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銀河戦記/鳴動編 第一部  作者: 神崎理恵子
第一部
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第七章・不期遭遇会戦 Ⅴ

 キャブリック星雲内における不時遭遇会戦の結果は、同盟側損害二十七隻に対し連邦側推定損害三千隻という、アレックスの率いる部隊の圧勝に終わった。それも四百隻対七千隻という数において劣勢の状況下において味方撃沈が一隻も出なかったのは驚異であった。

 その勝利要因を分析すれば、艦隊リモコンコードに頼らないアレックス独特の艦隊ドックファイトという近接戦闘・乱撃戦法が真価を発したというものであった。一定の距離を保って相対して撃ち合う艦隊決戦に固執した連邦が、懐に飛び込まれて身動きがとれなくなり、果ては同士討ちまで引き起こして被害を広げたことによって敗北を決定づけたといえた。

 なお将兵の犠牲者は、死亡三十一名、行方不明十八名、重傷七十八名、軽傷二百四名であった。

 撃沈が一隻も出なかったことで賞賛されることはあっても、その陰で多数の犠牲者を出したことにたいしては、とかく内密に処理されることが多い。敵船艦を何隻撃沈したとか味方艦が何隻撃沈されたとかいった物理的な報告は正確なまでに発表されるが、人が何名死んだといったことはまず発表されることはなく、報告書としてまとめられて事後処理されるだけである。

 その報告書に署名をするアレックスは、暗く押し黙り悲痛の念を表しながら、

「何の感情もなく報告書にサインできるような人間にはなりたくないものだ」

 と、副官のパトリシアにもらしたという。


 アレックスが、作戦会議室に幕僚を招集して、今回の作戦結果について、

「さて、みんなご苦労であった……。と、いいたいところなのであるが、今回の作戦については苦言を言わねばならない」

 と切り出した時、一同はアレックスが何を言いたいかをとっさに察知していた。戦闘訓練の作戦立案において、キャブリック星雲に敵部隊が潜んでいた場合の作戦を、誰一人として想定しえなかった点についてである。

「パティー・クレイダー少尉」

「はい」

 アレックスはカインズの副官である彼女に質問した。

「作戦実行の二十四時間以内に、我々の哨戒機がキャブリック星雲の全域を捜索していたかね?」

「いいえ」

「では、その時部隊が取るべき行動は?」

「はい。部隊の突入前に、改めて索敵機を発進させて、敵艦隊の有無を確認すべきでした」

「その理由は? キャブリック星雲は、三日前の捜索では敵艦隊の存在は確認されていなかったはずだが」

「星雲内は濃密な星間物質及び中心にあるパルサーからの強力な電磁波によって通常の索敵レーダーが使用不可能なため、カラカス基地から背後にあたる空域は死角となっています。小部隊なら間隙をついて背後から忍び寄って隠れ潜入することは可能でしょう」

「そうだ。我々は総勢七百隻しか有り合わせがないために十分な哨戒行動が取れない。大艦隊ならともかく、小部隊で隠密裏に行動されると索敵の網から漏れることは十分にありうることだ」


 続いてゴードンの副官を指名して質問を続けるアレックス。

「シェリー・バウマン少尉」

「は、はい」

「キャブリック星雲の直前で突然の作戦変更を断行し、雷速五分の一で魚雷発射して急速転回、星雲の側面から部隊を突入させたその作戦意図を述べてみよ」

「はい。我々が訓練でキャブリックに向かったことは、報道部などから広く情報が流されていました。星雲内に敵が潜んでいればその情報を傍受して奇襲をかけることは十分予想されます。司令の突然の作戦変更は敵の裏をかくためでした」

「それで?」

「雷速五分の一、つまり戦艦と同速度による魚雷発射は、魚雷を同盟軍艦船だと敵に誤認させるためのカモフラージュ。敵は索敵レーダーの効かない濃密な星間ガスの中にいますから、星雲に突入した魚雷群を同盟軍戦艦と見誤ってこれに攻撃を開始する可能性は大いにありました。その間に、最大戦速をもって星雲を迂回した我が部隊は、敵の側面から攻撃を加えられます。しかも敵は我々の部隊に対して反転迎撃しようにも、次々と飛来する魚雷群に側面を見せることになる上に、艦首魚雷を放ったばかりで、再装填にかかる間にやすやすと我々に接近されて、得意の乱撃戦に持ち込まれてしまい、被害は拡大するだろう……と、司令は判断したのだと思います」

「いいだろう……」

 シェリーが席に腰を降ろしたのを見届けてから、自分の考えを述べはじめるアレックス。

「ま、運良く敵がいてくれたからこういう結果になったが、いなかった場合は魚雷相手に戦闘訓練するつもりだったことを付け加えておく。さて……」

 と言い継ぐ言葉を止めて、まわりの参謀達を見渡すようにしてから、言葉を続けた。

「今回のキャブリック星雲における不時遭遇会戦には、二つの大きな意味合いが含まれている」

「二つの意味合いですか?」

「そうだ。その一つは、敵が我々の訓練航海の情報を得て、星雲内で待ち伏せをしていた節があること。何も知らずに当初の作戦通りに行動していれば、四百隻すべてが全滅していただろう。つまりは情報を知るということがいかに大切であるかということだ。情報を得て待ち伏せに出た敵と、星雲内の情報が得られないことから作戦を変更した我が部隊。結局は私の方に、幸運の女神は微笑んでくれたが、その成否は実に紙一重なところにあったのだ。私はついていたのだ。ともかく、敵の情報を一刻も早く集め、敵にはこちらの情報を悟られないようにすることだ。そして……」

 ここで息を継ぐように、一同を見回してから言葉を続けるアレックス。

「もう一つは、当初の作戦計画立案と決定に際して、誰一人として意義を訴えなかったことだ」

 アレックスのその言葉は、一同の胸をえぐった。

「訓練ということで、作戦立案のすべてを参謀である君達に一切任せた以上、口を挟むべきではないと判断して何も言わなかった。いつか誰かが間違いに気がつくのではないかと考えたからだ。しかし流石に戦場を前にしては変更せざるを得ないだろう。部隊の将兵全員の生命がかかっているからな。君達は、どうせ訓練なのだという安直な意識がなかったか、一度索敵をすれば大丈夫だろうとタカを括ってはいなかったか。それが作戦立案において哨戒作戦を安直なもので済ませてしまったのだ。その結果がこの始末だ」

 会議場は静まり返り、アレックスの憤りの声だけがこだましていた。

「いいか。敵は、どのような些細な間隙をついてくるかわからないのだ。ゴードン」

「はっ!」

「ミッドウェイ宙域における、私の作戦は?」

「敵空母艦隊の度真ん中へのワープでした」

「カインズ!」

「はい」

「カラカス基地攻略の概要を述べてみよ」

「流星群に紛れての揚陸戦闘機による奇襲攻撃です」

「二つの作戦がいかにして大成功したか。パトリシア、その要旨を述べてみよ」

「はい。いずれの場合も敵が予想もしなかったというよりも、不可能と判断していた進撃ルートをとったからです」

「その通りだ。人が常識的に不可能と考える場合でも、果たしてそれが本当に不可能なのか? と再考慮するところから作戦ははじまるのだ。不可能と思われている事柄の中にも、どうにかすれば可能にすることはできないか? 常識に捕われていてはいけないのだ。……そもそもキャブリック星雲に向かったのはいかなる目的だったかな」

「訓練でした。未熟な将兵や落ちこぼれといわれていた者達が多く、寄せ集めのできそこない部隊と蔑まれていました。それを再訓練することによって一人前の将兵に鍛えることでした」

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