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銀河戦記/鳴動編 第一部  作者: 神崎理恵子
第一部
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第七章・不期遭遇会戦 Ⅲ

 艦橋に再び姿を現したアレックス。

「よし。ウィンザー中尉、ここまでよくやってくれた。及第点だ。後はわたしがやる。かわってくれ」

「はい」

 アレックスに指揮官席を譲るパトリシア。スザンナも艦長席へと戻っていく。

 ひと呼吸おいてから、毅然とした表情で発令するアレックス。

「全艦に告げる。これより、当初予定の作戦を変更する」

 え? というような表情でいぶかしがるパトリシアにお構いなしに指令を下すアレックス。

「全艦、艦首発射管一号から四号、魚雷発射準備だ。発射角度十二度、雷速を五分の一に設定せよ」

「雷速を五分の一に落とすのですか?」

 オペレーターが、指令を聞き正した。

 雷速を五分の一に落とすということは、戦艦と同速度で魚雷を発射することである。発射された魚雷は、母艦を離れることなく寄り添うように進むことになる。オペレーターが聞きただしたくなるのも当然であろう。

「復唱はどうした!!」

 しかしアレックスは毅然として怒鳴った。

「わ、わかりました。全艦、艦首発射管一号から四号まで魚雷発射準備。発射角度十二度、雷速五分の一に設定します」

 オペレーターは、復唱した指令を各艦に伝達した。艦隊リモコンコードを使用していれば、指令を暗号コードにして発信すれば一瞬にして済むことであるが、コード使用を禁じている部隊においては、いちいち口頭による伝達と確認復唱を繰り返さねばならない。伝達を終えるが早いか、各艦の艦長から即座に反問が返って来る。

「ちょっと、待て。雷速五分の一とはどういうことだ?」

「いちいち聞き返さないで、言われたことを実行してください」

「理解できん。司令を出してくれ」

「これは、司令からの直接命令です。変更はありません」

「馬鹿野郎!」

 艦橋内に突然怒号が響き渡った。

「何度言ったらわかるんだ。五分の一と言ったら五分の一だ」

 艦長のスザンナ・ベンソン中尉が電送管を通して魚雷長に怒鳴っている。ミッドウェイ宙域会戦からその操艦の腕前を買われて、アレックスの坐乗する指揮艦の艦長を務めているのだ、その人となりを知り尽くしているから、微塵の疑いも持っていない。

 正式型式名称、ハイドライド型高速戦艦改造Ⅱ式。かつて廃艦の運命にあったじゃじゃ馬も、フリード・ケースンとレイティ・コズミック二名の連携によるシステム改造によって、共和国同盟軍最速にして最強の戦艦に生まれ変わっていた。その艦長としての誇りと自信がスザンナ・ベンソンを動かし、アレックスに対しては忠実なる部下の一人として、旗艦サラマンダーの要人となっていた。

 各艦の魚雷発射管室では、発射管制員が指令に従い魚雷の雷速調整を行いつつも、不満をもらしていた。

「おい、おい。聞いたかい。雷速五分の一だとよ。それじゃ戦艦のスピードと同じだぞ」

「つまり発射してもミサイルと一緒にお付き合いしたまま進行するということだよな」

「上は一体何を考えているんだろうか」

「魚雷長も魚雷長だよ。なんで簡単に承服しちゃったんだ」

「しようがないよ。魚雷長、艦長に頭上がらないんだ」

「なんで?」

 急にひそひそ声に変わっている。

「ここだけの話し、艦長に借金がしこたまあるんだとさ」

「そ、そうなんだ……」

 魚雷長に視線を集中させる魚雷発射管制員。


「全艦。艦首魚雷発射準備完了しました」

「よし。第一列陣から順列順次に、魚雷発射と同時に急速右転回、全速前進でキャブリック星雲を右側に迂回コースをとる」

 立方陣で進む部隊のまず最前列が魚雷を一斉発射すると右へ急速転回して離脱する。その後に第二列陣が続き、第三列以降も同様に次々と魚雷を発射しては右転回していく。結果、当初の作戦コース上を雷速五分の一で突き進む魚雷群と、それらを左舷に見る位置方向へ転回し全速前進で星雲を迂回するアレックスの部隊という、二つの隊列に別れて進行することになる。これは艦隊リモコンコードを使用しないからこそ出来る芸当であった。

「全艦、魚雷を発射して当初作戦コースを離脱、キャブリック星雲を迂回するコースに乗りました。脱落艦はありません」

「よし。艦首発射管に魚雷再装填せよ。雷速を通常に戻せ!」

「了解。艦首魚雷発射管、再装填急げ。雷速、マキシマムスピード!」

 パトリシアが質問を投げかけてきた。

「お聞かせいただけませんか」

「作戦を変更した理由か?」

「はい。作戦立案をまとめた者としては気になってしかたがありません」

「だろうな。だが今は説明している暇はない。いずれわかることだ」

 その言葉が終わらないうちにオペレーターの報告が入る。

「魚雷群、まもなく星雲に突入します」

「よし。こちらも星雲に突入するぞ。全艦、コースターンだ。取り舵一杯、左九十度転回。最大戦速で星雲に突入する。全艦に、戦闘配備発令」

 報告がある度に、次々と指令を出し続けるアレックス。

 これはただ事ではない!

 という雰囲気が艦橋を覆い尽くし、次第に緊迫感を増していく。

「取り舵一杯、左九十度転回」

「最大戦速」

「全艦、戦闘配備」

 矢継ぎ早の発令に、艦橋オペレーター達も息つくひまもない。

「キャブリック星雲に突入します」

「前方に重力反応!」

「やはりいたか」

「はっ。この反応からすると、おそらく敵艦隊かと」

 艦橋にいたオペレーターのほとんどが息を飲んだ。

「パネルスクリーンに前方拡大投影せよ」

「前方拡大投影します」

 しかし、スクリーンには濃密な星間ガスの渦が広がっているだけであった。

「やっぱりだめですね……」

「わかっている。全艦に発令だ。訓練体制から実戦体制に変更!」

「はい。直ちに実戦体制での戦闘配備発令します」

 パトリシアやゴードンら参謀達が驚愕している。訓練航海のはずが実戦になってしまったのだから。まさか星雲の中に敵艦隊が潜んでいたなどとは予想もしていなかった。

「訓練ではないことを繰り返せ」

「全艦に伝達。訓練体制は解除された。実戦体制での戦闘配備に移行する! これは訓練ではない。不期遭遇会戦である。実戦体制での戦闘配備。繰り返す、これは訓練ではない。実戦である」

 アレックスが発令すると同時に艦内に警報が鳴り響き、慌てふためいて将兵達が駆け回っている。

 部隊全般を指揮するアレックス達のいる統合司令室の階下では、スザンナ・ベンソン艦長が各部署への適確な指示を出していた。

「原子レーザービーム砲への回路開け」

「原子レーザービーム砲の回路開きます。BEC(ボーズ・アインシュタイン凝縮)回路に燃料ペレット注入開始」

「レーザー発振制御用超電導コイルに電力供給開始」

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