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銀河戦記/鳴動編 第一部  作者: 神崎理恵子
第一部
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第十一章・スハルト星系遭遇会戦 Ⅷ


 六時間後、第一艦橋に全員の姿が揃っていた。

「さてと……、敵艦隊との接触推定時刻は?」

 アレックスが尋ねるとオペレーターから答えが返ってくる。

「およそ三十分後です」

「敵艦隊の動静は? こちらには気づいていないか?」

「あれから変わった動きは見せていません。こちらには気づいていない模様です」

「これだけ近づいても気づかないなんて、敵は何を考えているのでしょうか?」

 パトリシアが首を傾げている。

「完全に油断しているか、それとも罠か……のどちらかだな」

「罠……ですか?」

「しかし今更後には引けないな。ここまで来たらたとえ罠でも戦うしかない」

「そうですね。通常航路上で大幅な進路変更すれば重力探知機に反応しますから、さすがに敵も気づくでしょう。転進して来る敵に背後を取られることにもなります」

「その通りだ。ジェシカに連絡、艦載機全機発進準備だ」

「はい」

 艦載機などの航空兵力はすべてジェシカの配下にあった。

 その航空兵力の正式な名称は、第百七航空兵団という共和国宇宙空軍の組織の中にある一部隊だった。宇宙空軍から宇宙艦隊への派遣という形で配備されている。ゆえに空軍と艦隊の階級も呼び慣わし方が違う。よく知られているのが「キャプテン」という呼称である。空軍では大尉であるが、艦隊では大佐の階級として呼称されている。


 空母セイレーン、艦載機発進デッキ。

 艦載機に駆け寄り搭乗するパイロット達。

 一人ゆっくり歩きながら愛機ファルコン号に向かっているジミー・カーグ大尉がいる。先のカラカス基地攻略で一階級昇進していた。

「頼むぜ、相棒よ」

 隼のイラストが描かれているその機体を平手で軽くぽんと叩く。

「キャプテン、今度の会戦で勝てばついに少佐も夢じゃないですね」

 ファルコン専属の整備士が話し掛けてきた。

 もちろん整備員がジミーを「キャプテン」と呼んだのは、空軍での大尉の呼称であるのは周知の通りだ。

「バーカ。一般士官の俺らが佐官になれるわきゃないだろ。名誉勲章ばりの戦績をあげなきゃ無理だよ」

「名誉勲章ですか? 例えばランドール司令のように?」

「そうだよ。そもそも俺達は上からの指令に従って戦う駒にしか過ぎないから、よほどの事でもない限り名誉勲章はないさ。例えばカラカス基地攻略のように、戦闘機だけで敵要塞を攻略するような作戦で勝利した場合のようにな。つまり少佐にはなかなかなれないようになっているってことさ」

「でも宇宙艦隊と違って、宇宙空軍には少佐になるのに、佐官昇進査問委員会や試験がないだけ楽なんでしょう?」

「まあな、俺達はどんなに階級が上がっても、動かせるのはこの戦闘機一機だけだが、宇宙艦隊で少佐になるということは、部隊司令官になって、数百隻の艦艇と数万人の乗員の生命を預かるということだからな。それだけ少佐への昇進は難しい……。のだが、この艦隊はどうも特別らしいな。中佐は無論、オニール少佐もカインズ少佐も簡単に昇進しているよ」

「劇的な功績を上げていますからね。それに何せ、特別遊撃部隊というくらいですから」

「ジミー、いつまで話し込んでいるつもりなの。他の乗員は全員搭乗しているわよ」

 艦内放送が名指しで注意勧告していた。ジェシカの声だった。

「おやおや、やかましの航空参謀殿がお叱りだ」

「キャプテン、いいんですか?」

「なにがだ?」

「だって、相手は中尉です。階級が下の参謀にあんなに言われて」

「知らないのかい? 我が部隊は階級じゃなく能力主義なんだよ。能力のある者が、階級を越えて指揮を執ることが可能なんだ。スザンナ艦長だって、多くの参謀達を差しのけて今回の作戦を立案し、ついさっきまで指揮を執っていたじゃないか。それにキャブリック星雲会戦での作戦失態による功績点の返上がなければ昇進していたはずだし。何にしても航空戦力の用兵の妙は、ランドール司令をも上回るとさえ言われている航空参謀殿だからな。俺達が戦功を挙げられるのも彼女次第という場合もあるしな」

「そりゃそうですが……いつも不思議に思ってたんですが、司令が任命した者なら皆素直に従っている。何故なんでしょうねえ」

「ああ、ただの二等兵にだって能力さえあれば指揮官になれるし、従わない者はいないさ。それが司令の信頼されている由縁だな」

「そんなもんでしょうか……」

「まあな。さて、再度のお叱りがこないうちに搭乗するか」

 と梯子を昇りはじめる。

「ご武運を」

 それに答えるように親指を立てるジミー。

 シートに着席すると同時に、通信が入った。

「遅かったじゃないか。何話し込んでいたんだよ」

 ハリソン・クライスラー大尉だった。

「ちょっとな……」

「まあ、いいさ。まもなく発進だぞ。エンジン始動して待機だ」

「判った」


 サラマンダー艦橋。

 警報が鳴り、メインスクリーンパネルの映像が切り替わった。

「前方に敵艦隊! 索敵レーダーに捉えました」

 次々と敵艦隊を示す光点が増えていく。

「敵艦隊の後ろにつきました」

「敵艦数およそ二千!」

「いよいよですね」

「そうだな……。

 呟いてから、

「全艦、戦闘準備! 粒子ビーム発射準備! 艦首魚雷装填! 艦載機は全機発進!」

 と矢継ぎ早に指令を発した。

 その指令をオペレーター達が全艦に伝達指示する。

 次々と発艦をはじめる戦闘機群。

「艦載機、全機発進完了しました」

「ようし! 全艦魚雷一斉発射!」

「魚雷発射します」

 一斉に発射される魚雷。

「突撃開始、艦載機は母艦に追従せよ」

 遠回りしてきた道のりの末に、ついに戦闘の火蓋が切って落とされたのだ。

 やがて前方に魚雷による無数の爆発の光が輝いた。

「粒子ビーム砲、三十秒間一斉掃射の後、艦載機は全機突入せよ」

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