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銀河戦記/鳴動編 第一部  作者: 神崎理恵子
第一部
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第十一章・スハルト星系遭遇会戦 Ⅱ


「中佐。そろそろ、巡回査察のお時間です」

 レイチェルが自分の腕に巻いている婦人腕時計の指針を確認して言った。

「うむ……わかった」

 と、ゆっくりと立ち上がるアレックス。

「今回はパス、というわけにはいかないかな」

「規則です。指揮官が軍規を無視しては、配下にたいして示しがつきません」

 きっぱりと答えて、アレックスを促すレイチェル。


 中央エレベーターから第十四ブロックに降りた所が女性士官居住区だ。

 レイチェルと並んで通路を歩いていると、行きかう女性士官が慌てて敬礼をして、通路の端に寄って道を譲っていく。

 巡回査察があることは知らされてるので、男性のアレックスが通行していても、誰も咎める者はいない。いや、査察でなくてもアレックスなら、皆が許してくれるだろう。

 パジャマ姿で平気で出歩いている女性もいると聞くが、さすがに査察があると知ってちゃんとした服を着ているなと、アレックスは考えていた。

「次はランジェリーショップです」

「やっぱり……。そんなところも査察しなければならないのか」

「当然です。そもそもランジェリーショップの運営は、中佐殿が特別許可なされたものでしょう。その運営が滞りなくなされているか査察するのは義務というものです」

 ふうっ。

 と大きくため息をつくアレックス。

「早いとこ済ませたいものだ……」

 ランジェリーショップは、第十四ブロックの女性士官居住区、中央エレベーターから左手に回った所にある。

「いらっしゃいませ!」

 店員が愛想良く迎える。

「いや、買い物にきたわけではないから……」

「まあ、いいじゃないですか。殿方を魅了する素敵なランジェリーが盛り沢山。それを見るだけでも」

 レイチェルが背中を押すようにしてアレックスを店の中へ誘いこむ。

「ば、馬鹿。何いってるんだ」

 冷や汗をかきながら店内に入るアレックス。


 店内にいた女性達の視線が集中する。男性の入店に一瞬緊張感が走るが、そこに指揮官の姿を確認して、一斉に敬礼を施した。

 巡回査察か……。

 みな一様に納得した表情をしている。

 一人の女性士官が、アレックスのそばに歩み寄って来る。

「ここの責任者のアイシャ・ウィットマン少尉です。よろしくお願いいたます」

「や、やあ……」

「このランジェリーショップを一目見られたご感想はいかがですか?」

「そう言われてもなあ……」

「このようなランジェリーショップの運営を許可して頂き、女性士官一同、中佐殿のご配慮には感謝いたしております」

「そ、そうか」

「念のためでありますが……。上着の方は軍規で決められた軍服の着用が義務付けられておりますが、下着に関しては一切の決めごとはありません」

「つまり、軍服の下に何を着ようと自由というわけだ」

「その通りです。中佐殿は、パーティーには参加なされたことはおありでしょう?」

「まあな」

「では、そこに参加する女性達を見てお気付かれると思いますが、一人として同じドレスを着ている者がいないということを。規則で決められていない以上、他人と同じ物を着ることなど耐えられないのが女性なのです。そして見えないところに精一杯のおしゃれをすることこそ、女心というものであり生きがいでもあるのです」

「まあ、確かに男性の着る下着を考えると、ランニングシャツにブリーフないしはトランクスという基本パターンを踏襲していて、数えるほどしかバリエーションはないよな」

「これらのランジェリーのすべては、艦内の作衣工廟で生地を裁断し縫製したものです。作業には衣糧課の女性士官があたっており、艦内インターネットを通じて、全女性士官の要望などを取り入れてデザインを起こし作成しております」

「中佐殿。ご遠慮なさらずに、どうぞ手にとって十分にご覧になってください」

「あ、ああ……」

 条件反射的に言われるままにランジェリーを手に取ってみるアレックス。

「いかがです。デザインはもちろんのこと色柄・材質どれをとっても市販として流通しているものには見劣りしませんよ」

「そういわれてもなあ……」

 アレックスにとっての婦人下着いわゆるランジェリーといえば、同居しているパトリシアが所有するものがすべてであり、彼女が着替えの時などに垣間見る他は、手にとってじっくり鑑賞することなどありはしない。当然、感想を求められても答えられるものではなかった。

「せっかくいらしたのですから、中佐殿の恋人へのプレゼントにお一ついかがですか」

「おいおい。買い物に来たのではなく、査察なんだぞ」

「まあまあ。固いことおっしゃらずに。そうですね……これなんかいかがです?」

 といってアイシャが手にとって見せたのは、パープルのベビードールであった。

 恋人といっても妻であるパトリシアということになる。

 パトリシアに似合うかな。いや、それ以前にこれをプレゼントされてどういう反応をするかが問題だ。

 などとふと思ったりもするが……、

「いや、遠慮しておくよ。とにかく仕事をさせてもらうよ」

 いつまでも関わっていたら、本当に衝動買いしてしまいそうだった。

「そうですか……。残念ですね」

「ここはもういい。次に行くぞ」

 ランジェリーショップを出て行くアレックス。

「あら……中佐殿。査察……ですか?」

 入れ違いに、かの特務捜査官のコレット・サブリナ中尉が店に入るところだった。

「なんだ君か……。君もここへ買い物に来たのか?」

「ええ。仕事がない時は、よくきますよ。見るだけでも楽しいですからね」

「そうか、じゃあゆっくり見ていってくれたまえ」

「はい。中佐も頑張ってください」

 何を頑張るというのか……。おそらくアレックスの心情を察してのねぎらいの言葉なのかも知れない。

 レイチェルと二人で並んで歩くアレックス。

「ところで……、君もあんな下着を身につけているんだろうね」

「もちろんですわ。なんだったら見せてさし上げましょうか?」

「うう……。遠慮しとく」

「そうですわよね……。婚約者のパトリシアの下着姿くらいは見慣れていらっしゃるでしょうから。彼女も結構魅惑的な下着つけてるのよね。やっぱり恋人がいる人は下着にも結構気を付けるから」

 というレイチェルの言葉の最後の方はぼやきにも似た呟きとなっていた。

「見たのか?」

「一応、女同士ですから。一緒に着替えることありますもの」

「女同士ね……そっか……」

「それでは、次へ参りましょう」

「まさか、女子更衣室だなんて言うんじゃないだろうな」

「ご拝見なさりたいなら」

「いや、遠慮しとく」

「はい」

 といって、くすっと笑うレイチェル。

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