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銀河戦記/鳴動編 第一部  作者: 神崎理恵子
第一部
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第十一章・スハルト星系遭遇会戦 Ⅸ


 およそ三時間後。

 戦闘は圧倒的勝利で終わった。

「長い道のりだった割には簡単に終わってしまいましたね」

「敵の背後から急襲できたし、相手はまったく油断していたみたいだからな」

「鹵獲した艦艇ですが、いかがなされますか?」

「そうだな……」

 と考え込んでいるアレックス。

 今回の戦闘でも五百隻ほどの艦艇が白旗降参し、これを拿捕することができたのだった。これまでは拿捕した艦艇は、そのまますべて部隊に編入し、艦隊を増強してきた。

「いや、今回は止めておこう。捕虜を収容したら全艦撃沈処理する」

「え? いいのですか?」

「戦闘の前にも言っただろう。罠かも知れないと」

「え、ええ。確かにおっしゃいましたが」

「あまりにも事が簡単に運び過ぎた。これがブービートラップではないという保証はないじゃないか」

「でもシステムの総入れ替えをすれば」

「システムだけじゃない。艦内のどこかに探査できないように施された爆薬などが仕掛けられていたらどうする? あるいは艦隊の位置を逐一知らせる発信器でもいい」

「まさか……」

「考えてもみろ。我々の帰還コース、同盟軍の勢力圏内で行動しているにも関わらずろくな索敵もせず、まったくの無防備状態でいる艦隊がいると思うか? まるで襲ってください、拿捕してくださいとばかりに、目の前に置いてあった感じだ。おそらく拿捕した艦艇を編入してきた私のこれまでを考えて、罠を仕掛けてきたと考えても道理だと思うが、どうだ?」

「そう言われればおかしな点が多いですね」



 その頃、バーナード星系連邦タルシエン要塞基地。

 司令官室を行ったりきたりしながら、いらいらしているスピルランス少将。

「信号が跡絶えました。全艦撃沈されたもようです」

 静かに報告をするのは、深緑の瞳を持ったスティール・メイスン大佐だ。

「降伏し拿捕された艦もか?」

「はい。すべての艦艇です」

「そんな馬鹿な……。そんなことはあるはずがない……」

「どうやら閣下の思惑が外れたようですね。二千隻の艦艇が宇宙の藻屑と消え去り、六万余人の将兵が無駄死にし捕虜になったわけです」

「言うな!」

「ランドールという男、なかなかしたたかな相手です。これまでの経緯なら拿捕した艦艇を自らの艦隊に加えて、兵力を増強してきましたのに、今回に限っては閣下が仕掛けた罠に気づいて艦を残らず撃沈させるとは」

「ええい。言うなというに。出ていけ!」

「はっ!」

 うやうやしく頭を下げて退出するスティール、そして扉を閉めると同時にため息をついて嘆くのだった。

「自軍の艦艇や将兵達をただの駒のように扱ったあげく、ただ作戦が失敗したことを悔やんでいるだけとは……。無駄に死んでいった将兵のことなんか少しも気にもとめていない。あれじゃあ、死んだものが浮かばれない」


 サラマンダー兵員食堂。

 アレックスとパトリシアが仲良く食事を取っている。

「まあ、何にしても今回のスザンナの働きは賞賛に値するな。それだけははっきりとしている」

「そうですね……」

「どうした浮かない顔だな」

 せっかく忘れようとしていたのに思い起こされてしまったという表情のパトリシア。

「いいえ。何でもありません」

「そうか……。ところでパトリシア」

「何でしょう?」

「今、どんな下着を着ている?」

 周囲を気にしながら、パトリシアの耳元でひそひそ声で尋ねるアレックス。

「はあ……?」

 突拍子もない質問をされて唖然としている。

 いくら夫婦生活にある間柄とはいえ突然のこととて、さすがに答えに窮してしまう。

 その戸惑っている様子をみて、

「い、いや。いいんだ。忘れてくれ」

 と前言撤回した。

 丁度、その時だった。

「中佐殿。探しましたわ」

「レ、レイチェル!」

「巡回査察がまだ途中です。続きを致しましょう。おいで下さいませ」

「なあ、巡回はもう済んだということにしないか?」

「だめです。前例を作ることを許したら、今後も逃げ口上に使われるのでしょう」

「レイチェルには、かなわないな……」

 この時ほど、レイチェルが鬼のように感じたことはなかった。

 渋々と立ち上がるアレックス。

 そんな二人の会話を聞きながら、怪訝そうなパトリシア。優柔不断な態度のアレックスと毅然としたレイチェル。いつもの二人とまるで様子が違っていたからだ。

「ああ、そうだ。パトリシア」

「何でしょう?」

「スザンナに、スハルト重力ターンで脱落した艦艇とその艦長のリストを作成してもらって、オフィスに届けておいてくれ」

「スザンナ艦長の帰投命令を無視して戦列に復帰した艦艇ですね」

「そうだ。それとゴードンも呼んでおいてくれないか。1700時がいいな」

「かしこまりました」

「じゃあ、頼むね」

 巡回査察再開のために、レイチェルと共に食堂を立ち去って行くアレックス。

「アレックスらしくないわねえ。たかが巡回査察に、レイチェルさんと、一体何があるのかしら……」

 女性居住区という女性達の憩いの場に、踏み込まなければならないアレックスの心境を、女性であるパトリシアが理解するにはまだ経験が浅かった。


 それから数時間後、巡回査察を終えたレイチェルとパトリシアが並んで歩いている。

「なんだ。そういうことだったのね」

「アレックスとしては女の城に入り込んで行くにはやはり相当な勇気が必要だったみたいね」

「アレックスらしいわね」

「で、悩殺下着なんかプレゼントされたらどうする? 彼のために着てあげる?」

「その時になってみなければ判りませんよ。アレックスのその時の態度次第じゃないですか。やだあ……。こんなこと言わせないでくださいよ」

 と真っ赤に頬を染めてしまうパトリシア。

 二人の会話が示すように、レイチェルが二人が夫婦である事を知っている数少ない理解者であると、パトリシアは知っている。だから親しみを込めてすべてを話し合っている。

「で、今日はどんな下着を着ているの?」

「もう……秘密ですよお」

「にしても今回はスザンナに先を越されちゃったわね」

「参謀の面目丸潰れというところかしら」

「あの作戦プランは、わたしも考え付いてはいたのだけど、あのまま脱出した方が理にかなっていたから言わなかったの」

「まあ、考え方の違いってことね」

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