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銀河戦記/鳴動編 第一部  作者: 神崎理恵子
第一部
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第十一章・スハルト星系遭遇会戦 V


 アレックスは自室へ向かい、スザンナとパトリシアは再び艦橋に戻ってくる。

「まずは第一関門の第七惑星での重力ターンにかかりましょう」

「そうですね。中佐の期待に応えましょう」

 パトリシアは、スザンナに指揮官席に座るように促し、自身は副指揮官席に座った。

 重力ターンの発案者であるスザンナが直接指揮した方が良いとの判断である。

 戦闘指揮ではないので、スザンナでも十分担えるだろう。

「指揮系統をこちらに戻します。第二艦橋に連絡してください」

「了解、指揮系統を第一艦橋に戻します」

「オニール少佐と、カインズ少佐に連絡してください」

 パトリシアが指示を出すと、通信用のモニターに両少佐が映し出された。

「これから最初の重力ターンにかかります。準備をお願いします」

 さすがに女性らしい配慮だった。

 アレックスなら、指揮官席から命令を下すだけで、いちいち配下の指揮官達に連絡を取ったり、状況説明したりはしない。自分達の方が階級が下ということもあるだろうが、それ以上に作戦指示には女性らしい配慮が見られた。

「判った。ところでパトリシア、中佐殿は本気で昼寝か?」

 艦橋にアレックスの姿が見えないのを確認してゴードンが尋ねた。

「はい。たぶん……」

「そうか……判った」

 少し苦笑の表情を浮かべながらも納得して答えるゴードン。

「カインズ少佐も宜しいですね」

「こちらは準備オーケーだ。いつでも良い」

 カインズは例のごとく無表情だ。アレックスの性分はすでにお見通しだ。

「それではよろしくお願いします」

 通信が切られた。

 アレックスが昼寝するといった発言と行動に対し、意見具申するものは一人もいなかった。そう、彼の本領が発揮されるのは、敵艦隊との戦闘がはじまってからである。それまでに十分の気力を蓄えるための休息に、意義を挟むことはできないだろう。


「これより第七惑星による重力ターンを行う。艦隊リモコンコードに乗せてコース設定を送信する。全艦受信を確認せよ」

 すぐさま最初の重力ターンにかかる。タイミングを間違えるとコースが変わってしまうから、艦隊リモコンコードを使って全艦一斉に行動するに限る。

 メインスクリーンに全艦艇が赤い光点として表示されている。それがリモコンコードを確認したことを示す青い光点に切り替わっていく。

「全艦、リモコンコードの受信確認終了しました」

「よろしい。では、重力ターンのオペレーションを開始してください」

「了解。重力ターンのオペレーションを開始します」

 リモコンコードによる艦隊行動は、すべて戦術コンピューターにインプットされたプログラムに従う。ゆえに指揮官が指示を出すことも、オペレーターがいちいち機器を操作することもない。行動が終了するまで見ているだけである。

 全艦が一斉に一矢乱れぬ行動を開始した。

 重力ターンに入るには、ほんの少し軌道修正をするだけで済むから、敵の重力加速度検知機に掛かることはない。

「重力ターンのコースに乗りました。全艦異常なし」

「よろしい。引き続き第三惑星への重力ターンの準備に掛かれ」

「了解。第三惑星、重力ターンの準備にかかります」

「コース設定を計算中」


 六時間後、アレックスが戻ってきた。

「状況はどうか?」

「全艦異常ありません。第七惑星と第三惑星の重力ターンを完了し、これより二十分後にスハルト星による重力ターンに入ります」

「そうか……。パトリシアご苦労だった。休憩に入りたまえ」

「はい。休憩に入ります」

 パトリシアが副指揮官席を立ち上がって艦橋を退室して行く。

「スザンナは、そのまま指揮を続けてくれ。後で交代する」

 と指示して、空いた副指揮官席に座る。

「わかりました」


 ここからが問題だわ……。


 スザンナはアレックスの方を見やったが、一向に指揮を変わる気配を見せていなかった。どうやらスハルト星の重力ターンという重役までも任せる一存のようだった。少しでもコース設定や操艦ミスがあれば、スハルトの強大な重力から脱出できずに艦隊が自滅してしまう。艦隊とそこに従事する大勢の乗員の生命がスザンナの指揮に掛かっていた。

 それだけ自分を信頼してくれているという事だ。

 もし重大な判断ミスを犯した時は、すぐさま命令訂正をするために副指揮官席に陣取っているとは思うが……。それでも艦隊を自分が直接操れるのには変わりがない。

 士官学校時代からずっとアレックスから切望されて艦長を務めてきた。そして艦隊指揮官としての経験の機会を与えられ、これまで無難にこなしてきた。

 そして今、戦闘体制での恒星スハルトの重力ターンを指揮している。

 スザンナは胸が熱くなった。


 ウィンディーネ艦橋。

 ゴードン・オニール少佐はスザンナの指令に従って部隊を動かしていた。

「スザンナは、ここまでは無難に指揮運営しているな。どうやら中佐は、スハルト星での重力ターンも指揮させるようだ。となると大変だな……」

 副官のシェリー・バウマン少尉が答える。

「そうですね。侵入角度を間違えて深く突入してしまえば溶けて消えてしまうし、さりとて浅すぎれば敵艦隊を追尾するコースに乗り切れない。いくら艦隊リモコンコードで進行するとはいえ、」

「スザンナのお手並み拝見だな」

「しかし中佐殿は、なぜ艦隊運用の教練を受けていない一般士官の旗艦艦長に、任せきりにしているのでしょうか? 戦術士官のウィンザー中尉もいらっしゃるのに」

 並び立っている航海長が疑問を投げかけた。

「艦隊運用ができるのは、何も戦術士官でなくても、その能力を有している人間は幾らでもいる。民間の例で言っても、義務教育すらまともに卒業していない者が会社を興して発展し、最高学歴の者が平社員で働いているというのは良くある事だ。中佐は、スザンナの中に秘めたる能力を見出しているのさ。だから、艦隊の指揮統制を任せたり、作戦会議にオブザーバーとして参加させてきた。スザンナも中佐の期待に応えるような素晴らしい働きをしている。それはこれまでの経歴が物語っているじゃないか」

「それはそうですけどね……」

「それとも何か? もしかして女性に指揮されるのが、気に食わないんじゃないだろうな。もしそうなら偏見だぞ。今すぐにでも改心した方がいい」

「いいえ、そんな考えはありません」

「なら、いいが……」

「にしても司令は昼寝するとか言ってたそうですが、本気ですかねえ」

「ああ、たぶん本気だよ。いざ戦闘になれば、一時の休み暇なく頭脳をフル回転させなきゃならん。何せ全艦隊・全乗員の生命が掛かっているのだからな。その精神力の消耗は凄まじいものだ。一秒の指示の遅れが勝敗を決する事もある。戦闘時の一時間は平時の一日に相当するくらいのエネルギーが必要だ。だから部下に任せられる今の内に休んでおくわけだ」

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