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銀河戦記/鳴動編 第一部  作者: 神崎理恵子
第一部
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第四章・情報参謀レイチェル Ⅴ

V


 数日後。

 ダウンタウンの界隈を散策するアレックスとレイチェルの姿があった。

 レイチェルはワンピースに身を包んでアレックスの腕に自分の腕をからませて、まるで恋人風気分といった感じであった。

「彼はこの建物の地下にいるはずです」

「地下への入り口は?」

「裏手から入れるようになっています」

 二人はビル脇の狭い通路から裏手に回った。

「しかし汚いなあ」

 足元には空き缶などのごみが散乱し、壁には雑多なペイントの落書きで埋め尽くされていた。

「ダウンタウンですからね」

「君はこういうところに頻繁に出入りしているのか?」

「まさかあ……特別な時だけですよ」

「だろうね」


 中へ入った途端、背後の扉が閉められて、逃げられないよう扉の前に塞がるように男達が立ちはだかった。

 見た目にも柄の悪い、危ない雰囲気の連中が、二人を取り囲んだ。

 その群れをかき分けるようにして、見知った顔の男が現れた。軍のシステムにハッカーしてきたあの男、ジュビロ・カービンである。

「よく来たな英雄さん。ところで俺からの贈り物は届いたかね」

「ああ。さすがだな、あのカウンタープログラムを看破してくるとはな」

「俺の腕前を試したようだが、あれくらいのカウンターで神出鬼没のこの俺を排除しようと考えるのは甘いな」

 ジュビロに案内されて奥まった場所にあるテーブルに着席する一同。

「君の腕前には感服した」

「だてにハッカーを何年もやってはいないさ。さて……要件を聞こうか」

「レイチェルから大まかな事情は聞いていると思うが、君のそのハッカーの技量を貸してほしい」

「で、目標は?」

「これが企画書だ。目標はそこに記されている通りだ」

 アレックスは企画書を差し出した。

 ジュビロは企画書を受け取り、内容を確認して驚いて言った。

「こ、これは……!」

 なおも企画書を熟読を続けるジュビロ。

 やがてポトリと企画書をテーブルの上に放り出して尋ねた。

「内容は了解した。しかし、本気でやるつもりか」

「もちろんだ。どうだ。ハッカーとしてのその腕前を存分に発揮してみたいと思わないか?」

「確かに。この目標にアクセスできるならば、やってみる価値はある」

「まだ誰一人として侵入した者がいないそうですわね」

「そりゃそうさ。完全に外部から遮断された独立コンピューター系が支配しているからな」

「そうでしたの?」

「あたしにも読ませてよ」

 仲間の女性の一人が企画書を読もうとしたが、

「だめだ!」

 と叫んでジュビロが企画書を取り上げた。

「なにすんのよ」

 いきまいて怒りだす女性。

「決まっているじゃないか。この計画は、極秘理に進行させなければ意味が無い。なにせ何十年かかるかわからない計画だ。直接の当事者以外知られてはいけないのさ。どこから計画が洩れるか判らないからな。おまえもハッカーの一人ならわかるだろう」

「そりゃそうだけど……」

 しぶしぶながらも納得して同意する女性。

「彼が危険を冒してまで、直接この俺にアクセスしてきたのもそのせいだ。な、そうだろう、アレックス君」

「まあね……」

 アレックスは、さすがに切れる男だと察知した。企画書に一度目を通しただけで、遠大な計画の全容を把握している。


「だが、どうやって目標に接触するつもりだ。この計画を実行するには、目標に直接アクセスする必要がある。いくらこの俺でもそれは不可能だ。現状ではどうにもならんぞ」

「今はまだ、不可能だが、いずれそれを可能にしてみせる」

「どうやって? どう考えても今のおまえには実現できないだろう」

「今はまだ何とも言えない。今後の情勢によって臨機応変というか、多分に未知数が多過ぎる。ともかく、この計画は同盟の将来を左右する重大な作戦となることは確かだ」

「ジュビロ、受けてたってやってやろうじゃない。何だかんだ言ってこの人はあたし達に挑戦しているのよ」

「そうだ。俺達のハッカーの腕を試そうとしている」

「同盟の将来がどうなろうと、俺達の知ったこっちゃない。だが、不可能といわれる巨大なシステムに対してチャレンジするのは、ハッカーの夢だ。いいだろう、依頼を受けようじゃないか」

 ジュビロは立ち上がって、承諾の意志を表すように握手を求めて来た。それに応じて同じく立ち上がって手を差し出すアレックス。やさぐれに囲まれているこういった状況の中で、手を塞がれる握手に応じることは、相手を完全に信用するという意志表示でもある。


「ともかく目標の情報が極端に不足している。皆目といっていい。情報はそっちの方で手当してくれるのだろうな」

「それは軍の情報部に働きかけてみよう。そういった方面は軍のほうが専門だからな。軍が収集した情報を、君達に直接流せないが、好きなだけハックして取り出すがいい」

「ハックして取り出せだと? 言ってくれるぜ」

「君達なら、雑作ないことだろう」

「それはそうだが……。司令官殿がこんなことして、事態が表面化すればスパイ容疑で軍法会議にかけられるのではないか」

「それは間違いないだろう。だが、同盟が存続してこその軍隊であり、司令官の地位があるのだからな」

「まあいい。ともかく協力すると約束しよう」

「ジュビロ、ありがとうございます」

「とはいっても、目標のシステムのOSすら判明していない。その概要を把握しカウンタープログラムをかいくぐって侵入する手だてを確立するのには、それなりの周到なる準備が必要だ。軍の情報部の活躍次第というところだが、解明には軍部の総力をあげても数年掛かるかもしれないがな」


 数時間して、地下室から出てくる二人。

「さて、まだ時間があるな」

「せっかく二人で出てきたのですから。これからデートってのはいかがでしょう」

 といって微笑みながらアレックスの腕に、そのか細い腕をからませた。

「そうか……、それもいいかもしれないな」

「うふふ……」

 ダウンタウンのビル街の谷間を、寄り添って歩きだす二人であった。

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