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銀河戦記/鳴動編 第一部  作者: 神崎理恵子
第一部
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第九章・コレット・サブリナ 犯人を捜せ Ⅶ


 コレットは、もう一度ミシェールの遺体を検分するために、遺体安置所に向かっていた。

 IDカードを提示して遺体安置所に入ったコレットは、係官に命じて遺体の収められているロッカーを開けさせた。

 プシュー!

 という音とともに安置ロッカーから引き出されたベッドの上にミシェールは裸で横たわっていた。腐敗を防ぐために冷蔵された身体は白くなり、吊るされていたことから首筋に紫斑と脚部に血液沈下斑いわゆる死斑が見られる。すでに死後硬直は解かれているようであった。身体の各部は膝の傷を除けばいたってきれいであった。

「司法解剖はいつ?」

「明日の一五○○時に監察医務官が来られることになっていますから、その後すぐに行われると思います」

「鑑識にも伝えてありますが、監察官にこの膝の擦過傷について念入りに調べてもらってください」

「念入りに調べるのですか。つまり細胞レベルで?」

「そう。この傷が、死亡の以前にできたのか、それとも後にできたのか、についてです。生存中にできた可能性も含めて」

「わかりました」


「やはり殺人ですかねえ……」

 係官が質問ともとれる呟きをもらした。

「まだわからない」

 殺人だという確証が出てこない限りにはそう言うよりしようがない。

「もし殺人だとしたら哀しいですね。この部隊にいる人達はみんな、ランドール司令の下で働くのを生きがいにしていると思うんです。たとえ生きて帰ってこれないような作戦にだって喜んで出撃していきます。それで戦死したのなら本望だと思っています。それがこんな形で死んでしまったら浮かばれないです」

 そうかも知れないと思った。

 部隊にいるすべてのものが、ランドール司令に絶大な信頼を寄せていた。カラカス基地攻略という理不尽な作戦命令を受けても、ミッドウェイやキャブリック星雲不時遭遇会戦にしても、まさしく生きて帰ってこれないような作戦遂行に至っても、誰一人として逃げ出さなかった。司令にたいして文句一つ口にしなかった。

 そんな志を一つにする者同士が殺人を犯す者だろうか?

 容疑者の一人であるカテリーナにしても思いは同じはずだ。

 おそらくは共犯者でありスパイである男の存在がそうさせたのだろう。


 サラマンダーに潜入したスパイは、司令官を取り巻く主要な士官達が女性ばかりと知って驚いたことだろう。第一艦橋はすべて女性だし、統合作戦司令室、統制通信管制所も九割が女性だ。顔馴染みのない男性が潜入すればすぐに身元がばれてしまう。

 スパイは考えたのだろう。ランドールのいる発令所ブロックでスパイ活動するには、発令所要員の女性を手懐けて、共犯者に仕立てれば良いと。

 そしてカテリーナが選ばれた。

 カテリーナは、野心を持って近づいた男に、何も知らずに恋に落ちた。やがて恋人からランドール司令の調査を依頼されて従うことになる。

 ランドール司令と恋人とを両天秤に掛けて、恋人の方が重ければ当然そちらに傾く。スパイ活動中にミシェールに気づかれて殺してしまった。恋人のために罪を犯し、そして証拠隠滅に尽力する。

 スパイの正体は一体何者か?

 カテリーナが白状しない限り突き止める事は不可能だろう。

 まずはカテリーナの周囲を洗って証拠を集めよう。

 何にしても、このミシェールのためにも真相を究明しなければ、係官の言うとおり浮かばれない。

「死人は黙して語らずか……。ああ、もう元に戻してください」

「わかりました」

 係官がミシェールの横たわるベッドを安置ロッカーに戻す。

「ミシェールの着ていたものを見せていただけません?」

「いいですよ、こちらです」

 隣の部屋に案内される。

 引出の中からビニール袋に収められた衣類が取り出された。

「レオタードとその下に着用するショーツ、そしてタイツか……」

 死ぬ直前に、アスレチックジムで汗を流していたのだから、それがすべてであった。

 鑑識用の白手袋をはめて、レオタードを調べる。何か付着していないかと、裏返したり透かしたりして、じっくりと観察するが、何も出ない。

「問題はタイツね……」

 擦過傷を負っていただけにタイツの生地に擦った痕があるが、破断までには至っていない。

 スポーツなどしていて転んだ時、衣服は破れていないのに、その下の膝や肘などが擦り剥けて血が出ているということがよくある。いわゆる圧迫擦過傷である。

 皮膚は誰でも知っている通り、自由に伸び縮みしながら体運動を可能にしている。転んだ場合など、皮膚と衣服との間には静止摩擦が生じて、皮膚は衣服にへばりついたまま外力方向へ引っ張られる。この時、皮膚が伸びきったり、急激な伸長が与えられ張力限界を越えた時、表層雪崩のように皮膚の表面が、ずるりと剥けるのである。

 静止摩擦が加わったことを示す、熱反応がわずかに見られた。生地が熱で縮れているようだ。しかし擦過傷があれば血液が付着しているはずなのに、ほとんど見られなかった。これはつまり死んで血流が止まった後で、傷ができたことを示す。遺体を移送中に生じた証拠となる。司法解剖で擦過傷に対する判断が下されれば真実は明らかになるだろう。


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