。

 指揮官席に座るスザンナのところのヴィジホーンが鳴る。

「艦橋、ベンソン中尉です」

 機器を操作して答えるスザンナ。

 パネルにレイチェルが映し出される。

「作戦会議の招集です。参謀全員を呼び寄せるようにパトリシアに伝えてください」

 自分の名前が呼ばれたのを聞いて、脇から顔を出して質問するパトリシア。

「ウィング大尉、何があったのですか?」

 参謀を呼ぶのはいいが、大概その集合目的を聞かれるので念のためだ。

「敵艦隊の動静をキャッチしました。このカラカス基地奪還の動きがあります」

「わかりました。参謀全員を集合させます」

「よろしく」

 映像と音声が途切れた。

 早速ゴードンとカインズに連絡をとるパトリシア。

 まずはゴードンだ。

「……というわけで、ご休憩中のところ申し訳ございません。サラマンダーまでご足労お願いします」

「やっとおいでなすったか、なあに遠慮はいらんよ。腕が鳴ってしようがなかったんだ。今からそっちへ行く。艀をこっちへ回してくれ」

「只今、向かっています。十分後には到着するはずです」

「わかった」

 親しげにパトリシアに心境まで伝えて答える。

 そしてカインズはというと、

「了解した。今すぐ行く」

 と簡潔明瞭に答えて無駄話はしない。

 二人の性格の違いが良くわかる。


 司令室。

 バスローブを羽織って頭をタオルで拭きながら、バスルームから出てくるアレックス。

 カウンターではレイチェルがコーヒーを煎れている。

 タオルを首に掛けて、端末の前に座って操作をはじめるアレックス。

「どうぞ」

 そばのサイドテーブルにコーヒーカップを置くレイチェル。

「ああ、すまないね」

「どういたしまして」

 カップを受け取り、コーヒーを一口すすってから尋ねる。

「それで、進撃ルートは?」

「まだはっきりした情報ではないのですが、おそらく最短距離でテルモピューレを通ってきます」

「テルモピューレか……わざわざ、銀河の難所を通ってくるわけだ」

「しかし一応連邦側の勢力圏にありますからね。時間の節約を考えれば自然な選択かと思います」

「うーん……」

 と呟いたまま、パネルに映し出されたテルモピューレ周辺図を見つめていた。


 第一作戦室。

 パトリシア、ゴードン以下の参謀達が揃っている。

 そこへアレックスがレイチェルと共に入ってくる。

 一斉に席を立って敬礼する参謀達。

「全員、揃っています」

「うん……」

 明いた中央の席に腰を降ろしてから、厳かに言い放つアレックス。

「最新情報だ。連邦軍がこのカラカス基地奪還のために艦隊を派遣、現在タルシエン要塞に入港して乗員の休息と燃料補給中だ」

 その言葉に会場がざわめいた。

 アレックスがレイチェルに目配せして合図すると、

「派遣された艦隊は、第二十九艦隊。一個艦隊をバルゼー提督が指揮しています。推定進撃コースはテルモピューレを通過する最短コースの可能性大。なおも情報の信頼性を確認中です」

 淡々と説明をはじめレイチェルだった。

 ほうっ。というため息がそこここから聞こえる。

 またもやレイチェルのお手柄か……という表情をしている。

「それで今回の対応はいかになされるおつもりですか?」

 レイチェルの情報を得て、アレックスがすでに作戦の概要をまとめているだろうことは、全員が推測しており、事実その通りだった。

「敵艦隊が最短距離のテルモピューレを通過してくることは間違いないだろう。そこで、このテルモピューレという宙域の特殊性を利用させてもらう」

「特殊性?」

 ここで再びレイチェルが解説する。

「タルシエン要塞より出撃した艦隊がカラカスへ最短距離で向かうとすると、このテルモピューレ宙域を強行突破しようとするでしょう。周囲は銀河乱流の分流にさまたげられて航行可能域は非常に狭く、艦隊は密集隊形で進軍するよりありません」

 テルモピューレは、判りやすく例えるならば、蛇行する川が氾濫して流路を変えた跡に残された三日月湖のような空間に挟まれた宙域だ。

「なるほど……」

 カインズが納得して頷いたのを見て、その副官のパティ・クレイダー少尉が言葉を継いだ。

「判りました。宙域の出口に包囲陣を敷いて、先頭集団を各個撃破していけば、たとえ相手が数十倍の艦隊とて対等に渡り合えます。そういうことですね?」

 さらにロイド少佐の副官のバネッサ・コールドマン少尉が確認する。

「確かにテルモピューレは狭いから、縦列で細長く進軍するしかない。結局どんなに艦隊の数が多くても直接戦闘に参加できるのは前面の部隊だけ」

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