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銀河戦記/鳴動編 第一部  作者: 神崎理恵子
第一部
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第七章・不期遭遇会戦 Ⅵ


「一つ質問してもよろしいですか?」

 オブザーバーとして参加していたスザンナ・ベンソンが発言した。一艦長に過ぎないスザンナは、本来参謀会議に出席する権限はないが、操艦技術だけでなく作戦指揮能力もかなり高い能力を有していることを、アレックスは見抜いていた。巡航時における艦隊運用の実績を見てもそれは証明されている。ゆえに作戦会議などにオブザーバーとして参加させているのである。

 他の参謀が責任を感じて暗く押し黙っているのに対し、作戦立案に関与していないがために、それほどの重圧はかかっていない。

「何かな」

「あの時、熱源感知ミサイルを使用なさらなかったのはいかなる理由でしょうか。被害をもっと最小限に食い止められたのでは?」

「あの時熱源感知ミサイルを使用すれば、こちらの被害は皆無に近い状態で、勝利していただろう。が、それでは訓練にはならない。目の前の小さな敵にばかり気をとられて、将来にかかわるもっと強大な敵が迫っていることを忘れてはならない。そのための訓練であり、まともな実戦を戦ったことのない寄せ集めの将兵達を再訓練し、実戦部隊として使えるものにしなければならなかった。ここは多少の犠牲を払ってでも、部隊の将兵全員が一丸となって全力を挙げて戦い、勝利しなければ訓練の意味がなかったのだ。私が敵が潜んでいるかもしれない星雲に、あえて訓練としての作戦任務を遂行したのもそのためなのだ。実戦のための訓練でありながら、訓練のための実戦であったのだ」


 アレックスが呼吸を整える度に、会議室は静まり返る。

「それはともかくも、問題は今回の作戦だ。君達参謀としてのいい加減な対応によって、部隊将兵達全員の生命を軽く扱い危機に陥らせる可能性をもたらした罰として、ゴードン、カインズ両名は給与を三ヶ月間二割減額し、その他の者は同二ヶ月一割減額する。意義のあるものは?」

 誰も意義を言い出す者はいなかったし、言い出せるものではなかった。アレックスの機転がなければ部隊は全滅、全員この場にいるはずのない事態に陥っていたからである。

「さて、私は君達に宿題を出しておいたはずだが、今回の作戦の反省を十二分に踏まえて、カラカス基地防衛の作戦立案をもう一度検討して明後日に提出のこと。一人で考えるもよし、数人で相談して連名で提出してもいい」

「わかりました」

「よし。今日のミーティングはこれまでだ。解散する」

 立ち上がって退室するアレックスと、敬礼して見送る参謀達。


 アレックスの姿が見えなくなって思わずため息をもらす参謀達。

「参りましたね……」

「ああ……。今回の作戦に際しては、司令には頭が上がらない」

「参謀達全員で立てた作戦の欠陥にただ一人気がついていただけでなく、部隊を窮地から救った上に見事な作戦で敵部隊を壊滅に追い込んだ」

「大破こそあったものの、一隻の撃沈なしにな」

「それも十五倍以上の数の敵部隊にたいして」

「司令がおっしゃってた、七百隻で敵一個艦隊を撃滅する作戦を考えている。というのは本当のことだったんですね」

「オニール少佐は、士官学校の模擬戦闘にも一緒に参加なされたそうですね」

「模擬戦闘か……あの当時から常軌を逸脱した作戦を敢行する人格だったなあ。原始太陽星雲ベネット十六を突破するなんてことは、誰も予想もできなかったよ。確かに不可能と思われていたことを、可能にしてみせている……今にして思えば」

「対戦校の指揮官にミリオンが選ばれたことが発表される半年以上も前から準備周到な作戦を練って、彼を完膚なきまで打倒しちゃったんですよね。それも誰も想像だにしなかった奇抜な作戦で」

「やっぱり噂通りに、司令には予知能力があるのでしょうか」

「あるわきゃないだろ、そんなもん」

「でも敵が潜んでいることを予期していらしたですよ」

「それだよな。どうやって連邦が訓練航海の情報を得たかだよ」

「報道部が宣伝流してたから?」

「なぜわざわざ流す必要がある」

「やはり、軍部内にランドール提督を貶めようとする輩がいるということでしょう」

「出る杭は打たれる……」

「チャールズ・ニールセン中将なんか、昇進著しかった当時のトライトン少佐を妬みの対象にして最前線送り」

「まあ、彼の思惑は外れてさらに昇進させる結果になってますけど」

「ニールセン中将か……。自分はデスクにどっかりと座って、気に入らない将校を片っ端から前線送りしてますね」


「ところで、今回の戦績からすれば、司令は大佐に昇進してもいいんではないでしょうか」

 その言葉の背後には、つまるところゴードンやカインズそして多くの士官さえもが、同時に昇進できるのではないかとの、思惑もあったようである。

「いや、今回の軍事行動は、あくまで訓練の延長であると、司令自身が辞退したそうだ」

「辞退!?」

「俺達がとやかく言える権利があると思うか?」

「いえ。今回の不期遭遇会戦の戦果は、すべてランドール司令お一人の手柄です。その司令が辞退するというなら、わたし達には口出しできません」

「そうだよな。功績点も、作戦会議に同席した士官全員の分を返上されたらしい。戦死者や一級負傷退役兵の特進や恩給、下士官クラス以下の処遇などは規定通りに行われたがな」

「でもレイチェルさんだけは、大尉に昇進なさっていますよね」

「ああ、敵の一個艦隊が隠密裏に行動しているのを察知して、キャブリック星雲に向かった可能性を示唆していたそうだ」

「じゃあ、その情報がなかったら、わたし達全滅していたかもしれませんね」

「まあ、哨戒作戦に不備があることは確かだったし、司令のことだからあのまま星雲に突入するようなことはしなかっただろうけどね。情報があるのとないのとでは雲泥の差がでるよ。あれだけ完璧な指示を出せたのも、情報があればこそだ」

「そうでしょうねえ……」

「レイチェルのすごいところは、司令が今一番欲しがっている情報は何かと逸早く察知して、言われなくてもほぼ完璧な資料を提示してみせることだ。ハイドライド型高速戦艦改造Ⅱ式五隻が廃艦になることを進言して、我が部隊に配属できるようにしたのも彼女だからな。カラカス基地の詳細図のことも皆が知っての通りだ。司令が言うように、彼女の情報収集能力は一個艦隊に匹敵するというのは、本当のことだよ」

「司令の立てる完璧な作戦の裏には、レイチェルさんの完璧な情報があったというわけですね」

「結果的にはそういうことになっているな。この二人にパトリシアが加われば鬼に金棒さ。もっとも今回はさすがのパトリシアも手落ちになっちゃったけど」


 司令室。

 デスクに着き、今回の作戦の報告書をまとめているアレックス。

「お疲れさまです」

 デスクの上にコーヒーカップを置きながらねぎらうレイチェル。

「パトリシアはどうしている?」

「はい。自室に籠っています。作戦参謀として、敵の存在を感知しえなかった自分に責任を感じてふさぎ込んでいます」

「そうか……まあ、パトリシアだって見落とすことぐらいあるさ。問題となっているのは、参謀全員が気づかなかったことだから」


第七章 了

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