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銀河戦記/鳴動編 第一部  作者: 神崎理恵子
第一部
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第十章・コレット・サブリナ 氷解 Ⅲ


「ところがウィング大尉は、国籍には出生時から女性として登録されています。生まれてから今日までに至るすべての公文書が女性であることを示しています。となると中佐殿の作文にある、おちんちんなるものを所有している人物は、本当は同名の別人なのかという問題になってきます。ところが当時の幼年学校の同級生にはその名前の子供は他に存在しません」

「徹底的に調べ上げたものだな」


「どうやらウィング大尉は、性転換を施した後に国籍及び軍籍コンピューターに侵入して記録を改竄したのではないかとの、疑いが生じます」

「確かに作文にはレイチェルの事が記録として残っているようだが、私は当時の詳細なことまでは覚えていない。子供の頃の記録を持って、現在の私にその事を承認しろというのは不可能なのではないか? 子供の書いた事や言ったことは、証拠として通用しないのではないかな。実際まるで記憶がないのだからな」

「確かに。その記録が何らかの事件の証拠として提出されても、取り上げられないでしょう」

「参考までに聞いておきたいのだが、仮にそれが事実であったとしたら、どんな罪に問われるのか」

「国家や軍のシステムに侵入しただけでも最低十年の懲役、さらに公文書を改竄したとなればプラス七年の懲役となるのは明白です」

「そうか、わかった」

「捜査線上に重大機密を持つ者がいた場合、まずそれを疑ってかかるのが捜査の基本であります」

「つまりレイチェルが犯人である可能性があるということか」

「そうです。たとえば、ウィング大尉の素性をライカー少尉に気づかれたとしましょう。あなたが大尉ならどうなされますか?」

「他の人間に知られたくなければ、消してしまうに限るな」

「そうです。現時点においては、大尉は容疑者として濃厚です。そしてあなたも同様に容疑者の一人です」

「ほう……」

「何より中佐殿には、あまりにも秘密なところが多すぎる。その最たるものが出生の秘密です。一切が軍事機密として封印されてしまったマスカレード号事件、幼児が一人救出されたという記録だけが公表されただけです。その時の幼児が、中佐殿という事実。提督達の間では銀河帝国のスパイとして送り込まれたのではないかという噂でしきりです」

「それなら私の耳にも入ってきている」

「異例の出世の背後には、スパイが同盟側でさえ知り得ていない重要な情報や作戦を与えたのではないか、そうでなければこれほど完璧なまでに作戦を実行などできるはずがない、と勘繰っております。中佐殿の深緑色の瞳と赤毛は、銀河帝国を興したアルデラーン一族の末裔であることを明白に物語っております」

「仮に私がスパイだったとして、何とか准将になって艦隊司令官についたとしようか。果たしてそれが帝国にどんな利益をもたらすのかな」

「同盟軍の動静を知る事は可能でしょう。あるいは艦隊を率いて反乱を企てることも」

「反乱ねえ……」

「身近な話題で言いますと、カラカス基地で行われている奇妙な戦闘訓練。その作戦目的が極秘扱い。大型ミサイルを抱えて誘導射撃の訓練など、必要性がまったくわからない。誰もが疑ってかかるのは当然でしょう。しかも訓練計画発案者に、ウィング大尉の名前が記されています」

「そんな事まで……。よくも調べ上げたなあ。極秘事項だったのに」

「そりゃまあ、情報部にいますからね。それにこれは公然のこととして提督達の耳にはすでに流れています」

「ま、カラカス基地のことはいずれ外部に漏洩することは想像はしてはいたが……。さて、そろそろ時間だ。次の仕事が控えているのでね。忙しい身を判ってくれ……。それで、私の事をつぶさに調べ上げたのは、捜査の上での行き掛かりで許されるとして、真犯人については、カラカス基地に到着するまでに確保しなければ、みすみす逃亡されることになる。司法解剖の結果が出るのを待つまでもなく、先手先手と回って犯人を追い詰めてくれたまえ」

「わかりました。引き続き捜査を続けます。お手数かけました」

 司令室を退室する。


 鋭い!

 さすがにわたしの真意を見抜いていた。

 これほど鎌をかけて揺さぶっても、微塵も動揺していなかった。

 国籍改竄・公文書偽造という行為は、実に巧妙に仕掛けられており、それを証明するものは何一つ残されていない。かなりの技術を有したコンピューター・ハッカーが存在しているようだ。中佐は、その腕前を信じていて、そこから発覚する事はないと踏んでいるから、ことほどさように落ち着いていられるわけだ。ハッカーが漏らした公文書ではない幼年学校児童の作文など証拠にはならない。

 国籍改竄の疑惑はあるものの、レイチェル・ウィング大尉がミシェール事件に関与しているとは思っていない。それを持ち出したのは、英雄と称される人物なる者が、どう反応するかを見たかっただけなのだ。

 まずまず期待通りの反応というところだ。


「そろそろ、司法解剖も終わった頃かな……」

 遺体安置所に併設されている解剖室に向かう事にする。

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